金色と真紅のワルツ

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ・・・・・まずったか?」

 

工業地帯のドン詰まりにある倉庫棟。その中でももう使われてない倉庫の集まりで俺―ケレス―はその倉庫の1つに身を隠していた。

正確には、倉庫の影から入り口を見張ってるわけだが。

非番だった俺は、特にやることもなく、ただ家の冷蔵庫に酒しかなかったから外に飯を食いに出ただけだった。

が、そこでいつものファーストフードじゃなく、遠出してみようなんて考えたのが運の尽きだ。

あんまり来ない場所の所為で道に迷い、辿りついたのはここ、しかも、今違う課の追っている密輸団らしきヤツラを見つけちまった始末。

そいつらを付けて来たはいいが、先も言ったとおり非番な俺は銃も警邏の手帳も持ってねぇし、

しかも工業地帯の所為で電波が悪く、携帯も圏外になっちまった。もし万が一見つかったらアウトだが、放っておくつもりもねぇ。

連中がこの倉庫に入ってけっこう経つ。もしかしてバレたかと背筋に汗が伝う。すると低く重い音が響いて中に入った連中が出てきた。

連中は何事か話しながら遠ざかっていった。俺は連中の姿が見えなくなってから俺はそっと倉庫の入り口に回る。

微かに開いていた倉庫の扉を静かにぎりぎり入れる程度にまでに広げて体を滑り込ませる。暗い倉庫は冷凍用じゃあないが外よりも気温が低く、

俺は腕を擦りながら奥へと進んだ。ライターの小さい火を頼りに奥へと進む。やがて目の前にたくさんの箱が並んでいるのが見えた。

そのうちの一つの蓋を開けて中をライターで照らせば・・・・。

 

「ビンゴっ」

 

 中に並んでいるのは白いパックに入れられた粉つまり麻薬だ。多分他の箱にも同じものかまたは別の種類の麻薬が入ってるんだろう。

後は一度ここから離れて本部に連絡を取るだけだ。

 

「おい」

「うおっ!?」

 

蓋を閉めたところでいきなり背後から声をかけられて思わず声が出た。

銃は持ってないっつうのに反射的に懐に手を突っ込みながら振り返れば、なにやらやけに大きい上のほうがドーム型になってるらしい物体があった。

上からシートがかかってる所為で何かはわからねぇが、たぶん檻かなんかなんだろう。

 

「誰だ?って自己紹介されてもわからねぇけどよ。連中に捕まったのか?」

「そんなところだ・・・」

「ま、すぐに助けてやっからもう少し待ってろ」

「そんなことよりとっとと逃げろ」

「あぁ?」

 

それはどういうことだ。っつう俺のセリフは重々しく開いた倉庫の扉の音でかき消された。扉が開ききったと同時に倉庫内の電気が点く。

あまりの眩しさに顔を腕で覆い、顔をしかめながら出入り口を睨んだ。

 

「鼠が迷い込んだと思えば・・・・小汚い猫が一匹か」

「誰が小汚ぇ猫だ!」

 

 リーダーらしき男のセリフに言い返しながら靴底を滑らして後ろに下がる。下がったところでどうしようもねぇが、武器のない俺が出入り口を封鎖するように広がってこっちに銃を構えてる連中とやり合えるわけがなかった。

 

「どこから雇われた?」

「ケッ言うわけねぇだろ?つぅかそんなことてめぇらに関係あんのかよ」

「ふっ・・・確かにな」

 

 リーダー野郎がいけすかねぇ笑い浮かべながら手を上げると、三、四人が刃物を手に一歩前に出る。

 

「どうせ物言わぬ死体と化すだけだからなっ!」

 

 手を下ろすと同時に弾かれるように数人がこっちに向かってくる。

俺はあることに気付いてしばらくその場で待ってから一番早く俺のところまで来ている一人へと一歩踏み出した。

振り下ろされるナイフの下を掻い潜って相手に懐にもぐりこみながら、ナイフを持っている手首を引っつかみながら鳩尾に拳打ち込む。

相手の腹に拳がめり込む感触と苦悶の声を同時に感じ、掴んでいた手首を捻ってナイフを落とさせながら横から迫って来ていた一人に投げつける。

避けきれず、一人の人間の重さを受け止めることもできずに男が倒れた。

俺はその倒れた二人を思い切り踏みつけて跳躍し、さらにその後ろにいた男の顔面に靴底をめり込ませた。鼻血を吹いてぶっ倒れた男のナイフを手に取り、頭上から打ち下ろされた刀を屈んだままの中途半端な体勢で受け止める。獲物のリーチの差と体勢でこっちの部が悪い。

