《多分、正しい選択》
ある日、暇をもてあましたジェームズが、って、彼に限って言えば、いつもそうだけど。ポツリと呟いた。
「監督生には、誰がなるかって?」
「そう、シリウスは、人生全てをリーマスにつぎ込んで悔いはなし、だから、やるヒマはないだろう?」
「や、それ。シリウスに、ものすごぉっーく、失礼だって、判ってる?」
僕が、シリウスの恋人とかならともかく、ただの友人に費やすほど、人生って言うのは、短くないと思う。
当然の僕の抗議に、ジェームズは、にったりと笑うと。
「いや、いや。細かい事は気にしない」
するだろ、という、シリウスのツッコミを無意識に待っていたのは、僕とピーター。
なのに、シリウスのツッコミは、いくら待ってもやって来ず、ジェームズは、最初から、待つつもりもない。
「で、リーマスは、・・・だろ?」
僕が監督生になれない理由を、言葉にしないのは、絶対に音にしてはいけないモノだから。
「そもそも、やりたくないよ」
僕がソレだからか、それとも、元々そういう性格なのか。正直に言えば、監督生なんて面倒なコトはしたくない。他の時代はどうだか知らないけれど、僕らがいる以上、監督生は出し抜かれてばかりいる、損な役回りだよ。
「で、ピーターには、ちょっと、荷が重いだろ?」
「うんっ」
迷いなく、即答。
「おまえ、そこで頷くな」
今度こそのシリウスのツッコミは、皆で無視。
どうして、やりたくないか。その原因が、しかも、自覚まであるって言うのに、そのツッコミ・・・・・・シリウス、それ。無責任すぎるよ。
「って、ことは。
残るは、この僕だけ。
なんて、理にかなった人選なんだ」
えっへんと、胸を張る・・・。
が――――
「それ、だけは、ありえないと思うぞ」
「うん、僕も、そう思う」
「だよね」
と、誰もが反論し。
「犯罪者に、権力を与えるほど、考え無しじゃないよね」
とまで、続けたのは、誰かは内緒。
「それ、いくらなんでも、失礼なんじゃないかい?」
でも、皆無視。
「該当者なし、で、上か下か、そんなトコだろーな、やっぱし」
「だろうね」
別に、ジェームズも監督生の肩書きが欲しいんじゃない。
僕らの中には適任がいないけど、女の子はそうじゃあない。ホグワーツ一の問題児たちを監督できる、たった一人の存在がいるんだから、彼女以外に誰が監督生になるっていうの?
つまりさぁ、ジェームズは、リリーと仲良く一緒に監督生がやりたいだけ、なんだって。
何度目かのホグワーツ特急のなか、やっとシリウスたちと合流できた僕は、今更、意味のないことだと判っていながら、つい、愚痴ってしまう。
「――――って、言ってたよね、僕ら」
「うん、だね」
「なのに、なんで、僕、なの」
ホグワーツから手紙が届いてから、1時間に一度は、これは悪い夢だと、醒めて欲しいと頬を抓って過ごした事か。
でも、一度も目が醒めない。だから、この僕が、監督生に選ばれたってのは、現実なんだって、諦めたけど。巡回を済ませた今でも、まだ、信じたくない。
「だよな。
おまえの都合も主義も知ってる筈なのにな」
「勿論、ダンブルドアの真意は確かめたんだろうね」
「・・・・・・したよ。マクゴナガル先生だけどね」
ダンブルドア先生に手紙を出したら、マクゴナガル先生の家庭訪問が返事だった。
ああ、もう。思い出したくもない。
何故か、やってきたマクゴナガル先生に問い質すなんて真似は、うちの状況からして、だってね、両親揃って、先生の授業を受けた事があるんだよ。最初から、抗議は受け付けないって言われてるようなものだよね。
それでも、無駄でも何でも、この僕が監督生なんて、悪い冗談にもならないと主張した僕に、マクゴナガル先生は。
いいですか、ルーピン。人に隠れて過ごすものいいでしょう。現状でさえ、あなたを単独で認識している生徒がどれだけいるかと、問われたら、私にも返事が出来ません。あなたは、ポッターとブラックという2人の影に隠れて、存在を消しています。
ただ、それでも、ルーピンという個として存在している事には、違いありません。
本当に存在を消すのなら、ルーピンそのものを消す必要があります。
その為の手段が、監督生なのです。これは、あなたのお父さまが実証済みです。監督生であろうとすることは、ルーピンのという存在を消滅させるのです。
それだけでは、ありません。
卒業後は、校長の為に働きたいと、望んでいる事に異論はありません。
その為に、学ぶべきことに対して、私は、かなり融通を利かせてきたつもりです。ですから、その一環として、監督生を務めなさい。
あなたには監督生の職務をまっとうできない期間があることは、既に承知のことです。
では、どうするか。
あなたは、監督生の代理をお願いできるかなと、笑顔と共に、一言お願いするだけでいいのです。今のあなたでも、それは可能でしょう。ですが、何時いかなる時、いかなる用件であっても、喜んで引き受けさせる交渉術は、今後のあなたには非常に重要になってくるのです。
この監督生就任は、人心操作術を完璧なものにする為の演習と思いなさい。
大体そんなことを、立て板に水の勢いでまくし立てられて、勢いに流されるなか、それでも。
監督生ってそういうもの?――とか。
その日には、シリウスたちが騒ぎを起こさないが前提っぽいのは、気の所為?――とか。
いろいろ、訊ねたかった。できるものなら。
だけど、マクゴナガル先生が全てを語られた後、良識派のとうさんだけならまだしも、あのかあさんまでもが、僕に諦めろと態度で示したら。・・・・・・僕には、諦めるしか、ないじゃあないか。
「・・・・・・そ、それでいいのか」
誰かの呟きは、全員の呟きだった。
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