第3者的噂話
 ハリーの帰省には、必ず、その親友達の訪問がついてくる。
 最初は、ホグワーツであった出来事の報告をしてくれるのだが、仕舞いには、某教授に対する愚痴になってしまうのは、まぁ、愛嬌というものだろう。
「大体、パパとのいざこざを、グリフィンドールにぶつけることないじゃないか」
「大人気ないわよ」
「でも、結構、真面目に教師をしているよ?」
 リーマスは、旧友のあまりな言われ様に、多少の同情を感じ、それなりの弁護をしてみたのだが。
「何処がですっ」
 3人と、1人に、あっさりと否定されてしまった。
 何も、リーマスが困ることでもないのだが、自分の教師時代を顧みるに、セブルスは文句のつけようがない程に、真面目に教師という職業をこなしていた、その事実を知ってしまっただけに、なにか、こう、義務感、あるいは、使命感のようなものが芽生えてしまっている。
「学生時代から、教師になる為に、頑張ってきてたんだし。あれだけ、真面目に生徒のことを考えてる教師もほかにいないと思うけど」
 3人にまたもや、反論されてしまった。
 本当に、セブルスの教師としての努力を全く理解されていない、本人も理解されたいとは思っていないだろうけれど、哀れな存在である。
「よく考えてごらん。彼は、クディッチの審判が出来るんだよ」
「それが、何の関係があるんです」
「若い教師だって、だけでしょう?」
「いくら、校内の非公式の試合と言えども、マダム・フーチが、無資格の教師に、審判をさせると思うかい。で、結構大変なんだよ、審判の資格試験って言うのは。
 それをわざわざ、取得しているんだよ、彼は」
 その資格を保持していると知った時に、リーマスの受けた衝撃は相当なものだったのだが、子供達には、今ひとつ伝わらなかったようだ。
「でも、グリフィンドールへの嫌がらせは、事実です」
「あの位、わたしたちの時代にもいたし。ねぇ、シリウス?」
 話を振るついでに、見てみれば、話題がセブルスの擁護話になった途端に、だろう、そっぽを向いているといった子供っぽい真似をしている。
 リーマスが、見ていることに気付いたのか、慌てて、座りなおして、頭の中では、聞き流していた話を思い出すのに、フル回転しているのだろう。
「・・・・・・そうだが、あれは・・・」
 最後まで言わせずに、その原因になったことも、その対処法も、子供達に聞かせるには、悪影響が及ぼされる危険性がある。仮にも教師だった立場で、それを話すのは、躊躇われる。
「そういう訳で、そういう教師は、どの時代にも必ず1人はいたし。
 そもそも、ハリーに対するいじめは、愛なんだよ」
 リーマスの主張に、同じような怪訝な顔をする子供達。
「そう、愛だよ。
 奇跡の子供に、誰が、強く出ることが出来る?事実、ハリーは、誰が見ても特別な子供だった。その中で、セブルスだけが、普通の生徒のように扱った。
 ネビルも、そう、だね。上手く魔法を使うことが出来ないでいた彼に、魔法を使うことなく学べる魔法薬学を、習得させることで、自信を持たせたかったんだよね」
 それは、彼なりのロングボトム夫妻に対する、敬意の表れなのだけれど。
 それを受ける本人と、周囲の人間には、どう見ても、出来の悪い生徒に対するいじめでしか、ない。
「そんな、人間じゃありません」
 子供達には、ホグワーツの生徒達には、判って貰えない。
「そういうけれど、ね。じゃ、ドラコに対する仕打ちって、何だと思う?」
「えこひいき。ソレにあれって、仕打ちじゃない、・・・と、思います」
 教師に答えるような口調に、何時までたっても、子供達の中では、ルーピン先生なのだと、ちょっと悲しく思いつつ。
「仕打ち、だと思うけど。ホグワーツは、学ぶべき場所なんだよ。そんな中で、本来学ぶ筈のない魔法を教えてくれるのが、えこひいきで。彼のような、特別扱いは学ぶ権利を奪い取っているんだって思わないかい」
 マルフォイ家の後継が、あの程度の駆け引きで満足している現実を知った時には、リーマスは本気で、マルフォイ家の今後を愁いたものだ。
