きみの隣で眠らせて 2
 もう毎朝のことで驚くことでもない。
 ないんだが、多感なお年頃には、ちょっーとばかり刺激が強い。
 しかし、これ、を刺激と感じなくなる日がくるのか?本当に来てもいいのか?
 俺は、密かに、非常に、その日が来る事を恐れても、いる。

「リーマスッ!」
「ナニ?」
 俺と違って寝起きの良いこいつは、実は俺が名前を呼ぶ前から、俺が起きかけて身じろぎをした瞬間に起きたことを知っている。
 だから、この「ナニ」は、寝惚けじゃなくって、しらばっくれなんだ。
「ナニじゃないだろ、ナニじゃ。
 どうして、毎晩、毎晩、俺ン所で寝てんだよ、おまえは」
「あったかいから」
 当たり前のような言い訳に、俺は哀しくなってくる。俺はあんかか?湯たんぽか?おまえにとっての俺って一体・・・
「あったかいから、じゃ、ない。
 俺が毎朝どんなに驚くのか、おまえは、判ってないだろう?」
 例え、人間扱いされていないと判っていても、隣に無防備な寝顔があるってだけで、かなり、くる。それが、いい加減慣れそうな程、毎日でも、結構、くる。
 リーマスだから、くる、んであって、これが、ジェームズでも、ピーターでも、蹴り出して終わりにできる。相手がリーマスって事に問題がある訳で、つまり、俺が、憎からず思っている相手であるってことが、問題を複雑にしている。
 多分、いや、自分自身に見栄を張るのは、やめよう。絶対にリーマスは、判っちゃいない。
 リーマスが男子寮で寝起きしている以上、間違いなく男で、俺も同じところで寝起きしているんで、間違いなく男である。リーマスの頭の中では、その時点で、恋愛感情が発生する関係とは、夢にも思っていなくて、ましてや、毎晩、暖を求めて、忍び込むベッドの持ち主が、自分に、恋愛感情を持っているとは、考えたこともない現実で。
 おかげで、最近の俺の寝起きの素晴らしさといったら、リーマスすらも抜いてダントツ1位だ。ンなもん、嬉しくもない。

「シリウス、安眠妨害だ。僕は、おまえを訴えたくないんだ、少しは静かにしろ」
 いつの間にか、中に入ってきたのか、この状況を正しく把握しているくせに、朝の挨拶にしたら、随分なことを言い出す親友!
「なら、原因は俺じゃない、こいつだ」
 だから、こいつを訴えろといったつもりだが、あの凶暴女を世界の中心に据えている男は、暴力女の親友ににこやかに話し掛ける。
「リーマス、おはよう。よく眠れたかい?」
 今更、こいつに、男の友情をとやかく言う気もなくしている、が、それはあまりに酷くないか。
 それに対し、全く、悪びれないリーマス、なんか、俺の趣味ってサイアク?
「もぉ、朝まで、ぐっすり」
 ・・・・・・そうだ、ふてぶてしくなった最近のこいつときたら、俺が寝付くのを見計らって、最初から入ってくるんだ。あぁ、そうだよ、リーマスが悪いんじゃない、一度寝たら、朝まで起きない俺が悪いんだよ。
「なら、良かった」
 ジェームズ、おまえってそういうヤツだよな。
「全然、よくねェよ」
 被害者の存在を無視して、話を進められていく危険性が大、というのは、どういうんだ?

 2年前のあの日、初めてリーマスが俺のベッドに寝惚けて入って以来、冬になるとリーマスが暖を求めての移動は、もう風物詩となっていた。
 ある朝、リーマスが俺の所で目を覚ますと、誰ともなく、ああ、冬が来たんだ、とほのぼのと呟く。そういう世界がこの部屋には広がっていた。
 それも、俺がリーマスに対する恋愛感情を自覚するまでのことで。
 普通の健康な男子学生が、好きな子と一緒のベッドで一晩過ごすなんて、拷問だぞ。だから、協力しろと。ジェームズに愚痴をこぼせば。
 普通の健康な男子学生には、そういう貴重なチャンスは巡ってこないんだよ、シリウス。だから、その貴重なチャンスを得られたことに感謝をするべきなんだよ、と、全く取り合わない。
 俺の人生って、絶対に何処かで間違えたぞ。
 何処でだ?と問えば、そりゃ、ジェームズと親友になっちまった所とか、リーマスが、同期になった所とか、ほんとに俺の人生って。
 しみじみと人生を噛み締めてると、そろそろとは思ってたが、残りのもう1人がやってきた。