 

「時代錯誤なモン使ってんじゃ・・・・ねぇっ!!!」

 

 俺は刀の方向を横に流しながらわざと後ろに倒れ、バランスを崩して倒れこんできた相手の胸めがけて腹筋を使って両足で蹴り上げる。

その反動のままに立ち上がった俺と対照的に男は苦しそうにうめきながら地に伏せた。

 俺は軽くズボンを払ってから連中に向けて指を突きつけて言い放つ。

 

「もう終わりか?」

「ちっ・・・・」

「その両側にひしめいている連中はせっかくいい銃があるっつうのになぁーんで使わないのかねぇ?」

 

 少し同僚に似せた口調で挑発すれば相手は苦々しく顔をゆがめた。俺は口角を上げて睨みつけるように笑う。

 

「まぁ使えるわけねぇよなぁ?俺の後ろにこんなのがあったらよ」

 

 後ろを見ずに指で自分の背後を指す。そこにあるのは大量の麻薬の詰まった箱と誰かが入っているらしい布をかぶった檻(予想)。

 

「麻薬の密輸の話は聞いてたが、まさか人身売買までしてやがるとはなぁ・・・・」

「くっ・・・」

「お宝とご対面だっ!!!」

 

 言いながら後ろに下がって左手で布を掴み、この状況には似つかわしくねぇ心地のいい布の感触にかすかに馬鹿馬鹿しい気分になりながらそれを思い切り引っ張った。布がこすれる音を立てながら床に落ちていく。中にあったのは鳥籠を模したような檻。

そしてその更に中で鳥が止まるような台座に腰掛けている一人の男。見た目は俺よりも十歳は若い男は真っ黒なコートに身を包み、この国じゃめったに見ない漆黒の髪とやる気のなさそうな同色の瞳をしていた。

しかし何よりも目を引くのは、その背から生える真紅の翼。檻の中で窮屈そうに閉じられている真紅の翼を凝視する。

 

「に、人間に・・・・・・翼が・・・・・・?」

「ふっすばらしいだろう・・・・こんなもの見たことがない。必ず高値で売れる・・・・」

 

 野郎の言葉にふっと気持ちが冷たくなる。今、もし銃を持ってたら野郎の足元に打ち込んでただろう。

俺は左手で檻の格子を握りながらジャケットのポケットに手を突っ込み、圏外の表示が出ている携帯を取り出した。

連中がせせら笑いながら電波状況について説明してやがるが、俺は全部無視して檻に向き直る。中にいるガキは抱えていた片膝を下ろしてこっちを見る。

俺はそいつに向かって軽く笑って見せると、檻の錠前に向けて携帯を振り下ろした。火花を散らしながら携帯が大破し、同時に錠前の各所が砕け、ヒビがはいる。使い物にならなくなった携帯を捨てながらもう一度中のガキを見るといつのまにか台座から降りてこっちを見ていた。俺よりも年下に間違いないくせに俺よりでかいことに気付いて癪な気分になりながら壊れかけの錠前を掴む。我に返った連中の制止の声より早く力の限り錠前を引きちぎった。派手な音がして錠前が外れたが、俺の手には少しの痺れが残った。

 

「貴様っなんということをっ・・・・・・」

「はぁ?知らねぇ・・・・なぁっ!」

 

 左手で檻の扉を開け放ちながら駆け出す。慌てて銃を構える連中だが俺の後ろにまだあのガキがいるからか、さらに焦って銃口を下げる。

連携の取れてない動きに鼻で笑いながらリーダー野郎の直前で跳躍してスピードと体重の乗った飛び蹴りを引きつった表情を浮かべた顔に喰らわした。派手に倒れた野郎を見て回りの奴らが一斉に飛び掛ってくる。体を沈め、同士討ちしかけた連中が動きを止めた瞬間に床に手をついて逆立ちの要領で両足を突き出して二人沈め、そのまま振り子のように振り回して周りの数人を地に叩き伏せる。倒れた奴らが邪魔でこちらに近づけない連中のうち数人が銃を俺に向ける。黒服集団に囲まれた状況ならば大丈夫と踏んだんだろう。

