写真、或いは、肖像画のこと
 魔法界では、動く写真がポピュラーです。
 薬品で加工すると動くというので、加工前は動かないと思われます。・・・・・・日刊予言者新聞は、いつも動いているようなので、かなり、加工に手間暇かけている、高級紙でしょう。
 ついでに、絵画も動きます。文字通り、動き回ります。あまつさえ、額縁間の移動も可能。
 魔法の絵の具?それとも、画家の技術?

 さて、ここで問題です。
 写真、絵画は、モデルの人格をどの程度写し取るのでしょうか。
 ミセス・ブラックは、シリウスをどーのこーのと、言っておりますが、とりあえず、彼は、ヴォルデモート卿サイドについていたと信じられていました。もっとも、止めをさした元凶っぽいですが。
 なのに、それを褒め称えない彼女は、その前に、肖像画が完成。知識・記憶は、その時点までの焼き付け。以降、記憶の更新されず。(絵画の彼女は、ヴォルデモート卿サイドについていたことを知らない)
 どんな過去があろうとも、いま現在、不死鳥の騎士団員になっていることで、邪険に扱う。どっちなんですか?

 複数の絵画が存在していた時、クローンとご対面状態?本物は誰だ?いや、みんな贋物。

 発展形疑問。
 今はまだ、登場してませんが、精密な人形に、絵画並の人格を宿らすことができたなら、それは、SF的に表現すれば、アンドロイドになるんですか?


《いま、そこにある危機》

 クリスマス休暇を利用して旅行に行ってきたピーターは、話だけでは説明しきれないと、沢山の写真をお土産に持ってきた。
 珍しそうに覗き込むリーマスに、写真が珍しいのか旅行先が珍しいのか、いまひとつ判断はつけがたいピーターではあったが、常々思っていた事を聞いてみた。
「リーマスって、写真嫌いだよね」
「うーん。嫌いって、いうか。
 どこで、かあさんたちのことがばれるか、わからないでしょ」
「あっ、そうか」
 リーマスの生い立ちを思い出せば、当然の配慮だと頷ける。
 誰それの母親達は、実は同期生だったとか、先輩だったとか、家系図的には、混乱の極みの魔法界のクセして、結婚適齢期は結構狭い。・・・・・・結果、同期生、或いは、先輩後輩の子供たちは、似たような年齢に分布したりする。
 リーマスの両親を知らない親を持つ学生は、マグル出身と限定しておいた方が安全だった。
「きみたちは、判ってくれてるから、いいんだけどね」
 巡り巡って、誰の目に触れるか判らない危険性があるのなら、最初から近づかないのが利口だと。
「それに、さぁ。
 自分の写真を見たって、楽しくないでしょ?」
 でも、リーマスの写真を欲しがってる子も、いるよ?とは、ピーターにはいえなかった。



