夢の流れに身を委ねたら、あなたと二人、どこかへ消え行くことができるでしょうか。
枯れ夢
歩が彼女の病室のドアをノックしたとき、中から返答はなかった。
ノブを回し、中へと入ると一面に真っ白い壁と、開け放した窓が目に入る。
少女はベッドに横たわり、瞳を閉じていた。
起きているのか眠っているのかは定かでないが、規則正しい呼吸音は確かに聞こえている。
一旦外に出ようかとも思ったが、彼女のこと、眠っていたとしてもきっとすぐに気配を察して
起きるだろう。話もしたいところだし、と歩は椅子に腰を下ろした。
「……弟さん」
「ああ。邪魔してるぞ。……寝てたのか?」
「寝てました。けど、起きてました」
なんだそりゃ。と歩が苦笑しつつ呟く。理緒の言葉の真意を知っての苦笑だろうか。
「好きな人の前で堂々と寝顔見せていられるほど図太くないです」
「じゃあ俺が入ってきたときから解ってたんだな。……通りで聞こえる心音がでかいわけだ」
「っ!?」
「冗談だ」
そこから先は、妙な沈黙が流れていた。
決して気まずいわけではないが、今直面している問題が問題なだけに、上手い話題が見つからな
いのだ。
「……期待してたんですか?」
「は?」
「今日。2月14日じゃないですか」
ああ。と歩が漏らすと、忘れてたんですか?と理緒。そう、忘れていたのだ。
そんな日常的な行事は、非日常的なできごとの前にはあまりに非力だ。
「期待してた、って言ったらどうするんだ?」
「期待に応えます」
「ほう。……なら、期待してた」
やや棒読みだったその台詞に理緒は少し顔をしかめながらも、ゆっくりベッドから起き上がり、
歩に差し出した。
「……あげます。売店で買ったヤツですけど」
「…………さんきゅ」
差し出された平たい箱を見つめる。確かに売店で買ったらしい、市販のものだ。
「まあ、無難だな」
「ひとこと余計なんですよっ」
不意に投げつけられた枕を簡単にキャッチし、彼女の方を見ると、真っ赤になっている様子が伺え
た。チョコレート1つ渡すのに、そんなに緊張するものだろうか。
「……学校で渡したかったです。本当は。もちろん手作りの」
手作りとは少し恐ろしいな、と歩は思ったが、ここは黙っておく。もしかしたらそんなツッコみを
理緒は期待しているのかもしれなかったが、独り言のように零れる言葉の1つ1つが空気の振動を利
用して歩の耳に届くたびに、あまりそうとは思えないような気がした。
言葉たちは、触れたらすぐに泣き出してしまいそうだったので、歩はただ黙って、理緒が言葉を続
けるのを待った。
「ひよのさんとあたしとで、ワケわかんない口喧嘩して、弟さんはいつも以上に冷めてて、亮子ちゃん
は恥ずかしがってなかなかこーすけ君に渡せなくて。そのうちカノン君がやって来て、“見て見て。僕
こんなに貰っちゃった。浅月と歩君は?”とか……」
かけ離れすぎた夢の世界だった。
理緒の口から紡がれていく夢が、本来ならば現実であったはずなのに、今はただの夢でしかない。
騒がしかった学園生活が、こんなにも懐かしく思えるなんて。
「戻りたい、って言ったらワガママですか?」
「いや」
「早く、戻りたいですね……」
「……来月の今頃くらいにはな」
理緒が気付いていないようだったので、歩は笑った。
お返しには、是非とも最高の日常を。
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<あとがき。>
間に合わなかった……!!
下書きはできてたのにな。残念。まあいいや。
しかも数学の時間に授業聞き流しながら書いたものなので、いつものことですが
よくわかりません。(わかる話を書け)
ホワイトデーは更新できるかわからないので、遅ればせ種バレンタインも書いてみよう
かなあ。時間さえあれば。
2月号(?)読んだらとたんにあゆりお書きたくなったので。
あゆりお好きだなあ。歩が無理せず笑ってる気がします。理緒も理緒でリラックスしてる
感じ。こーりょーも是非書きたいのですが、亮子ちゃんが書けません。彼女は難しい。
女の子らしくて、らしくない。
そういう彼女だからきっと浅月は兄妹という範囲を超えて好きなんだと思いますけども。
ああ、あとがき終わり!