どんなに寒くても、貴方はいつも微笑むから。
君だから。僕だから。
「ごめんなさい、待ちました?」
ぺらぺらした定期券をパスケースにしまう。
落とさないよう、慎重に。
「ん、待つのもひとつの楽しみだからね」
「む、普通は“待ってないよ。俺も今来たところだからさ”とか言うものじゃありません?」
「俺も今来たとこだからさー」
「むうっ、もういいです!」
ひよのは少し頬を膨らませて史郎より速く歩く。
人ごみ。赤と緑。イルミネーションの彩り。
「あ、」
「? どうしたんです?」
「そういえば、今日は12月24日だなぁと」
頭を照れたように掻きながら、史郎は呟く。
今までの生活は、クリスマスと縁のないものであったし、第一、そんな行事に大して興味はない。
「……もしかして、気づいてなかったんですか?」
「そういうことだね」
「もうっ、じゃあどうして今日デートしようなんて言い出したんです?」
「え? あ、いや、年末は今日と大晦日くらいしか空いてなくてさ。それで」
お馬鹿さん。
言いながら、ひよのは史郎の顔を見つめて笑う。
実に彼らしい。これだから彼なのだ。
商店街の華やかな外灯の中を、いつもよりゆっくりと歩く。
史郎は不自然に手を動かしながら、これまた不自然にひよのを見つめ、また不自然に話題を振った。
「さ、寒いね」
「え? あー、まあ、そうですね。12月ですし」
掴みは良好だ。
果たされなかった在りし日の野望を今こそ果たす。
「って、え!?」
意を決して手を差し伸べるより早く、何の躊躇いもなく史郎の手は握られた。
柔らかくて、温かい。
「寒いんでしょう?」
「え、あ、まあ」
「……手、乾燥してますね。ハンドクリームとかつけなきゃダメですよ」
「男はそこまで気が回らないの」
「顔は女の人みたいですよっ」
「……人が気にしてることをさらっと言うね、君は」
「月臣学園新聞部部長の結崎ひよのちゃんですから」
笑って言う彼女に、史郎も笑った。
笑う、というよりは、微笑う、の方が適切かもしれない。
「……ごめん」
「どうしたんですか、急に。珍しく。らしくもない」
「それって何か酷くない?」
「いいえ、事実ですから。……それで、何か?」
「クリスマスなのにプレゼントも何も用意してない」
「罪悪感あるだけましですね。いいんですよ、最初から期待してません」
顔をあわせるでもなく、ただ前を向いて歩きながら2人は会話を続けた。
歩きながら、とは言うものの、行き先は決まっていない。
「私も用意してないですから」
「用意周到ってやつ?」
「沢村さんの性格は大体把握してます」
その代わり、とひよのは続けた。
史郎は息を呑む。
プレゼントの代わりが死の宣告になりやしないかと。
「ディナーは沢村さんの奢りですよ」
「……ま、その辺は当然の義務かな」
「ちゃあんと予約してあるんです」
「……悪魔」
白い服着て白い羽をつけた可愛らしい悪魔さんですかね。
手の甲が思い切り抓られるのを感じる。同時に、痛み。
「“当然の義務”なんでしょう?」
こんなに可愛らしい笑顔をするくせに、なんて残酷なことを言うんだろう。
そうとは言え、結局太刀打ちできないのだから、“惚れた弱み”とはよく言ったものだ。
わかったよ、と返事をすれば、また満面の笑みが返って来る。
まったく、自分は一体この少女の何処に惚れたのだろうか。
一連の会話を終える。
「……寒いね」
「……ええ」
一層強く、繋いだ手を握った。
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<あとがき。>
沢村の性格忘れた……!!(開口一番それですか)
クリスマス企画、螺旋編です。沢ひよってパラレルですね。
沢村とひよちゃんにはこれくらいのやりとりがいいと思うのですが、実際接点ないと思われるので難しいです。
ていうか、クリスマスがテーマになってないような。いいや、気にしない。
螺旋更新も頑張りたいと思います、ハイ。