 そのまた別の日。
 どさどさぁーっと、逆さにされた袋から流れ落ちる、戦利品。
 結果、今日も机の上に、小山ができた。
「今日も今日とて、大量だね」
 よくぞ、ここまで、マメに回収できるものだと、ジェームズは、素直に感心する。
 根性で、根こそぎ回収してきたつもりでも、それでも、きっと、逃れた運のいいやつはいるだろう。
「俺の所為じゃあねぇ。
 文句なら、あいつらに言え」
「そこまで、目くじら立てて、ネガから奪い取るほどのことでもないんじゃないの?」
 リーマスは、のんびりとシリウスと行為を咎める。
 自分の写真には存在価値を見出さないが、被写体が、シリウスならちゃんと理解できる。きっと、この中には、声はかけられないけれど、せめて写真だけでも手元に欲しいという、女の子の淡い恋心が埋もれている。それだけで、満足できる女の子からも奪い取るのは、やりすぎではないか。と暗に批難するのだ。
「おまえっ、写真の怖さを知らないのか?」
「なにか、ばれると困るような事、あったけ?」
 問いに問いで返され、一瞬の沈黙が流れる。
 人間、何事も、自分をものさしにするものだ。とはいえ・・・・・・
「いや、リーマス。これが心配してるのは、そっちじゃあなくって」
「以外に、困る理由って、何かあるの?」
 至って本気で言われても、そういう理由の人の方が少数派とは、何故かいえない。
 どう説明したらいいのかと、ジェームズは、暫し、考え込み。
「ほら、この馬鹿ってば、行く先々で喧嘩売ってるだろ?人生至るところ敵だらけ」
 ジェームズの物言いに、素直に頷くリーマスに多少の危機感を覚え、シリウスが乱入する。
「こいつは、放っておいて。おまえ、本当に判らないのか?」
 なにを?とリーマスの目が、首の角度が語っている。
 詰まったシリウスの隙をつき、再び、ジェームズの出番がやってくる。
 山の中から一枚抜き出し、運良く、それはシリウスひとり。
 リーマスから見えるように、シリウスの上に指を置く。その直前、シリウスは、逃げる。右に左に、前に奥に、自由自在。指が離れると、逃げ切ったシリウスは、実に憎たらしく嘲笑う。つい、初心を忘れたジェームズが、ペンを持ち出して、振り上げる腕に視線を感じ振り向けば。
 それがナニと、見ているリーマスに、ジェームズは、目的を思い出し、ああもう、きみってば。と、頭を抱えた。
「いや、だから。呪いをかけられたり、切り刻まれたり、ハリセンボン状態。いっくら、こいつでも、少しはダメージを受けるだろ」
「・・・・・・きみって、そんなに恨まれてるの?」
 なぜか、批難の目はシリウスに向けられる。
「おまえっ。なぜ、俺を見るっ」
「だって、恨まれるってことは、恨まれるに値する仕打ちをしてるってことでしょ」
「全面的に、否定する気はないが。
 なぜ、ジェームズは批難しない」
 いまそこで、件の人物は、楽しそうに、写真の中のシリウスを突っつきまくっている。しかも、持ち出したペン先で。
「そういうことを考えられるのは、そういうことをやれる人間だけなんだぞ?
 つまり、あいつは、すでに誰かにやってる、か、やりたがってるってことだ」
 すでに、シリウス相手に、やっている。いやもう、それは、楽しそうに。
「でも、ジェームズは、回収してないよ」
 うがーっと、叫ぶ。
 こいつは、あいつのドコを見ているんだ。どこをどう見ても、あいつの方が、恨みを買っている。ただ、その倍、弱味を握っているから、下手に事を仕掛けると倍返し、四倍返し。なのを、仕掛ける方も、仕掛けられる方も、知っている。だから、鷹揚に構えていられる、だけ、なんだ。
 と、言いたいが、盛大、かつ、重要、あるいは、致命的な弱味を握られているシリウスは、ジェームズのご機嫌を損ねたくはない。損ねたら最後、シリウスの淡い初恋はドコへ行くのだろう。
「まぁ、まぁ。リーマス」
 仲裁に入るには、たぶん、一番相応しくない人物だろう。
「シリウスの気持ちも判ってくれないかな?」
 にんまりと笑う、目。
 シリウスには、これだけはっきりと悪意が読み取れるというのに、どうして、リーマスには判らないのか。
「確かに、熱湯で茹でられたり、薬品付けにされたり、するかも、しれない。
 が、それだけじゃあないんだよ。リーマスの知らないところで、恋する乙女も虎視眈々と狙ってるんだよ」
「だから、せめて、写真をってことでしょう?それくらい、僕にだって判るよ」
 
えっへんと、何故か、胸を張って、誉めて誉めてと、訴えている見えないシッポを見ないふりで、ジェームズは首を振った。
 したくはないが、シリウスは、内心おもいっきり否定した。生憎と、シリウスを虎視眈々と狙うほどのアクティブな恋する乙女は、せめて写真くらいなどというネガティブな願いで満足するような、そんな控えめな性格はしていない。
「ちがうんだね、これが」
「なにが?」
 邪悪系天真爛漫なジェームズとこちらは純粋に天真爛漫なリーマスを見遣りながら、シリウスは、おそらく、いや、完全にこの後に起こる、良からぬことに覚悟を決め、たくもなかったが、仕方がない。自分は、限りなく不幸な星の元に生まれてしまったのだ・・・・・・
 こそこそとナイショ話モードに突入したジェームズを、不幸が待つと判っていても止める気力もないシリウス。
「写真の人物に、3回キスをして、キスされ返されると、告白は大成功決定済み。
 まぁあ、他愛のないおまじない、みたいなモノだけどね。恋する乙女は、藁にも縋るのさ」
 と、胡散臭さ大爆発のジェームズにも、リーマスは、感心したように、頷いた。
「そんな、おまじない、あるんだぁ。
 ジェームズって、物知りだよねぇ」
 つーかよ、リーマス。なに、感心してんだ。当たり前だろ。写真にキスして逃げずにいて、写真からキスされるような相手は、両思いの仲良しさんだ。告白大成功決定済み、なんだ。疲れつつお約束のツッコミ。
「ためしに、どれだけ難しいおまじないか、リーマスも試してみる?」
 ジェームズが、邪心なんかありませんという、邪悪な笑顔で差し出したのは、先程のシリウスの写真。面白そうだねと、受け取ったリーマス。その真意は、なんだぁーっと、声なき声で叫びつつ、写真をリーマスから奪い取った。
 はっきりきっぱり、シリウスには自信がない。写真とはいえ、リーマスにキスされたら、硬直くらいするだろう。そんなことしてみろ。どうなるか?いくらなんでも、不審がられるだろう。いや、頼むからしてくれ。
「・・・・・・・・・」
 喜ぶべきか、この時点でも、リーマスから不審の眼差しが注がれる。
「・・・・・・・シリウス?」
「いやぁー。リーマス。それをされたくないから、写真を回収してる男の目の前で、なんて。新手のゴーモンかい?」
「そっ、か。
 ごめんねぇ」
 と、シリウスは、もろもろのこっちの都合をなげうって、心底、謝罪しているリーマスに便乗してしまうべきか、悩んでいる。
 その隣では、何故か、どうしてだか、元凶の男が、救世主の顔で立っている。


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