みぞの鏡
 見る者の、心の一番奥底にある一番強い「のぞみ」が見える鏡。
 複数が同時に覗き込んだら、各自の「のぞみ」が見える。であるからして、実際に、鏡に映っているかは、不明。各自の脳内で繰り広げられる妄想である可能性高し。
 思うに、ボガートくんも、この性質を会得していたら、別の人生を歩めた可能性がある。

 ハリー・ポッターが、1年生のクリスマスに遭遇したアイテム。
 見えた家族が本物かは、現時点では不明。見たことのない家族が見えた、というのは、魔法の鏡に相応しく、是非、実在した人物であって欲しい。
 

 ネーミングは、「のぞみ」を反対にした「みぞの」。結構、安直。
 名前からすると、望みの反対=望んでいないもの=怖いもの、が見えても不思議はない。それをすると、ボガートくんとかぶります。
 「溝の」鏡と思ったのは、私だけ?
 
 あのですね、「のぞみ」を反対にして「みぞの」って、安直。といったら、
 まったく気付いていなかった高校生は、恥ずかしいのか。高校生だから気付けないのか。
 こういうのは、子供のほうが理解しやすい?

 蛇足。
 船の名前を読む時に、必ず一度はやる(と思う)お約束で、「にほん丸」を「丸んほに」と読み間違えるってありませんか?
《望む世界》
 隣で、永遠に続く勢いでノロケまくる、本人に自覚がなくとも、あれは、ノロケだ。そもそも、ノロケっていうものは、嫌がるシリウスに無理矢理に聞かせるものであって、自覚もないシリウスから聞かせられるものでは、決してない。
 いい加減にして欲しい。
 これが、お付き合いしている・・・・・・恋人のことなら、僕だって、我慢して聞いてやろうと、親切心を出す、かもしれない。が、表面上、あいつは、ただのオトモダチをノロケるんだ。付き合っていられるかっ。
 現状に満足して、一向に先に進まないというのは、男として、問題だ。
 もうそろそろ、告白しろ。なんて、贅沢は言わない。いくらなんでも、高望みすぎだ。せめて、片思いであると気付いてもらわなきゃ、やってられない。

 そんな鬱積に悩まされ、日々の疲れが堪った頃。
 偶然、またまた、紛れ込んだ部屋で、見つけたのは、噂には聞いた、「みぞの鏡」。覗いた者の、本当の望みを隠すことなく、突きつける、良いんだか、悪いんだか、時によりけりのアイテム。
 使い方を誤らなければ、これ以上ない便利グッズ。
 勿論、シリウスに、突きつけてやろうじゃ、ないか。

 ちなみに、僕が見えたものは。
 赤毛の女性が、赤ん坊を抱いている。髪は黒くて、目は緑。魔法使いには、相応しい組み合わせ。
 おまけに、リリーが、赤ん坊を手渡したのは、リーマスで。リーマスは楽しそうに赤ん坊を、側の男に見せている。見ようによっては、シリウスに見えなくもない、黒い髪の男。・・・・・・たぶん、シリウスってことにしておこう。
 僕が望むにしては、小市民的願望。ささやかな幸福の先に、壮大な野望があるものさ。


 ならば、早速と、本当に、あいつのノロケにはうんざりなんだ。騙まし討ちに近い形で、ふたりを鏡の前に立たせれば、これで、もう終わりだ。
 リーマスまで連れてきたのは、今後の参考の為に、リーマスが本当に望んでいる事を知っておくべきだと思ったから、本当にそれだけだったんだ。


 ふたり、鏡の前に立ち。
「あのさぁ、鏡に映らないのって、吸血鬼だったよね」
「そーいうな」
「だよねぇ」
 なのに、なにをのんびりと語り合っているのだろうかっ。このふたりはっ。
「きみたち、なにか、こう、ないかな」
「なにかって?こうって?」
「シリウス、おまえには、何が見える?」
「なにって、鏡だろ?骨董品だよな」
「ホグワーツにあるのって、全部、骨董品だと思うよ」
「ちがうっ。鏡に何が映ってるかってことだ」
 シリウスは、おかしなものを見たように、鏡ではなく、この僕を見る。
「俺とリーマス以外に映ってるわけないだろ?」
 んな、まともなものが、こんないわくありげな場所に置いてあるわけないだろ。
 っつか、シリウス。どんな状態のふたりなのか、教えてくれるかい?
「おまえ、鏡ってモンを知らないのか?
 ほら、ここにリーマスがいるだろ?」
 と、本来、ただの鏡ならリーマスが映っているだろう場所を指し示す・・・・・・
 シリウス、きみって・・・・・・
 年頃の男の子としては、好きな子に、あんなコトや、こんなコト、そんなコトやら、どんなコトまでしたいと、日々悶々とするもんじゃあないか。それが正しい青少年の在り方だ。
 なのに、なんだ。おまえは、正真正銘、心底から、隣でリーマスが笑っていてくれればいいと、そう思っているのか。
 ・・・・・・そりゃ、僕だって、こいつが、いきなり、リーマスをどうこうしている姿を見るとまでは思っちゃいなかった。だけど、せめて、抱きしめてるくらいの、甲斐性のある望みを持っていてくれるって、信じてた。
 それが、なんだい?笑ってて欲しいが望み?それが、悪いとは、いわないけどさぁ、やっぱり。色々問題だろ、それは。


