楽園
 夢を見ていた、今更、傷つかないような夢を
彼の声。
抱き締めてくる彼。僕は、彼に向き直る。
「多分、約束は出来ないけど、クリスマスは一緒に過ごせるよ」
 彼は、嬉しそうな顔をする。
 それから、急いで、表情を消して。
「あてにしないで待ってるから、だから、早く、ふくろうをよこせよ」
 一言を告げる度に、僕に口付ける。
 抱きしめる腕に力がこもる。
 夢は、裁かれる事のない僕の罪を突きつける
 僕の犯した罪を、裁く者はいないけれど
 確かに、おまえは罪人だと、自分自身が告発する
「そういうこという?床一面のお菓子攻めにして欲しいんだ?」
 一瞬の苦い顔。
 にやけきった顔に変わる。
「で、俺達は立つ所すらなく、菓子がなくなるまで、ベッドに避難か。望むところだな」
 彼は笑う、心から楽しそうに。
「っ!ばかっ!」
 罪人の僕らが、彼らと同じ所にはいけない
 僕は、そこに堕ちるのだから
 だから、僕の罪を彼らに懺悔することすら出来ずに
 僕は、生きている間に、彼らに許しを乞う
 僕の肩に顔を埋めながら。
「驚くものを用意して待ってるから、早く帰って来いよ」
 彼が、見えない。
 彼が、わからない。
「なんか、それ、凄く怖いんだけど、・・・教えてなんかくれないよね」
 顔をあげる。
 笑いかけ、顔が歪み、失敗した。
 僕の大罪は、そこに、こそある
 僕は、罪を犯さなくとも、そこにはいけないのだから、だから
 そこに行く筈だった彼が、僕と同じ所に堕ちてきたことに悦びすら感じた
 僕は、16の命を嘆くより、たった1つの堕ちた、存在を、悦んだ
 彼は、痛みに耐える顔。
「待ってるから、無事に、帰って来い」
 声が、腕が、震える。
 ごめん、僕は、そこにはいけないから、きみ達に謝ることも出来ない
 きみ達に会いたいと、望んだことすらない僕は
 穢れた生き物に相応しい所に行くから
 だから
 ごめん、赦して欲しいと望むのは冒涜
 近くなる、彼の顔。
 一瞬の暗闇、彼が見えなくなる。
 再び、離れる彼の顔。
 抱きしめてくる腕が緩む。
 彼が、離れる。
「うん、待ってて、じゃあ、行ってくる」
 彼は、笑ってくれた。
 そして、手を振る。
 いずれ
 きみは、僕のところにやってくる
 きみが望んだ形ではないけれど、僕らは永劫、そこにある
 それが、僕らの最後だった。
 僕は、楽園に、堕ちる
戻る