今日こそ限界だ。今日こそあいつに一言、言ってやる。
「ジェームズッ!」
俺は確かにジェームズに怒鳴り込んだ筈、だろう?
黒くなる視界の隅でぼんやりと、疑問に思った。
「シリウス、うるさいっ!」
何故、リーマスから枕を投げつけられなくちゃならないんだ、俺は?
「何で、おまえ、ジェームズの所で寝てんだよ」
「きみの所でなんか寝られないからに決まってるだろ?」
リーマスのベッドがないわけじゃないのに、どうして、こいつの頭の中には、自分のベッドで寝るという選択肢がないんだ?
「おまえ、去年まであれだけ来てて、その言い草かよ」
泣きたくなってきたぞ、何で去年までは、追い出しても、追い出しても、やってきてた奴が、あっさり来なくなり、あまつさえ、他の男と仲良く寝ている姿なるものを見せ付けられなくっちゃいけないんだ。
「シリウス、僕がリーマスでも、そう、するね。うん」
起きぬけで、眼鏡を探しているらしいジェームズに、はい、と、差し出すリーマスに、多分、他意はないんだろう、きっと。
でも、どうして、おまえは俺の神経を逆なでするようなコトをしでかすんだ。そんなもんはジェームズに見つかるまで探させとけ。
視力を取り戻したジェームズは、俺の顔に隠しようもなく浮かんでいる、その感情を正しく読み取ったに違いない。ニヤニヤと笑いながら。
「例えば、マダム・ロスメリタとシリウス、きみのどちらと一緒に寝るかと言われたら、僕は迷わず、シリウス、きみを取るよ」
・・・・・・?
「なんの例えだ?」
女と男と、男を取る?
意味が判らん。
長年の付き合いになるんだが、こいつにそういう趣味があったとは、聞いたことがない。逆に、男と添い寝するくらいなら、バーさ、いや、老齢のご婦人を取ると言い出す、根っからの女好きなんだけどな。
「うーん、だよね」
リーマスにも判らない例えだと思ったのは、俺の早とちりだった。
「マダム・ロスメリタの秋波ってすごいもんね。一緒になんか寝たら、まず襲われるよね」
・・・・・・リーマスに理解が出来て、俺に理解が出来なかったってのは、なんか悔しいが。これは、リーマスもそういうコトに考えが及ぶようになったと、喜ぶべきなんだろう。
俺にも少しは望みが見えて来たってことか?
「つまり、そういうことだ、シリウス君」
“そういうこと”?ジェームズがロスメリタに襲われるのと、リーマスがジェームズのベッドに潜り込むのと、どう関係があるんだ?
リーマスを見ると、顔を赤くして、ふいっと視線をそらされた。
「まだ判らないのかい?
リーマスはおまえと一緒に寝たら、襲われると心配して、絶対安心な、この僕の所へと来る訳だ。
僕としては、リーマスにまともな危機回避能力があったことが、大変に喜ばしい」
なにか、俺も嬉しい。
リーマスが俺をそういう対象として意識し始めたってコトだろう?一歩進んだって感じだろ?
「直球で、やりたい、と口説いた人間と一緒にいたくない。至極まともではないか」
「・・・・・・そこまでは、いってないよ」
恥ずかしそうなリーマスに、このまま、この勢いで口説けば、明らかに一歩前進じゃないか?