 リーマスが映っている、らしい場所を指差したシリウスに、勿論、僕には、シリウスの指すところに、リーマスは見えない。リーマスは、安心したように呟いた。
 もういい、この際、シリウスは捨て置いて、リーマスの望みだけでも知るべきだ。
「きみには、見えるんだ」
「なにを、だ?」
「僕が。
 良かった。きみしか見えないから、そういう鏡かと思っちゃった」
 そういう、人外のものは映らない鏡・・・・・・人狼だから、映らない鏡。
 リーマス、そんなものに、きみを近づけるわけが、ないじゃあないか。
 ・・・・・・なんて、いうか。その、できるなら、リーマスの望みは知らないままの方が、幸せに過ごせるような気がしてきた。
 この鏡の正体を知らないシリウスは、当然、知らない者の強さで、リーマスを説得にかかる。
「いや、そんなことは、ない。
 ほら、その証拠に、こいつも映らない」
 と、いきなり、ふたりの前に、引きずり出された。
 ご丁寧に、ヘッドロックをきめられて、リーマスとは反対側にである。しかし、さっきも言ったように、そもそも、僕に見えているのは、この光景ではない。
 ほんとーに、シリウス。僕が見えないのか?
 こいつのこの顔は、嘘やら誤魔化しではなく、ほんとにだよ。
「えっ?
 ちゃんと、見えるよ?」
 僕を無視して、ふたり見つめあうのは、やめてくれないかな?せめて、僕を解放してから、ふたりの世界を作ってくれ。



 呆れながらも、頭はフル回転してる。
 なにが、どうなって、どうすればいい。
 つまり、リーマスは、自分がいないだけで、これが極普通の鏡だと思える光景を見ている。
 自分だけが見えないってことは、自分がいない世界を望んでいるってことなんだろうか?
 これが、「みぞの鏡」である以上、望み、なんだよな。それが・・・
 知らなきゃよかった、後悔ばかりのなか、今の僕に出来ることは、この場を上手く取り繕う事だけ。この場を乗り切れば、もう二度と、「みぞの鏡」と対面する機会もないだろうから、ふたりが、自分の「望み」に気付く事もない、ハズだ。
 ジェームズ・ポッター、いいか。口から先に生まれた男の称号を持つプライドにかけて、ふたりを騙しとおすんだ。
「ふたりとも、いいかい、これは。
 ただの鏡じゃない」
「高価そうだものね」
「お約束的、ボケをありがとう。
 勿論、そういう意味じゃない。
 これは、一緒に居たい人が映るんだ」
「えっ、じゃあ。ジェームズが、見えないのは・・・・・・」
「リーマス。いじめられっ子が、いじめっ子と一緒にいたがるわけがないじゃないか。
 本当に、友達甲斐がない男だよ、おまえってヤツは」
「おまえは、どーなんだ。おまえはっ」
「うん?僕かい?
 リリーとリーマスと、ぼやけて、かすかに判別がつくくらいの影の薄さで、おまえが、いる?かな?」
 嘘は、いってない。いってないから、リーマスにもばれないだろう。
 この程度で落ち込む精細さの持ち合わせがないシリウスを片手で制しておいて、リーマスの反応を見守る。
「そう、なのか。
 うん、僕も、きみたちといつまでもいたいと思ってるよ」
 恥ずかしげなリーマスに、直撃を食らったシリウスは、・・・・・・それなりに幸せなんだろう。望みが低い代わりに、この程度で、幸せになれるんだから、まったく、お手軽なヤツだ。
 問題は、リーマスだ。本気で信じているのか、それとも、「これ」を知っていて、誤魔化しているのか。この僕でさえ、リーマスの嘘を見抜くのは、難しい。
「リーマスは、本当に、僕たちのことを好きでいてくれるんだね、嬉しいよ。でもね、自分を忘れるのは、ナシにして欲しいなぁ」
 一瞬、目を見張って、ああ、ほんと、そうだね。と笑うリーマスを、騙せたのか?騙せたんだろうな?
 
 
 好奇心は身を滅ぼすって、ほんとだよな。
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