大番長・西欧編 

斬真 狼牙(1)



「おっ、何だかいい匂いだな」

ハルの部屋の前を通った狼牙は、その匂いにつられ、部屋の中に足を踏み入れた。

「あ、狼牙さん。どうしたんですか?」
「いや、なんか良い匂いがしたんだが……その格好は?」

テーブルには焼きたての菓子、ミスティが美味しそうにそれを頬張る傍ら、ハルはエプロン姿で新しい菓子を運んでいる。

「ええ、ちょっと趣味で、お菓子作りを」
「ハルのアップルパイって、すっごく美味しいのよ」

ミスティがニコニコ笑顔で、そんな事をいう。
狼牙は、いそいそと立ち回る、エプロン姿のハルをまじまじと見、ぼそりと言った。

「しかし、こうしてみると、どっちが女なのか分からんな」
「むっ、それって私が女らしくないって事?」

不満そうな表情をしたミスティだが、ハルの姿を見て、なにやら思うところがあったのだろう。
それ以上言うこともなく、再びお菓子をつまんでいた。

「狼牙さんも、いかがですか?」

セイロンティーの入ったポッドを運びつつ、ハルは狼牙にそう聞く。
狼牙はしばらく考えたが、一つ息をつくと、首を振った。

「いや、今はいい。それより、久那妓を見なかったか?」
「いえ、僕達はずっと部屋に居ましたから」
「そうか、邪魔したな」

そう言うと、狼牙は扉を開けて、部屋を出ていった。

「ローガとクーナって、恋人同士なんだよね」
「どうしたの、ミスティ?」
「ローガって、けっこう女の人にちょっかい出すタイプだと思うの。クーナは何であんな人を選んだろ?」

その言葉に、ハルは少し考え込む。

「多分、そういうところを含めて、狼牙さんなんだと思う。久那妓さんは、全部わかって選んだんだと思うよ」
「ん……」
「相手の良い所、悪い所、全部分かってるから、あの二人はあれだけ信頼できるんだと思う」

ハルもエプロンを外し、席に座る。
自分の焼いた焼き菓子を口にし、納得したように頷くハル。

「そういうものなのかな……?」

今ひとつ、納得できない表情で、ミスティは首をかしげた。

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