変身のこと
 現在、姿を変える方法が、3種類確認されている。
 ポリジュース薬に代表される、魔法薬系。
 変身術の一種(と思われる)、魔法系。(アニメーガスが存在する以上、人間に変身する魔法もあるはず)
 生まれつきの、七変化。

 いずれかの方法を用いれば、魔法族は、手軽に容姿を変えることができる。
 ただし、今までのパターンから考えて、魔法省の厳しい管理下におかれるも、髪の毛の入れる前のポリジュース薬が非合法薬として、密売されてそうだ。
 つまり、魔法族にとって、目撃情報、遺留品というのは、あてにならないもの代名詞である。

 目撃された、そこにいる「A」が、本物の「A」であることを、いかにして、証明するのか。
 「B」である可能性も、「A」の姿のまま「C」を演じる「A」である可能性も、あるのである。

 そして、男性である「A」が、女性である「D」に成りすます場合、同性間以上の訓練が必要になる。それは、さながら「俳優養成校」の趣である。

 ポリジュース薬においては、どの時点の姿になるのかが興味深い。
 髪の毛が本体から離れた瞬間の姿。――ヒゲを半分剃っていたなどの情けない姿になる可能性もあり。
 髪の毛が保有するDNA。――ケガなどの後天的なものは影響されない。
 魔法だから、法則性はなし。――某教授が、嘆きそうな暴論。
 
 それよりも、飲み込んだ時点で、1時間の効果。ってことは、マグルの発明品、カプセルに仕込んでおくと、どれだけの量を飲み込むかは別として、胃で解けて、時間差変身ができるのだろうか?
《尊敬する理由》

「なにが、凄いって、おまえ」
「ルーピン先生は、俺たちを一度も間違えた事がないんだぞ?」
「一度も?」
 と、半信半疑の声が飛ぶ。
 両方揃って、こくりと、頷く。
「一度も」
「そう、一度も。
 違うといっても、にっこりと笑って、きみが、ジョージだよねと。そらー、あっさりと」
「それって、すごい」
「そうだろ?」
「だから、俺たちは、ルーピン先生をソンケーしてるんだ」
 双子ばかりではなく、その場のすべても同意した。


 チャンスは、夏休みにやってきた。
 引き止めるエサとして用意したハニーデュークス製チョコレートケーキを前に、目論見どおり足止めされた先生に、さっそく、双子は疑問を投げつけた。
「どうして、先生は、俺たちの見分けが付くんですか?」
 興味津々の視線に晒されている。
「いや、どうしてって、なんで」
 質問の意味が判ってないのか。首を傾げるばかりの先生に、疑問を投げつづける。
「必ず、一度は間違えるっていうのに」
「母親だって、間違えるのに、先生だけは、間違えた事がないじゃあないですか」
 やっと、状況が飲み込めたのか、一瞬、見張った目が、見ているほうに、驚きを与える。
 先生、ナニに驚いてるんですかっ。言葉にできなかったから、当然、先生には聞こえない。
「いや、それは、ないだろう?」
 あっさりと、双子の主張を否定する。
「そう、なんです」
「挙げ句に、双子と、一括り」
 うんうん、頷く行為が後押しとなり、どうにか先生に信じさせる事には成功したらしい。
「あー、じゃあ。こうしよう。
 実は、きみたちの本当の母親は、わたしだったんだ。
 きみたちを、産んではみたものの、人狼の母親では、将来も保証できない。思い余ったわたしは、きみたちの幸せのために、ダンボールに入れて、心優しい、この家の玄関の前においてしまったんだ。
 幸福に育ってくれて、嬉しいよ。
 ――――ってことで、納得してくれないかな?」
 視線は、チョコレートケーキに定められたままで、早く話を切り上げたいのが見え見栄だった。
「だめです。年齢があいません」
「ジニーなら、どうにかです」
「えっ、じゃあ。あたしのお母さん、なんですか?
 6人も男ばかりなのに、あたしだけ女の子なんて、変だって、思ってたの。ビルは、知ってたんでしょ?」
「それよりも・・・」
 呟きはかき消された。
「あれは、雪のちらつく日だった、チャーリーが、それは可愛らしい赤ん坊を見つけて。ママにお願いしたんだ。散歩もご飯も、ボクが世話をするから、うちで飼ってもいいかって。
 ジニー、それでも、おまえは俺の妹だ」
 ビル、ジニーと、抱き合うふたりの見事な赤毛は、誰がどう見ても、同じ血統を受け継いでいる。
 そんなふたりを傍らに、しぶとく呟くひとり。
「おとう――」
 どうしてだか、彼は、最初の「お」で、ぴきーんと、固まった場に気付かない。
 って、決まってるだろ。
 天然もほどがあるぞ。と、言い出したいが、言い出せない。
 の、そのさなか。彼は、最期まで言い切ることなく、絶叫を上げる。
「ごめんなさい。足元にムシがいたから」
 都会育ちの少女は、悪びれもなく言い訳した。もちろん、ムシなどいやしなかった。
「ここ、田舎だからねぇ」
 しみじみとした空気を読めずに、再びチャレンジする、が。
「だから、お――」
 振り向く事で、スピードが加わり、重さが増すことを計算にいれたジニーの平手が、すぐ上の兄の頬にめり込んだ。
「ナニ、すんだ」
「ムシが、いたの」
「ジニー、わたしが見たのと一緒ね」
「うん、たぶん、同じ」
 なぜ、ムシ如きに、必死になっているのか。その理由に思い至らないのは、きっとふたりだけ。
 弟が、今度こそ、と、いらない決意をする前に、双子は立ち上がる。
「で、センセ。
 センセが、ジニーの産みの親であることは、判りました。が、それと、俺たちの見分け法と、どう関係が?」
「きみたちらしくないね。
 どうして、横道にそれた話を元にもどすかな」
「反らしたがる道筋は、元に戻すのが、俺たち」
「です。」
「諦めてくれない、ワケだね」
 ユニゾンで肯定されて、項垂れる。
「そーだったね。きみたちは、興味あるものだけは、誰よりも熱心だったね」
「はい、その俺たちの熱意も、先生の前では、いつも潰されていました」
「5回に1回だけ、負けたふりをして、譲歩してくれていたのも、知ってます」
「それを知ることは、俺たちのアイデンティティーに関わる一大事です」
 絶対に諦めないとの宣言に、とうとう、白旗を揚げた。
「後悔、しても、知らないよ」
 そんな前置きをしつつ、でも、言いたくないんだよ。といった趣で、遠くに視線を漂わせ。
 暫しの間を置いた後。
「だって、魂の色は、違うじゃないか」
 ぽつりといった。
 た、たましい?と誰ともなく聞き返した。
 なにか、踏み入れていけない場所に、足を入れてしまった不快感。本能的な嫌悪感が、ざわーと広がり、後悔しても遅い。