 

「馬鹿っやめろっ!!」

 

 気付いた連中の中の一人が声を張り上げるがもう遅く、俺はとっくに連中の間をすり抜けて中に入って銃声と連中のうめき声を聞いた。

あんな密集状態で撃ち合えば同士討ちになることぐらいわからないってことは、プロじゃないとわかる。俺はそっちに気を取られている連中を片っ端から殴り、蹴り、地面に伏せさせていく。

 だが、突如後ろから思い切り髪を引っ張られて体勢が崩れる。そこに首に腕を回されてがっちりと固められた。息苦しさに顔をしかめながら腕を外そうともがくが、頭のすぐ横で戟鉄の音が響き、俺は動きを止めた。連中の間からリーダー野郎が出てきて俺の顔を覗き込んでくる。

 

「一人で突っ込むなんて馬鹿な真似するからだ」

「その馬鹿にいいようにやられたヤツは馬鹿以下だなぁ?」

 

 言った直後に野郎の足が腹にめり込む。込み上げる吐き気を無理やり飲み込んで睨み付ける。わざとボディを狙った攻撃は数分間続き、しまいに、俺の髪を掴んで上を向かせた。両腕を押さえられ、膝をついた状態で見上げる形になった俺の眉間に銃口が突きつけられる。

 

「ふっ・・・・・命乞いでもしたらどうだ?」

 

 俺を見下ろしながらせせら笑う相手の顔を睨みながら、血の混じった唾を吐き捨てて口を開く。

 

「ピーチクパーチクうっせぇんだよ雑魚」

「しっ・・・死ねぇっ!!!」

 

 野郎が叫んで引き金を引こうとした瞬間。俺は、見えない何かに銃の先端が切り取られて野郎が間抜けな表情を浮かべるのを、俺を拘束していた連中を力ずくで振り解いて地面に伏せた状態で見ていた。俺を囲むようにして円をかいていた連中の外のほうからうめき声が上がり始める。呆気に取られてた連中が気付いてそっちに目を向けたのを見計らって俺も立ち上がり、野郎を「三倍返しだっ!」と思い切り殴り飛ばして傍の連中をなぎ払う。

 ふっと視界の端に血が舞い上がるのを見て、向かってきた奴に回し蹴りを浴びせてそちらに体を向ける。それと同時に目の前にいた奴がうめき声を上げて倒れた。その向こう側にいたのは、とっくに逃げたと思っていた赤い翼のガキだった。

 

「おっお前なんでここにいんだよ!」

「なんでって・・・・・・まぁ、恩返しみたいなものだ」

 

 檻の中に居た時と変わらないやる気のなさそうな目で告げる。その直後にガキに向かって警棒が振り下ろされた。しかしガキはやる気のない目をかすかに細めてアンティーク調のナイフで警棒を握る相手の手首を斬り裂き、落ちた警棒を踏みつけながらもう片足を鳩尾に決めた。その躊躇のない動きにただの素人じゃないことが見て取れた。最近のガキは本当に物騒になりやがってと思いながらもこの人数を一人で捌くのは骨が折れるという現実にはかなりの助け舟になる。ガキと背中合わせのような状態で視界の中で動く連中を順番に倒していく。すぐに復帰できないよう死なない程度に(といっても素手じゃあめったなことがない限り死にはしねぇが)急所を拳で打ち抜いて。

さっきまで好き勝手に殴られていた所為で腹の辺りがずきずきと痛む怒りも上乗せしながら裏拳で相手の鼻を砕く。ちらりとガキの様子を見ると、黒いコートの裾をなびかせて翼を苦ともせずに相手の足をナイフで切り裂いていた。よそ見している俺に殴りかかってきた奴の腕を取って、関節技を決めながら辺りを窺えば、ガキに倒されて血を流してる奴らの中には明らかに致命傷を受けて虫の息になってるのもいる。死なないように手加減するほど腕が立つってわけじゃないようだ。そんなガキがいても困るけどよ、と思いつつ技を決めてた奴の肩を外して次に入る。

