確かに、昨夜、やってきたわ。
新婚家庭に乱入、なんて、真似をしたわ。
でも、でも、そんな理由だなんて、誰が考え付くって言うの。
「本当なの、本当に、結婚したっていうの」
誰が、何て、言いたくはないわよ。昨日、やってきたのは、ジェームズの親友にして、このわたしの永遠の仇敵。シリウス・ブラック。って言ったら、相手は、相手は。
「約束したって、いうか。したって言うか。
まぁ、律義者のリーマスにしたら、結婚したようなものだね」
「そういって、聞き流したの。何を考えてるのよ」
「そうは言うけれど、リーマスの為でもあるんだよ」
どこが、あの馬鹿と結婚することの何処が、リーマスの為ですって。
やっぱり、何だといっても、ジェームス。所詮、あなたも男なのね。
「約束した以上、リーマスは、必ず帰ってくる。
人生、生き残る意志をもっていない者が、生き残れるほど、優しくないよ、ホント」
・・・・・・確かに。
その点に関して、リーマスは、信用が置けない、とは、わたしも思っているけれど、だけど、だけどね。
「なら、わたしだって」
シリウスだけに、美味しい思いはさせないわ。
昼間のうちに、ふくろうで時間を連絡して、ただし、ちょっと遅れるかもと、予定時刻の1時間前の時間を告げたのは、シリウスに対するいやがらせ。
連絡した時刻よりも遅刻した、でも、予定通りの時間に、フルーパウダーで辿り着いたリーマスの家は、相変わらずに、実用第一の堅実、質素な部屋で、必要最低限家財道具しか、置いていない。
例えば、部屋の片隅には、ベッドがあるけれど、昼間はソファの替わりに使用される、その上には、クッション替わりの、ま、くら。お、落ち着くのよ。リリー・ポッター。一見、ペアに見えるけれど、深い意味なんか全くないのよ。リーマスの経済観念からして、1ついくらで買うよりも、2ついくらの方が安ければ、そっちを選択するに決まってるじゃ、ないの。大体、枕が2つあるほうが、マシなのよ。1つよりは、よっぽど、健全ぢゃない。
「リリー、平気?」
「大丈夫よ。リーマス」
わたしの眩暈の原因を判っていないリーマスを安心させるように、無理して笑うわたしって、なんて、健気なんでしょ。
「あのさ、リリー。新婚旅行には、行かなかったの」
不思議そうに聞かれたけれど、確かに、わたしたちは、一昨日結婚式を挙げたばかりだけれど。
「リーマスが戻ってきている時に、どうしていかなくっちゃいけないの」
リーマスにも参列してもらいたいが為だけに、この時期に、シリウスの誕生日の後に決めたって言うのに。リーマスってば、たまたま運良く、参列できたって、思っているのね。
それに、新婚旅行なんて、リーマスがいなくなってから、ゆっくり行けばいいだけなのに、リーマスったら、
「もぉ、お、ば、か、さん」
額を指で、突っつくと、シリウスの不機嫌な唸り声が聞こえるけれど、無視よ、無視。
「それは、そうと、ジェームズから、聞いたわよ。あの馬鹿と結婚したんですって」
ベッドに寄せて、どうにか4人分の座る場所を確保しているテーブルの上で、お茶を入れていたリーマスの手が震えてる。
「けっ、こん、っていうか。
えっと、その、なんていうか」
カタカタと音を立てるティーポットが、ついさっきまで、どんな形だったのか、精神衛生上、考えない方がいいことは、知っているけど、その指にあるのは、ナニ。それで、どんな言い逃れをするつもりなの。
「気持ちっていうか。式は、出来ないから、その、けじめって言うか。
いる時くらいは、しておいてくれって、いうか」
ここで、考えなくっちゃいけないのは、わたし達の結婚式が、一昨日。馬鹿犬が、結婚したと報告、惚気にきたのが、昨日。この馬鹿犬が、一体、いつ、マリッジリングを手に入れたのか。そういうところだけは、手が早いのは、一体どういうこと。
「なに、を、怯えているのかしら。わたしが怖いの」
「ううん、そんな、こと」
「そうよねぇ。お祝いに駆けつけた親友を、怖がる必要なんて、ないのものねぇ」
リーマスが、人狼であることを隠していたことを知ったときに、もう二度と、隠し事はしませんと、誓わせたのは、アレは、去年のことかしら。それなのに、わたしに黙って、結婚なんてしてしまって、それが、リーマスの恐怖の原因だけど、リーマスってば、いやね。わたしが、そんなことで、怒ると思っているの。
「で、ね。
わたし、リーマスには、幸福な結婚生活をして貰いたいのよ。
だから、贈り物を持ってきたのよ」
従者のように後ろで立ったままのジェームズに持たせていた、失礼なことに、ジェームズったら、わたしの暴走が、怖くって、いままで、避難してたのよ。それが、名実ともに、妻に対する対応ってわけ。
「まず、これ。
ペアのティーカップ。それと、ティーポット。フライパンのティーポットなんて、使わないでね」
変身術の時間では、よく、ティーポットを亀にしたり、亀をティーポットにしたけれど、実生活で使わなくっても、ねぇ。
