明るく・楽しく・幼児虐待!!
晴れ渡る空に気持ちのよい風。奥様方の井戸端会議も長引くような恵まれた天候の下、
小さな小さな少年少女たちが元気一杯に遊んでいた。その場所の名は「月見ヶ丘保育園」
「うぁああああ奈央せんせえ〜」
「あれ・・・・六津くんどうしたのー?」
そんな穏やかな保育園の庭を園児が泣きながら走る。
名前を呼ばれた保育士奈央は着ているピンク色のエプロンのポケットからハンカチを取り出すと
走ってきた六津という園児の顔を拭いてにっこりと微笑みかける。
泣いていた六津は少しずつ普段の落ち着いた状態に戻っていくと服の袖で涙を拭って奈央を見上げた。
「あのっ実は部屋で・・・・・・・」
六津の話は今から十数分前に遡る。
保育園教室内。
つみきや絵本などで遊ぶ子供達がいる中、イスに座る一人の男がいた。
勿論ここにいるのだから当然子供達を見るための保育士なのだが、黒の上下に身を包み、その上から水色のエプロンをした金髪の男。
うさんくささ大爆発である。
しかも子供達を見ているはずがイスに座って腕組みをしたまま居眠りをしている始末。
職務放棄もはなはだしい。しかし、そのまま過ごせるわけもなく。
ドガッ
突如飛んできたボールが見事にその保育士の頭にぶつかった。
眠っていた保育士は思わぬ衝撃に見事にイスから落下した。
そしてぶつかったボールはてんてんと跳ね返り、とある園児の下へ・・・。
「はっはっはー!とうとうやっつけたぞっこのぼうりょくふりょうちゅうねん!」
「い・・・・いくらなんでも今のはどうかなぁ・・・」
台詞がひらがななのは幼い所為なので読みづらくてもツッコミをいれてはならないのですが、
とりあえず「空」と書かれたチューリップ形のバッチをした園児がボール片手に高らかと声を上げた。
その横で同じく六津と書かれたバッチをつけた園児がおろおろとしている。
「おおっなんだなんだおもしろそーなことしてんじゃねぇかっ!」
「よぅ多一。すげーだろあのアクマをたおしたぜ」
騒ぎを聞きつけて多一という園児がやってきた。
空は得意げに胸を張って自慢した。
そこにがたっと音をたてて、倒れていた保育士がゆらりと立ち上がる。
そして、がごんっとさきほどまで座っていたイスを蹴り飛ばした。
「おおっ立ったぜ!」
「ぬぅっこのぼうりょくふりょうちゅうねんめっもう一発くらえーっ!!」
空は大きく振りかぶってボールを投げた。
子供の割りに強烈なボールは一直線に保育士の元へと飛んでいく。
だが保育士はそれを片手で受け止めるとそのまま振りかぶり一直線に空に向けて投げはなった。
「げふっ!!」
そのボールを見事に顔面で受け止めた空はゆっくりと後ろに倒れた。
「すげぇな空っ漫画みてぇだぞ!!」
「空くーんっ!!」
倒れた空を見て多一がはしゃぐ。そこに大またでやってきた保育士は倒れた空の腹を踏みつけた。
「こりねぇガキだよなぁ、本当によぉ?」
「うるせぇガイジン」
余計な一言により空の腹は更に踏まれ、空の意識は遠いお空に旅立った。
その空を蹴って端っこに追いやった保育士は不機嫌そうな顔でズボンのポケットに手を突っ込んだ。
「ケレス先生」
「あぁ?」
そんな保育士―ケレス―に一人の園児が声をかける。青い髪をした、明らかに目立つ園児の創兵は読んでいた本から顔を上げてケレスを見ている。
「なぜ、先生はそういうことをするんですか?」
「アレがうざいから」
(じゃあなんで保育士になんかなったんだろう・・・・)
創兵とケレスのやり取りを聞いて思わず顔を背けながらそんなことを考える六津。
「じゃあこどもは好きですか?」
「大ッ嫌いだ」
(だからどうして・・・・)
きっぱりはっきりと言い切ったケレスに思わず泣きそうになりつつ六津は空をゆすり起こそうとする。
しかし空は起きるどころかまったく反応がなかった。
「ふっやれやれ・・・・そんな人が先生なんてよもすえですね」
溜息をこぼしつつ呆れる創兵(5歳)
ケレスはそんな創兵の頭をがしっと掴んで持ち上げると自分の目の前まで持って来る。
「おー随分難しい言葉知ってんなぁ?」
「ええ・・・まぁ」
「そんな賢い頭ならわかるよなぁ?」
「何を・・・・」
「年上を敬うって事を、だ」
みしみしと音が鳴りそうなほどに頭を握り締められた創兵は見た目からも分かるように虚弱なため既に意識が落ちかけていた。
「先生!次はおれのばんだぜっ!!」
「はぁ?」
創兵を掴んだまま振り向けば、そこには多一がおもちゃのバットをかまえて立っていた。
ケレスは面倒くさそうに耳をかきながらそれを見下ろした。
「いくぜ先生おりゃあっ!」
思い切り振りかぶったバットの先からなんと真空刃が。
「なんかでちゃったよ!!?」
「ふっ・・・・舐めるなよガキがっ。必殺!人間バリアーっ!!!」
「えええええええええええええ!!!???」
飛び出た真空刃(推定一cm)を持っていた創兵で見事防いだケレス。
おかげで創兵の手から血がたらりとしたたり落ちた。
「・・・・・・・あう」
「えっ多一くん!?」
その血を見た多一は意識を飛ばしてその場に倒れた。
ケレスはその横に創兵を投げ捨てるとようやく静かになったとばかりにイスに座りなおし、また居眠りを始める。
六津はおろおろと教室を見渡し、そして。
「うわああああああああああああああああんせんせええええええええええ」
泣きながら猛烈ダッシュをして、今に至る。
「ってことが・・・・」
「そっかぁ・・・じゃあ後でめって叱っておくからね」
「え・・・」
「じゃあ六津くんは外で遊ぼうねー」
「えーーーーーーーーーー!!?」
そんなこんなで、月見ヶ丘保育園はいつも元気一杯なのでした。
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ノリと勢いだけで意外といけるもんだよね、という話です