服のこと
 既に、主張済みですので、今更、原作と映画の服装は違うとはいいません。
 今回の主張は、古着です。
 確か、ジニーの制服は、古着でした。ロンのドレスローブも古着でした。ウィーズリー家は、大抵の服を古着で済ませている様子です。ジニーが出席する為のドレスは、予定外の出費で大変だったことと思われます。ビル辺りが喜んで、新品を贈ったも、アリですかね。(そういう話をご存知の方、御一報ください。わたし、読みたいです。お願いします。っつか、自分で書け)
 彼らは、魔法族です。シンデレラでは、みすぼらしい服をキレイなドレスに替えた人種です。古着といえども、古くはないと思われます。事実、折れた眼鏡フレームをくっつけた(元に戻した)こともあります。ありましたよね?ですので、擦れきれた、破れたものも、魔法で現状維持、新品同様に戻せるハズです。
 そこで、気になるのが、我らがリーマス・ルーピン先生の繕いあとのローブです。何故、繕うのだ。

 魔法についての、ある1つの可能性。
 家事の分野の魔法とは、無から有を生み出すのではなく、己の手を使う代わりに、魔法を、見えざる手にして代用させるものである。
 裁縫にしろ、調理にしろ、掃除にしろ。使用する本人が出来ないモノは、魔法でも出来ない。



《メッセージ》

 僕は、ここにいる。
 だから、きみも―――

 長期の休みは、集団生活を送る学校から、家族の元に帰る。という、極普通の常識的休暇を送るようになっても、彼らは、必ず訪問する。
 休みの一日。その家の子供の誕生日を祝う為と称し、その家を訪ねるのだ。
 今日は、そのとある日。

 フルーパウダーを使い、やってきた、その家のソファに、さり気なく置かれていた一冊の本。この家の住人に相応しく、また、これ以上似つかわしくないものだった。だからそこ、何故、堂々と置いてあるのかが判らない。
 まじまじと眺めていても答えは出ない。ので、つい、呟いてしまった。
「最新ローブカタログ・・・・・・なによ、これ?」
 別に答えを期待していたわけではない。疑問に思いながら、どうしようもない状況で呟いただけなのだから。
「うーん。情報収集?」
 それに、のんびりとした答えが返る。驚いたのは、そこに人がいたという事実。ごそごそと、タオルケット塗れで起き上がるところをみると、どうやら、客人が来るまでに昼寝をしていたらしい。
 今年もまた、養い子の為に、全身全霊をかけ、ここまでやるの?と呆れ、それと同時に、ほんの少しの羨望を覚えるパーティーの準備をしていたのだろう。と、思い至り、ほんわかとする快さを覚えたハーマイオニーは、しかし、この本の所有者であると主張されたことに、遅まきながらも、絶大な驚きを覚えた。
 が、しかし。
「って、えーっ。
 シリウスのじゃないのっ?」
 まず、叫んだのは、養い子、ハリーである。
 遅れること、招待客であるハーマイオニーとロンも驚きを口にする。彼女の驚きには、なんで、養い子であるハリーが驚くのよという、疑問が混じっていたのだが。
「それは、一体・・・・・・どういう・・・・・」
 困ったように口篭もるルーピンの方が、不思議だった。
「だって、先生」
 言いかけたハーマイオニーを無視して、養い子は訴える。
「どういうって、そうでしょ?
 あっ、プレゼント用だね?だよね?」
 ハリーは、つい先日迎えた養い親の誕生日に、このきょとんと座るもうひとりの養い親からの贈り物がなかったことを知っている。ちょっと遅れた贈り物を選んでいるんだろうと、丁度というのもヘンであるが、友人と称して憚らないハーマイオニーにでも相談するつもりだったのだろう。と、念を押すというより、それ以外の答えは許さない勢いがある。
 しかし、ハリーの願いを覆すのは、いつだって、彼の養い親。
「いや、それだけはない」
 詰問される当人ではなく、贈られるハズの相手からの簡潔な答え。
「じゃ、これは、無言のおねだりだってことで。うんうん、そうだよね。新しいのを買ってってことだね。
 水臭いなぁ、先生。僕が、プレゼントするよ」
 この浮世離れしたルーピンでも、ハリーの誕生日プレゼントだけは、これから用意するといった真似をしない程度の常識と括っていいものかは謎だが、あるのを知っているから、その可能性だけは最初から考えない。
「それも、ない」
 もう少し先に迎えるルーピンの誕生日プレゼントにあたりをつけられて喜ぶハリーに、水をかけるように、いやっそうに、シリウスがいった。
 じゃあ、なんですかぁ?との子供達からの眼差しに、ルーピンは、それはあっさりと、情報収集と繰り返した。あまつさえ、もうそろそろ、これは見なかったことにしたほうがいいのかなと、後悔を始めた子供達に気付くことなく、とうとうと先を続ける。
「各国、各地の流行事情は、いつ何時も押さえておかなくてはいけない最低の知識だからね。
 その人がどこの人間かの判断材料は、服とイントネーションだといっても過言ではないよ」
「これって、そういう、もの、ですか」
 もはや、義務感だけで尋ねたハーマイオニーに、ルーピンは清々しい笑顔を返してくれる。
「そういう、ものだよ」
 わたしたちの期待してたものを判ってくれてないわ。
 絶望に打ちひしがれる子供達に、ルーピンはまだまだ先を続ける。
「大体、滅多に魔法界に行かないわたしが、2着も必要なのか聞きたいよ」
 同居を始めた頃に、流石にアレには耐え切れなかったのか、シリウスが、即、買い与えたとハリーは語っていた。だから、今のルーピンのローブは、自分で言うように滅多に着ていないので、新品に近いだろう。
 しかし、そういう問題だろうか?違うのではないかと思うなか。
「最後まで気潰す。そういう男だ、諦めろ」
 とうの昔に、なにかを諦めたシリウスが締めにかかった。
「でも、じゃあ。先生の中では、あれでも、まだ、着潰してなかったんですか?」
 あれと、上を指差す。2階には、過去のルーピンの一張羅、ホグワーツ時代のローブがあるはずだった。あの、どうみてもつぎはぎだらけのローブ。古着屋で買っても、まだましなものが売ってるはずの、年代モノ。着用していたということは、ルーピンにとってあれは、使用可能なローブということだった。
「あれは、別格。思い出の残るのって、捨てられないんだよね」
 それは、判る。と、ハーマイオニーひとりが頷いた。もう小さくて着られないと判った服の廃却時というのは、毎回毎回悩みの種だし、それでも記念に取っておくと決めた思い出の服もある。残念ながら、他の2人には、そういう思い出が皆無の生活環境だった。
「全部のつぎあとをいえるくらいに、思い出深いローブでね。
 デスイーターに遭遇した時のとか、そうそう、オーラーに穴をあけられたときもあったねぇ」
 言葉を無くすには充分過ぎる言い草ではあるが、魔法学校生徒としては、納得できないものもある。
「どうして、魔法で直さなかったんですか?」
「じつは、わたしはね、家事系の魔法は得意ではないんだ。裁縫で直すほうが、綺麗にいくんだよ、恥ずかしながらね。
 もっとも、魔法族のローブにしては、珍しいのか、わたしの顔はよく忘れられるけど、あれだけ個性的なローブだと、着てるだけで、わたしだって判ってくれて、結構便利でもあったしね」
 昔を思い出し、懐かしむ姿を見て、2人同時に、たらりと、背中に汗が流れた。
 昔に思いをはせる姿は、とても、ほのぼのしてなごみすら感じるが、いっていることは、つまり、現在進行形で継続中の争いの思い出というものだ。どんな思い出でも、時間が経てば、懐かしんでいいものだろうか?
 いけないわよね。いけないよね。
 見えない手を取り合い、不毛な昔話に終止符を打たんとする。
 が―――
「先生、凄いです」
 遅かった。

