きみの隣で眠らせて 1

「っ!」
 慌てて、口を押さえる。
 起こして、ないよな?そっと覗き込んだ先には、気持ちよさそうに、ぐっすりと眠っているリーマスがいる。

「シリウスッ!」
 リーマスを起こさないように身じろぎ一つ出来ないでいた俺のベッドの中へ、大声をあげて入ってきたのは、ジェームズだった。
 しーっ!と、人差し指で、黙らせようとする俺に、理由もわからずに、とりあえず従ってくれたジェームズに。俺だって、こいつが何で朝から、この俺に用事があるのかが、理解できない。
「なんだ?」
「へ?おまえ、何で、起きてるんだ?」
 目をまん丸にして、驚くことなんだろうか?そりゃ、確かに普段は、俺の目覚ましで、全員が起こされるという、超強力目覚し時計のお世話になっているけど、たまには俺が起きてたって、不思議はないだろう?
「起きてて、悪いのかよ」
 そもそも、起きてない奴に用事があって、叩き起こす覚悟で、カーテンの中に入ってきたのは、おまえだ。
「起きぬけのおまえと会話が出来るなんて、初めてのことだぞ?何があったんだ?」
 さり気ないジェームズの指摘は正しい。確かに、何かが、あったことは、あったさ。そうでもなけりゃ、起きてるわけもない。それは俺だって、認める。
「っ、違うっ。おまえの馬鹿に付き合ってる時間はないんだっ」
 と、先に馬鹿な、俺の寝起きの悪さがそんなに馬鹿なことなのか?な話題を振ったジェームズが、慌てて修正を仕掛けるが、いや、だから、こいつが慌てることが思いつかない。
「リーマスがいないんだ」
 なんだ、そんなことか。かなり、安心した。こいつが朝っぱらから、何を仕出かしたのかと、ちょっこと心配していた。
「いるぞ?」
「何処にっ!」
 ささやき声で怒鳴りあう俺達にも起きる気配のない山と、それを指差す俺を等分に目に入れながら。
「リーマス?」
 信じられないとその声は言っていた。

 いや、だって、朝起きたら、リーマスのベッドはもぬけのからだったし、って、こいつ毎朝チェックしてるのか?消灯からあと、誰も出て行った気配はないし、普通気付くか?ベッドも冷たかったし、おまえ、そこまでするとなると変だぞ?それは心配したのだと、ジェームズは言うが、俺に言わせると、一言、おまえ、変だ。
「・・・本当に?」
 俺のベッドの半分を占めている山がリーマスだと、まだ信じられない、らしい。
 まぁ、占領されたのが、ここじゃなければ、俺だって、信じられないから、それには何もいわないでおいてやるが。
「なにか、いるとは思ったんだ。きっと、おまえのいたずらだと思ったんだな、最初は。用心しながら覗いたら、いるだろ?もぉ、すっげー驚いた」
 一気に目が覚めた。俺の人生で初めてって位に。
 丸まって眠っていて、うなじに長い鳶色の髪。見慣れてる筈だったのに、それが同室の親友のものだとは全然思いつきもしなくって。
 どうして、女の子が寝てるのかとか。間違って、女子寮の方に入っちまったのかとか、この辺り、起きてるようで寝ぼけていたんだな。本当に、心臓が止まるかと思ったくらいびっくりしたのだ。
 なんにしろ、目が覚めると同時に心臓が止まるっていうのは、遠慮したい出来事ではある。
「シリウス、隣に入られても気付かないというもの、問題だと思うけど?いくら、きみでもね」
「ジェームズ。そういう問題じゃないだろ」
 リーマスが寝てるから、まともに動けない俺を、からかい倒すことに決めたらしい。でもなぁ、心配して損したなら、取立ては、普通リーマスにだと思うけどなぁ、俺。
 そう思ってるのは、俺だけらしい。
「えー、だって、シリウス。つまり―――」
「問題をすりかえるなよなぁ」
「シリウス君ってば、どういう人生を送ってるのか、目に見えるようだよ」
「・・・・・・うるっさいっ」
 ボルテージのあがる声にまぎれて、くぐもった不機嫌なうなり声。
 もしや、これは・・・・・・
 指先でそっと触れたリーマスは。
「ね、てる?」
 俺とジェームズは思わず見詰め合ってしまった。