「リーマス、無理をしなくていいんだよ」
「おい、ジェームズ。何で、おまえがここにいるんだ?」
「忘れたなら、教えてあげよう。ここは僕のベッドなんだよ」
「違う、この場の雰囲気をよんで、場を外すくらいの心配りってもんをみせろよな」
おかげで、リーマスが何時ものボケに戻ってしまった。
「ああ、そういうコトか。僕のことはオブザーバーだとでも思って気にしないでくれ」
ジェームズ、流石に、そこに他人がいると判っていて、リーマスを口説ける程、俺は、おまえのように人格崩壊はしていないんだ。いや、その前に、リーマスが逃げ出す。
「手を貸した以上、最後まで見届ける義務があるし、な」
見届けるなら、リーマスに配慮して、物陰からそっとにしてくれ。
そもそも、“手を貸した”ってなんだ?覚えている限り、俺はさんざ、邪魔をされ、馬鹿にされた覚えしかないんだがな。それを手を貸したとは言わせないぞ。
「シリウス、本当に、おまえは。
リーマスに告白すると息巻いていた、おまえの為に、ピーターを足止めしてあげていたじゃないか。
これは、一生恩にきてくれても、いい位だよ」
確かに、それを頼んだ覚えはある、あるが、それは。
「その前の貸しの取り立てだった筈だろ?」
だから、それを恩着せがましく言われる筋合いは全くない。
「わかってないなぁ。あの恩は、あの借りの何倍に相当すると思うんだ?借りを超えた分は、こっちの持ち出しだぞ?
リーマスもそう思うだろ?」
なぁ、と、隣にいるリーマスに同意を求めたが。・・・リーマスらしい、会話に居たたまれなくなって、逃げ出した後だった。
仕方がないなぁ、と、ジェームズは当然の顔をして、リーマスの後を追い。
リーマスのベッドのカーテンの中に消えていく。
おい、こら。待ちやがれ。
どうして、恋人(候補)の俺が躊躇するなか、他人のおまえが堂々と追い掛けるんだ。
出遅れて、乗り込んだカーテンの中では。
「リーマス、僕は心配だよ」
「本当に、きみは心配性なんだから」
最近、俺には見せてくれもしない、何時もの笑い方。
「卒業したら、1人になるきみは、一体どうやって眠るんだい?」
だから、ジェームズ。恋人(志願)の俺の前で、只の友人がなにをしてるんだ。
メラメラと燃えている嫉妬にも気付きもしてくれないで、リーマスは枕を手に取った?マクラ?
「心配しないでよ、大丈夫。
見てて」
杖を一振りして、枕をふわふわの仔猫に変えた。
「あったかいよ、これ」
大人しくリーマスの膝で丸まっている仔猫。生きたあんか代わりには丁度いいだろう。
「どうして、仔猫なんだい?」
「うーん、本当はさ、仔犬の方が好きなんだけど・・・パディがやきもちを焼くだろう?」
リーマスのありがたい心配りなんだが、だけど、どこか間違っている。
「その前に、俺がジェームズに妬いてんのって判ってんのか?嫉妬してんだぞ」
「いやぁ、そうきたか。
仔犬バージョンに挑戦する姿が見えるようだよ。なぁ、パディ」
何処までも、俺を無視しつづけるこの2人・・・
「パディは、駄目」
無下に反対され、落ち込んだ。
どうして、仔犬の方が好きで、俺は駄目なんだ?吼えないし、粗相もしない。抜け毛もない。俺の何処に問題があるんだ?第一、あんか代わりには、大きい俺の方が効率がいいぞ?
ショックのあまり、すっかり、思考が犬と化している俺。
「1人になった時の話をしてるのに、・・・パディと一緒に寝れる訳ないだろう?・・・だから、犬は駄目なんだ」
だって、と、何度も呟いて。
「だって、パディに会いたくなっちゃうじゃないか」
口篭もりながらのリーマスの告白に、俺の心臓が高鳴った。
リーマスが俺に会いたがる?一緒に寝たがる?
リーマスに告白してから、初めてのリーマスのそれらしき告白。本当にこれは、一歩距離を縮めたか?
「シリウス、浸っているところに申し訳ないんだが」
なんだ、ジェームズ。邪魔をすんな。
「リーマスは、パディに会いたいと言っているのであって、おまえに会いたいとは言っていないんだぞ?」
呆れたようにジェームズは言うが、パッドフッド=俺だろ?
つまり、俺に会いたいと言ってくれてるのと、同じだろ?何処が問題があるんだ?
なぁ、と、リーマスに訊ねると、何故か執拗に仔猫をからかっていた。
おい、どういう意味だっ。
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