「それと、サイドテーブル。毎晩、椅子をベッド脇に持ってくるのは、止めて。これくらいなら、邪魔にならないでしょう」
1つのテーブルに、2脚の椅子、小さい食器棚。洋服ダンスは、トランクが代用。今日みたいに遊びにきた日は、リーマスとシリウスが、ベッドに座って、わたし達が、椅子に座る。何かを、椅子2脚にすることも最初は考えたんだけど、ナニを椅子にするかは、考えたくはなかったけれど、はっきりいって、部屋の狭さがネックになって、椅子代わりのベッドに落ち付いた。
「ちょっと、アンティークっぽく見えるけど、ジェームズの家で使われてなかったものだから、安心してね」
不要品だし、リーマスの趣味ではあるけれど、残念ながら、わたしの趣味じゃ、ない。だから、家から、なくなっても、全く問題なし、なものをわざわざ探し出してきたんだから、受け取れない、なんていわないでね。
「なんか、引越ししたばかりの、生活救援物資って、かんじなんだけど」
「あの、ね。今更、これを贈れる家を顧みなさい」
カーテンとか、こまごましたものをシリウスが、持ち込んだのは知ってる。本当に、必要最低限な家具しか揃えなかったのは、リーマスの性格らしくって。
「おまえ、何か、熱でもあるのか」
人の贈り物に、そう難癖をつけたのが、シリウスで。素直に喜びなさい。このわたしが、認めて、祝ってあげようって言うのよ。
「なに、よ。文句あるの」
「いや、こんな、セオリー通りの贈り物をどうしてだ。何の裏がある」
裏ってなに。うらって。
でも、素直に喜んでいた、恐縮はしていたけど、リーマスは、判っていないみたい。
「知らないのか」
「えっと、ナニ」
「あの、ね。結婚式でとかも言われてるけど、4つのものと新生活を始めると幸福になるって言われてるのよ」
4つと、わたしからの贈り物を指差して。
「そう。
まず、新しいものでしょ」
ティーポットが、新しいもの。
ティーカップは、青くて。
サイドテーブルは、古いもの。
「後は、借りたもの」
「おまえとか、言うなよ。この小姑」
「まさか。でも、それは、邪魔して欲しいって事かしら。
で、これが、借りたもの」
ジェームズから渡された物は、リーマスにも馴染みがあるもので。
「ジェームズ、これ、だって」
「そう、これは、ハリーが、ホグワーツに入学して初めてのクリスマスプレゼントとして貰う物だよ」
何でも、ポッター家の伝統とかで、ホグワーツの伝説になるような無謀なことを仕出かせって、一体、どんな伝統なの、その話を聞いたときに、ジェームズがヘンなのは、ジェームズの所為じゃなくって、間違いなく遺伝。先祖代代ヘンで、きっと、ハリーもそうだと思うと、ほんの少し、怖いのよ。
「だったら、なんで」
テーブルの上に置かれた透明マントを手に取ることもなく、リーマスは、遠慮しているけど
「だから、ちゃんと、返してね。
いいこと、リーマス。これは、ハリーのものなの。無くしたり、あまつさえ、持ち逃げなんて、許さないわよ。
これは、絶対に、持って帰ってくれなくっちゃ、だめ、なの」
「今の僕が持っているより、リーマスの方が、有効利用してくれるだろうからね」
2人がかりの説得に、リーマスが反論できるはずもなく。
「でも、だって」
「リーマス、借りたものは、返すのが決まりよね。必ず、返すのなら、その間、誰が使ってても、同じじゃない」
「そうだよ。
箱の中で、仕舞われているより、ずっと、マシだろ」
わたし達が、透明マントをリーマスに貸す理由が、結婚祝なんか口実に過ぎないことも判っているのに、簡単に受け取ろうともしてくれなくって。でも、口実がある分、リーマスに迫りやすくって。
有形無形の脅しの数十分。諦めたような、どうして、そこで諦めるの、リーマス。
「うん、わかった。
ありがたく、借りておくよ」
「うん、そうそう。
で、大きくなったハリーに、聞かせる冒険話の1つでもおまけにつけて、欲しくもないけど、くれれば、僕らは、満足だから」
ヴォルデモートとの争いに、前線に立っているリーマスに出来ることって言ったら、後方からほんの少しの手伝いしかなくって。結局、リーマス達からして見れば、危険とはいえ、安全な場所からの支援しか出来ないから。
わたし達には、魔法省の協力も手に入る。でも、時として、魔法省とも敵対して、動かなくっちゃいけないリーマスには、ほんの少しの便利な道具を貸すことと、リーマスが生きて帰ることを希望する、約束を取り付けることくらいしか、出来なくって。
判ってるわよ。シリウスが、どうして、リーマスとの結婚に拘ったか。わたしに対するいやがらせなんかじゃなくって。リーマスに帰ってきて欲しいからよ。
約束した以上、リーマスは、シリウスと一緒に生きていく。
だから、必ず、帰ってくる。
でも、ね。シリウス・ブラック。あんただけが、約束できるワケじゃ、ないのよ。
覚えて、おきなさい。 |