 目に見えて相手の数が残り少なくなったとき、倉庫の外から車の発信音が聞こえた。ざっと残った連中を見渡すと、あのリーダー野郎の姿がいなくなっていた。ちょっと前までガキを傷付けずに捕まえろだの俺を殺せだの叫んでたっつうのに。

 

「あのクソ野郎逃げやがったなっ!!」

 

 怒りを込めた右ストレートを繰り出しながら叫ぶ。数は少なくなったとはいえ刃物を持った連中の間を抜けて追うのは難しいうえにこっちには足がない。残った連中の乗ってきた車があるだろうが、この大人数の中からキーを持った奴を探し当てて、なおかつそのキーの車を見つけるのはさらに至難の業だ。こうなったらここにいる連中だけでも全員伸してやろうと拳を固めた。が、ふわりと頬を風が撫でたと感じた直後に巻き起こった強風が残った連中を床や壁に叩きつけてしまった。思わずあっけに取られていた俺の頭上から呼び声がして顔を上げる。そこには赤い翼を広げて羽ばたいているガキがいた。

 

「お前がやったのか?」

「ああ・・・・そんなことより、掴まれ」

「はぁ?」

「追いかけたいだろ?」

 

 やる気のない表情が不敵な笑みに変わる。こいつの意図を読み取り、一瞬拒否という選択肢も浮かぶが俺の口からは承諾の言葉が出ていた。

近くで倒れていた奴の懐から銃を一丁奪って左手でガキの手を掴む。ガキは二、三度その場で羽ばたいてから高度を上げて倉庫を飛び出した。俺は生まれて初めての空中浮遊に驚きを隠せずに思わず声を上げる。顔を上げるとガキは人を抱えて飛ぶのは初めてなのか飛びにくそうな表情をしながらあたりを見回していた。

 

「いたっ」

「どこだっ!」

 

 ガキは答えない代わりにスピードを上げて一点に向けて高度を下げつつ飛び始めた。目を凝らすと白い車が倉庫と倉庫の間を疾走している。俺はガキにもっと高度を下げて近付くように指示する。ガキは「気絶しないようにな」と可愛くない口を叩いて速度をさらに上げた。体に負荷を感じながらも俺は左手に力をいれて体が揺れないように固定すると銃を構えた。やや広めの通路を俺たちに気付いたのかジグザグに走る車のタイヤに狙いを定め、タイミングを見計らって撃つ。

 

 

 倉庫棟に一発の銃声と車のクラッシュ音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 その後、なんとか無事だった野郎をこれでもかというぐらいに殴り飛ばし、ガキもそれなりに鬱憤があったのだろう、何度か蹴って気絶させた。

そして野郎の携帯でパトロールに連絡し、奴らは見事に捕まった。俺にはボーナスが出たが、非番な俺は一般人扱いなので銃を扱ったことの罰金として半分取られた。残りの半分は無理やりツケていた飲み屋に取られて結局俺の手元には何も残らなかった。

 あのガキはというと、パトロールが来る前に「面倒ごとは嫌いだ」と言って夕闇の空に飛び立っていった。事件が終わった後調べてみたが該当しそうな奴は出てこず、あいつの素性は謎のままになってる。わかっていることは、去り際に聞いた名前だけ。ほとんど沈みかけた夕日に照らされながら楽しげな表情で伝えられた

 

 

〔カナメ・ヒビキ〕

 

 

 という、不思議な名前だけ。

 

 

 

 

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はいっもしかしたら一番長いんじゃないの奥さんというアニバーサリー話ここに完成!おかしい最初はもっとただ暴れるだけの話だったのにっ!

なんか無駄に見せ場とかあるよ奥さん!!昼間だけどテンション高いよ奥さん!!

ぶっちゃけ家じゃ最初の五行程度であと全部部室で書き上げましたよ奥さん!それの何が悪いか( ゜Д゜)、

とりあえず終わってよかったよかった。面白くもなんともない話ですがまぁ読むな(ぇ

水無月 雹でした。