 もっとも、彼が当主になる日まで、今のマルフォイ家を存続させる気は、リーマス個人には、全くない。過去の様様なお礼も込めて、機会さえあれば、没落の憂き目に遭ってもらおうと、誓っている。
「先生って、スネイプのことをよく知っているんですね」
「まぁ、友達、だからね」
 今現在、相手が、どう思っているのか、全く不明だけれど、確かに、学生の頃は、間違いなく友人だった。
 隣で、ごそりと動く気配がする。

「おまえ達、暫らく、席を外せ。2階にでも行っていろ」
 なにを子供相手に凄んでいるのやら、と呆れつつ。
「いいよ、ここにおいで。
 シリウス。昔から言ってるよね。きみにはきみの友人がいて、わたしにはわたしの友人がいるって。わたしの交友関係は、わたしのものであって、いくらきみが気にくわなくっても、口出しをしないって」
 だから、セブルスについて語るリーマスに、気分を害するのは、まだしも、実力行使をしようなどとは、子供達を追い出す以上、口論だけで済ます気はないと簡単に予測できる。お門違いというものだった。
「シリウス、終わったら、声をかけてね」
 なのに、ハリーは、さっさと、ロンとハーマイオニーを促して、ソファから立ち上がってしまう。
「ハリー、いいのか?」
「いいんだよ。これを先にしたのは、先生の方だからね。
 これが、大人同士の話し合いって、奴だよ」
 確かに、その為に、ハリーに席を外されたのは、リーマスの方が最初だが。あの時と、この時とは、状況が違う。しかし、ハリーに説明できるわけもなく。
「先生」
 と、いかにハリーたちをこの場に引きとめるかと、悩ませているリーマスに、ハーマイオニーが、にっこりと笑って声をかける。
「残って、くれるんだね?」
 かすかな期待を込めた質問も、ゆっくりと横に首を振られたら、どうしたら良いのだろう。
「先生、わたし達の事は、気にしないで下さい。ハリーには、絶対に悟らせないようにしますから、心置きなく、シリウスさんと話し合ってください、ね」
 話し合いと、言葉ではいうが、これから先に、リーマスに待ち受ける運命を全て知っている眼差し。『ね』の後に、ハートマークのひとつでもつけそうな勢いといい。本当に、彼女は、賢い魔女だ。
 階下で繰り広げられる筈の出来事を、あっさりと、認められる年下の友人は、頼もしくもあり、恐ろしくもあり。しかし、この場合の解決にはなっていない。
 最後に駄目押しで、もう一度、にっこりと笑うと、くるりと身を翻し、ハリーたちの元へ駆け出す。
 パタンと、ドアを閉め、子供達は、出て行ってしまう。この場に残った大人2人が、話し合いをすると信じたままに。
 しかし、何時までも、呆然とはしていられない。目の前には、保護者としての立場より、恋人の立場を選択した、大馬鹿がいる。
「ちょっ、ちょっと、シリウス。判ってる?上には、ハリー達がいるんだよ?」
「遮音魔法をかけるから、平気だろ?」
 全然、平気じゃないよ。泣き出したくなるが、全ての原因が、旧友を擁護しようとした自分にあると思うと、もう、笑うしかないではないか。


 階段の途中で、
「ハーマイオニー。先生に何をいったんだい?」
「先生に、素直になってくださいって。話し合うべき時に変に意地を張ってると、不幸になるって教えくださったのよ」
 多分、あそこで行われるのは、話し合いではないだろうけれど、先生がもう二度と、後悔で過ごす人生を送らないですむほうが幸せなのだと、納得することにした。
  そして、養い子には、絶対に気付かれないように、陰ながら支援するのが、友人として、くすぐったい響きだ、当然の行為というものだろう。
 ハーマイオニーの話を取り立てて、不思議に思わなかった友人達に続き、ハリーの部屋に入っていった。
教授の擁護話。
S教授が、真面目だったのではなく
L教授が、不真面目だったのです。
比べられるのも、迷惑な話でも、あります。
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