 きらきらと光が瞬く、ハーマイオニーとしては、ちょっとまてと言いたい、眼差しでも熱く先生を見つめる男は無視する。力一杯、全力で無視してやる。
 長いんだか、深いんだかの付き合いのあるシリウスは、既に諦めているし。ここは、良識ある人間として、間違った思い出を消し去る必要がある。
 視線に力があったなら、間違いなく刺し殺す意気込みで、ハリーを睨みつけると、同じ気持ちなのか、力強く頷いてくれる。
 ・・・・・・ハリー、わかってるわね?
 わかってるよ。
 声なき会話。孤独な戦いには慣れているハーマイオニーではあったが、今回に限り、たったひとりでも、仲間がいるのは心強い。
 不毛な思い出を大事にしている先生に、新しい、まともな思い出を作ってもらうのだ。その為にも、今大事にしている、この不毛な思い出話を、1秒でも早く、過去のものにしてしまわなければならない。故に、この残り少ない夏休みの使い道は、決まった。
「だからって、学校で着る必要はないじゃないですか」
「まぁ・・・・・・あれはねぇ。あの時は仕方がなったんだよ」
「それは、俺も謎だ。支度金も出ただろうに、あんなTPOに相応しくないものを、何故着てた」
 あの時はドタバタとしていたから、シリウスがルーピンのローブには疑問をもつ時間は与えられなかった。が、のちのち、時間だけはあるという状況に陥って、考えてみれば、おかしかった。
 ホグワーツに教員として赴任するならば、それに相応しいローブがある。背後にダンブルドアがついていたなら、ホグワーツに赴任或いは潜入するにあたり、それ相当の支度金、支給品があって然るべきだ。なのに何故、あんなローブ、卒業と同時に仕立てたローブを着ていたのか。
「まぁ、だから。あれは、きみへのメッセージのつもり、だったから」
 恥ずかしそうに言いよどみながらの告白に、色めき立つ2人。
 メッセージ。うん、メッセージだよ。そうよね。
 殺伐とした物騒な過去以外にも、2人だけに通じる思い出もあったのかと安心する。お付き合いがあった以上、そこには、甘酸っぱい、若さ故のきらめきがあると、信じたい。
 手を取り合う勢いで、頷きあって、ルーピン先生にもまともな思い出があったんだ、うんうんと、安心しあう。
「そう。あれは、きみだけに送ったメッセージだったんだ。
 12年前で記憶が止まってるきみが、わたしを忘れていても、あのローブには見覚えがあるだろうって。わたしだって、判ってくれるだろうって思って。
 この僕が、ハリーの側にいる。
 きみの望みは、叶わない。叶うことはない。
 だから、きみも、諦めて。
 結果は、みんなも知っての通りだったけどね」


 重く、苦しい沈黙が流れた。



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