「シリウス、うるさいよぉ」
「てめぇは、寝てろっ」
 寝起きの悪さでは、俺と同率1位だった、リーマスが入り込むようになるまでの、過去の栄光を分け合ったピーターにまで、言われると俺の立場ってもんがなくなる。
「ピーター、おはよう。
 もしかして、僕の所為?」
 判っているじゃないか、リーマス。しかし、ピーターもジェームズと同じだった。
「ううん、シリウスの怒鳴り声だもん」
 同じ事をジェームズに言われるのと、ピーターの方が、何倍もイラつくのはなんでだ?
「だから、それはっ。結果であって、原因はこいつにあるんだ」
 だから、俺の為にも、この部屋の安眠事情の為にも、おまえが一人で寝てくれれば、平和なんだ。リーマス、頼むから判ってくれよ。
「僕らが、起こされたのは、おまえの声に、だ。だから、原因はおまえだ」
「だいたい、シリウスは何で今更怒ってンの?」
 時々、具体的に言うのなら、1日に10回は、やたらとピーターを殴りつけたくなる。例えば、今みたいな状況だ。判ってんだか、判ってないんだか。
「そおだなぁ、リーマスの寝惚けは今に始まったことじゃないっていうのに」
 ジェームズ、これを寝惚けというのか、おまえは。この確信犯で潜り込みにくるやつを。
 この男は、何で俺がリーマスを追い出したがっているのか、充分にしっかりと判っているのに。
「だって、シリウス、何時でも潜り込んでいいって、いってくれたじゃないか」
 リーマス、おまえは覚えてないだろうけどな、俺は言葉にはしなかった。言葉にしたのは、俺じゃない。この人間の皮をかぶった悪魔がいったことなんだ。
「発言者に責任を取らせろよ、リーマス」
「ジェームズにってこと?駄目だよ」
 にっこりと笑いながら、時々、本当に時々なんだが、こいつ、実は俺の気持ちなんかとうの昔に気付いてて、遠まわしの拒絶をしてんじゃないかと、思う時がある。そのすぐ後、自分のあまりに馬鹿馬鹿しい妄想加減に泣きたくなるのだけど。
「シリウス、僕は、リリーに恨まれたくないんだ」
「・・・・・・俺にならいいのかよ」
 ジェームズには駄目で、俺は平気?だいたい、そこに何でリリーが出てくるんだ。
「だって、シリウスに決まったガールフレンドっていたっけ?」
 やっぱり、こいつは判っちゃいない、おまえに惚れてる俺に、どうして、ガールフレンドが出来るんだ?
 って、どうしてそれを俺にじゃなく、ジェームズに聞くんだ、おまえは。
「ほら、だって。一緒のベッドで寝ちゃうなんて、彼女達もやったことないのに。やっぱり、申し訳ない、でしょ?」
「だよな、3日で別れるガールフレンドに義理立てする必要はないよねぇ?」
 リーマスにいらんことを吹き込むな。誰が、3日で別れるって?どれがガールフレンドだ?
 反論したくても、朝から、ランランと輝くこいつの目が怖くって、何もいえない。
 ここで、こいつの機嫌を損ねたら、一体リーマスに何を吹き込まれるか。・・・怖すぎる。
「でも、もし、万が一、ありえないとは思うけど、追い出されたら、リーマス、僕の所へおいで。僕なら何時だって大歓迎さ」
 ケンカ売ってるのか?
 万が一ってなんだ。
 俺が、リーマスを他の男と同じベッドで寝かすような、そんな馬鹿な真似をするわけがないだろうがっ。
 僕のところにおいで?大歓迎?
 おまえの大事なリリーに、リーマスをたぶらかしていると吹き込んでやろうか?
「だからぁ、リリーに、悪いってば」
 笑いながら、ご丁寧にご辞退申し上げているリーマス。
 それは、本当にリリーに悪いと思っている、だけ、なんだろうか。
「リーマス、・・・・・・リリーなら喜んでジェームズを差し出すと思うよ?」
「ぴいたあ、ナニを冷静に正論を言ってんだ?えぇ?なんか、楽しいかっ!」
 今度は我慢なんぞしなかった。心ゆくまで、ピーターを殴ってやった。
「そっか・・・・・・でも、いい。
 僕が、リリーに申し訳なくって」
 暴力横暴、暴力反対だのと騒いでいるピーターに目もくれないで、淡々とジェームズとだけ、話を続けていたリーマスに、薄ら寒いものを感じるが。
「俺は、いいのかっ。俺はっ」
 ピーターと同じに、俺まで無視をすることはないだろう?
「残念だな。
 でも、リーマス。僕は何時だって歓迎するって事だけは、覚えていて欲しいな」
 おい、こら、待て。
 当事者を置いて、話をまとめてんじゃねぇよ、ジェームズ。
 リーマス、おまえもだ。俺のベッドの上で、他の男と仲良く話しこんでんじゃない。
5年生の話。

どうもこの辺りから、シリウスは自覚したらしい。
で、実際に行動を起こすのは・・・・・・
シリウスは、本当に健康な男子なのか?
という、ツッコミはご遠慮ください。
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