忍びの地図
 The Marauder’s Map
 ご存知 忍びの地図の英表記。直訳すると、略奪者の地図。
 やっと、ハリーの「ホグズミードに入り込むために使うだけだし、何かを盗むためでもないし、誰かを襲うためでもない」という、訳の分からない理屈付けににつながるのだと知りました。
 「忍びの地図」なら、入り込むのが目的だし、どうして、盗むやら襲うなんて言葉が出てきたのか、ハリーの発想のぶっ飛び方が不思議だったのです。

 忍びと略奪。謙虚さが違うというか、アクディブさが違うというか。意気込みが違います。さすがは悪のいじめっこ。

 様様に謎な地図ですが、広いホグワーツを一枚の羊皮紙でカバーできるって形態からして謎です。全てをひっくるめて魔法の一言で片付けるにしても、ひとつだけ。
 どんな理屈で、人名表記まで可能なんですか?これも「魔法」の一言で片付けろとおっしゃいますか?
 魔法って万能だよ。
《より良い物作り》

「僕らも、とうとう卒業を迎える」
 と、おもむろにジェームズが宣言した。
 入学した以上、卒業するのは当然なんだけど、まさか本当にこんな日がくるとは想像もしていなかった。
「だなァ」
 今度は、また、ナニを言い出しやがると、シリウスが胡散臭げに相槌を打った。
「そこでだ。身辺整理をしたいと、僕は思うわけだね」
「ほぉ・・・・・・とうとう、あの女と別れるのか」
「でだ。
 これの処遇のことなんだけどね」
 もちろん、ジェームズは、シリウスの馬鹿げたツッコミを無視をして、一枚の古ぼけた羊皮紙を取り出した。
「それだよねぇ。それ、お持ち帰りしてもねぇ」
 ホグワーツの外にでてしまえば、本当にただの古ぼけた羊皮紙に成り下がるお宝。
 そして、ジェームズの宣言通り、僕らは、あと数えるばかりの日にちをここで過ごすだけの、卒業を待つ学生。
「そーだねぇ。学生時代の思い出ってタイトルで、アルバムに張っておこうか?」
「誰のに?」
「・・・・・・だよね」
 ピーターの提案は、それはそれで魅力的に写るけど、じゃあ、誰のアルバムにってことになると、問題がなくもない。
「これは、置いておこうと思う」
「ドコへ?」
「ここに?」
「この部屋に?」
 思い思いの疑問を口にしながらも、内心、どこかでそれしかないかと納得もしている。
 これからの僕らには、役に立たない、思い出にしかならないものだけど、まだここにいる生徒なら有効に使ってくれるだろうしね。
「この部屋にって、それもいいけど、製作者がバレバレだね。
 あとに続く者への、僕らからの贈り物だ。運命に任せるのが一番さ」
「おい、ハリーに渡すんじゃなかったのか?」
「ここに入学する日まで、ハリーでさえ、あと10年はある。僕としては、明日にでもハリーを産んで欲しかったんだけど、生憎とそのチャンスは逃したし。ピーターは予定さえ見えない。おまえは、絶対にムリだ、よね、リーマス?」
 どうして、いま、この時期に、その手の話題。考えないようにしてるのに、でもなかったら、シリウスの顔なんて見れないって言うのに。
 ああ、もう。シリウスだって、固まっちゃったじゃないか。
 おっ、落ち着くんだって。深い意味は、ないんだよ。
 た、ただの、ジェームズのからかいに決まってる。
 凍りついた僕に、なにを見たのか、慌てるピーターに救われた。
「じぇっ、じぇーむずぅ。ダメだってば、リーマスにナニ言ってるんだよぉ」
「うん?あっ、ああ」
 今更、大変な事をしてしまったと装って、慌ててフォローに入るジェームズが白々しい。
「リーマス。今のはナシ。忘れて、忘れて」
「お願いっ。リリーには、なんにも言わないでっ」
「そーだよ。リーマスにヘンなことを吹き込みでもしたら、僕はリリーに婚約破棄されちゃうんだ。
 お願いだよ。僕を助けると思って、このことは忘れてくれないかな」
 ヘンなこと、ね。それってつまり、男女のお付き合いABCってこと、なんでしょ。
 僕だって、リリーにいえないことくらい承知で、なにを言ってるんだか。
 リリーの過保護のその裏で、実は、こと細かく、念入りに、恋愛講座を受けることになった経緯を話せる筈がない。僕に甘い分、原因に怒りが向かうのは、いくら僕だって予想はつくよ。
 でも、せめてもの意趣返しに、冷たく笑っても、こっちの都合は、もちろん、ジェームズは知っている。この1年に渡る、恋愛講座の講師、その人だもの。
 
僕の意趣返しをあっさりと流し、どうやら、ジェームズにとっては、僕の反抗的態度は好ましいらしい。満足そうに笑んで、僕とシリウスと状況と、ピーターの不安を切り捨てて、本題に強引に舞い戻った。
「とにかく、10年も遊ばせておくのはもったいない。時間は有効に使わなくっちゃね。
 これには、ハリーの元へ帰る呪いをかけておけば、心配はまったくない。その後、入学した僕らの子供が受け継いでくれれば、その間、誰が使おうと、問題にする必要があるかな」
 強引なまでの切り替えも、それこそ7年間で充分に慣れていたから。
 ぼくらも、そうだね。と納得し。
 でも、ジェームズの青年の主張はそれだけではなかった。
「それに、だ。
 うちが誇るリーマスが、世界の荒波に揉まれた結果、ハリーの為には、これよりも素晴らしいものを作ってくれると信じている」
「えげつないと聞こえるのは、気の所為か?」
「気の所為だね。
 どうだい?リーマス。
 例え、呪いに失敗しても、きみの手で、より素晴らしい忍びの地図バージョン2をもたらしてくれる事を、僕らの友情に誓ってくれるかな」
「期待、されたら、努力するしかないよね?」
 うんうん、と、ジェームズは満足そうに頷いたが、残りふたりは違った。
「そんな、努力はしないでいいっ」
「そーだよ、それで充分だよ」
「きみたち、人間、成長を望まなくなったら、それで終わりだぞ?」
「いい、終わりでいい。これ以上、リーマスにそんな成長をさせないでくれ」
 当然の流れで、シリウスの泣きのはいった望みもジェームズにすげなく却下されてしまう。

 やがて、大きくなったハリーの元へ還るだろうと、呪いをかけ、ホグワーツに放たれた忍びの地図の次の所有者を見極められないうちに、僕らは卒業した。




 そして、約束を忘れるには充分な事件と時間が過ぎたあと。


 呪いの通りに、ハリーの手に戻った地図を見て、僕は・・・・・・・・・
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