 それを、楽しそうに眺めている視線に気付くわけがない。
「ま、冗談は、さておき。
 見かけなんかでは、判断してないからね。
 イントネーション。クセ。歩き方。立ち方。考え方。その人物を総合して判断するんだよ。
 すれば、おのずから、双子であっても、きみたちは別人である以上、違いは現れる」
 ??????
 何故の嵐に、目をぱちくりしてしまう。
「魔法族の見掛けほど、あてにならないものはないじゃあないか。
 魔法に薬。お手軽すぎて、目撃情報の信用のできなさっていったら。
 なにしろ、わたしは、この姿のまま、フランス女性を騙って、疑われなかった経験があるからね。まぁ、そんなところだよ」
 そんなところって、どんなところ。それよりも。
 それは・・・・・・先生が、ただの女顔だというだけの話ではないんですか?
 子供たちの不審まるだしもどこ吹く風で、双子にアドバイスまでしだす。
「もし、本当に、騙したかったら、努力をしないと。双子というだけでは、すぐに破綻するからね」
 ニコニコとしながらくれるアドバイスは、的確で、役に立つだろう。しかし――
 もしかしたら、先生は、ものすごく、ものすごーく、マイペースなヒト?
 一番、真実を知っているだろう、養い子に視線を寄せれば、―――視線の意味を正確に読み取った養い子は、一度、大きく、頭を縦に振った。
 受けたコドモタチは、大きく、大きく、ため息をついた。
 その、一瞬の間をすり抜けて。
「でも、お父さんは、誰なんですか?」
 音なき悲鳴が立ち上がる。
 いたな、うちにも、ひとり、チョーマイペースが。
 それは、聞いてはいけないことだと、本能的に避けていたのに。それを聞いてしまったら、今度こそ、後悔どころではすまない世界に投げ落とされる、ような予感にしたがっていたのに。
 それを証拠に、何かを知っているような、・・・・・・女子寮生活者2名が、この世の終わりに立ち会ったような、顔面蒼白。
 つれられて、血の気が引いていく。
「ああ、決まってるじゃあないか」
 キマッテルンデスカ・・・・・・
「わたしの知り合いで、こんな見事な赤毛は、リリーだけだよ」
「へぇー。ジニーのお父さんは、ハリーのお母さんなんですか」
 絶望の中、和やかに会話は進んでいった。
5巻の話としておけばいいものを、
カテゴリー的には、偽家族、ルーピン先生とウィーズリー家の子供達。
戻る