 珍しいことは続くもので、あのピーターすらも起きだした朝。
 俺のベッドの中で大騒ぎしていれば、毎朝の叩き起こす声でなければなおのこと、つい覗きたくなるのが人間ってもので。それに対しては何もいわないが。
「ジェームズ・・・シリウス?」
 寝惚けたリーマスに、呆然としてしまった俺達3人が見守る中、当の本人のリーマスが起きだした。
 何で、3人に囲まれているのか、ついでにいえば俺はまだベッドの中にいる。判っていない顔で辺りを見回した。
 どうしていいのか、判らないのはこちらの同じで、最初に行動を起こしたのは、ジェームズだった。
「リーマス、ここが何処だか判ってる?」
「ホグワーツ?」
 まだ、少し、寝惚け気味に首を傾げるリーマスがすんげー可愛い。
「もうちょっと、狭い範囲で」
「グリフィンドール塔の男子寮?
 ねぇ、これ何かのクイズ?」
 隣にいる、というか、同じベッドにいる俺にやっと、リーマスは気付いたのか。
「どうして、シリウスがいるの?」
 なんて、ボケたことを聞いてきた。
「俺が、じゃない。おまえが、いるんだ」
 リーマスは、まずピーターを見て、頷かれ。次にジェームズにも頷かれて、自分が他人のベッドで目を覚ましたってことを、やっと認めたらしい。
「ご、めん。でも、何で?
 どうして?確かに自分の所で寝たんだよ。
 それよりも、ごめん。どうしよう」
 動転して、無意味に動き回るだけのリーマスに、哀れに思ったのか、つか、こいつはリーマスにすこぶる甘い。ジェームズが助け舟を出した。
「多分、寝惚けんたんだろう。気にしちゃ駄目だよ」
「ね、ぼけって。シリウスがよくやるヤツ?って、それを僕がやったの?」
「ああ、あれは、寝起きが悪いっていって、根本の違う、別物だよ。だから、気にしちゃいけない、と」
 何故か、リーマスが今しがたやったことより、俺のコトが問題にされているのはどうしてなんだろうか?
 ジェームズには今更期待はしてなかったけど、酷くないか?
「でもサ、リーマスが寝惚けるってコトも凄いけど、他人の側で眠れた、なんて、本当に凄いことだよね」
 ピーターが自分のことのように嬉しそうに言ったことは、確かに、いわれてみればのことなので、俺達4人で頷きあう。
 1年前までのリーマスには、考えられない行動だった。これも、人狼であるコトが俺達にばれて、でも、その上で、俺達は親友でいると、リーマスに認められたからのことで。
「うん、うん、そうだね。僕は嬉しいよ」
 ホグワーツきっての食わせ者が、3年生にして、そう称されることに、こいつの先行きが不安になってくるんだが、親友として。本心から、嬉しそうにいった。あー、ジェームズさん、滅茶苦茶、不安なんだけど、俺。
「リーマス、これならいつでも使っていいから」
 これ、と、ジェームズは、俺を指差し。やっぱりと、俺は項垂れた。
「何時でも、何処でも寝れるようになって、僕らと一緒に魔法史に居眠りもするべきだね」
「できる、かな?」
 かすかな期待を込めた声に、ジェームズはきっぱりと請け負った。
「できるさ。
 その為にも、寝惚けじゃなくって、自分の意志で、隣で寝れる位にしなくっちゃね。幸い、これは、一度寝たら、朝になっても起きないから、実験台には最適だよ」
 ―――その為にも、まず、犠牲になるのは、もしかしなくても、俺か?
 こいつ、今、俺を好きなような使えっていったよな?
 どうして、こう、こいつは、俺のことを無視して、俺のことを自分のことのように使うんだ?
 それに、リーマスの期待に満ちた眼差し。別に魔法史で居眠りをしたい訳じゃないだろうに、その目はなんなんだ。
 で、俺は、ジェームズのことをいえない位には、こいつには甘かった。
 わかったよ、リーマス。気の済むまで、好きなだけ、使えよ。

時は、3年生。
すっかり、人狼とばれて、開き直った後。

日本流に言うと、中学3年生くらいなのに、
油断すると、小学校3年生を想像してしまう。
ジニーちゃんは幼稚園児・・・だし
手元には、年齢換算表なる変なものがある。
そういう間抜けな錯覚を起こすのは、わたしだけですか?
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