Q−ZAKUの
『富野アニメを語る』



『イデオン・刻を越えて』

早いもので・・・・あれから20余年、富野監督のロボットアニメ、イデオンに接触したのは・・・・・。当時私は小学生、枯れ木を見てもオバケと信じ、眠れなくようなナーバスな年頃、いかにあの話がトラウマになったかは内容を知る人には説明するまでも無いと思う。

とにかく、劇場版の発動編については、もはや、なんのいいわけも聞きたくない。問答無用、あらゆる罵倒の言葉を浴びせても飽き足らない怒涛のような怒りで、当時は我を見失っていた。まぁ子供だった事もあるけど・・・。

首は飛ぶ、顔面は打ち抜かれる、これでもといわんばかりの、残酷シーンの数々。当時はガンダム的な魅力とも言えるメカアクションや高度な設定で、我々少年達の心をつかんでおきながら、最後に今まで親しんでいたキャラが次々に死んでいく展開は、いくら奥の深い話だというお題目を山ほど聞いても、納得できるものではない、やっぱり子供だった事もあるけど・・・。

さて、今回の再鑑賞の感想ですが・・・・私は長年、実に勘違いしておりました。それは戦いの構図が、「地球人VSバッフクラン」だと思っていたのに対して、実は「イデVS知的生命体」だったということです。

・・・・・・なにそれ・・・と言われそうですが、私は、そうだと思います。

率直に申し上げて、イデの正体は知的生命体(人間)とシンクロし、宇宙そのものを肉体(からだ)する、独立した生物(生命の集合体)だと思われます。

イデの目的はただ一つ、自分の事しか考えない人間達をエゴの束縛から解放すること、そして、人間の人間たるもっとも重要な力、この宇宙!この大宇宙を守り、支えるという本来の力を取り戻し、役割を果たさせることにあると考えます。

人間の本来の役割とは何か?それは生命の尊厳を知り、大宇宙を支える存在になることです。

私は以前、カミーユの「人間の命は、宇宙を支えているものなんだ!」というセリフは重要だと思うということを書かせて頂きました。この考えはカミーユだけではなく、意外に多くの人間が言っていることなのです。

東洋哲学に精通した文豪、宮本輝はこういっています。「人間と他の動物の違いは二つしかない、それは自殺することと祈ることだ・・・・」仏教に限りませんが自殺は生命の尊厳に対する最大の暴挙とされいます。そして、祈るという行為は生命の尊厳に対する最大の供養とされています。つまり、人間は生命の尊厳と暴挙を一手に握る存在だという事です。そして、人間は宇宙そのものに直結し、極めて大きな影響力を持つとされているのです。あくまで仏教的な解釈ですが・・・。

つまり、知的生命体(人間)が狂えば、宇宙が狂ってしまうのです!そうです!実は人間の生命は全宇宙よりも偉大なのです!昔、放映していた、特撮番組「超人機メタルダー」のOPテーマ「君の青春は輝いているか?」の歌詞の中にはこうあります。「宇宙〜全体よ〜りも♪広く〜て深いもの〜それは〜♪一人の〜人間の心〜!」・・・・と。

さて、イデオンの世界での人間は、バッフクランのドバ総司令が言うように、エゴにまみれた忌むべき存在でありました。このままでは宇宙は死んでしまう危機にあったのです。そこでイデは行動を開始します。人間を壊滅させ、新たな優良な人類を誕生させる為に・・・。しかし、そうなれば、運命共同体である、イデ自身も消滅してしまうのです。イデは死にたくありません、葛藤がはじまります。そこでイデは、大きな賭けに出ます。それは、二つの人類を衝突させ、その中で、地球人とバッフクランとの間に生命を誕生させ、その子供に生命の尊厳を守る、メシア(救世主)として、人類を正しい道に導かせる。だが、失敗すれば、人類とイデは消滅する・・・・。

そして、二つの人類はソロ星で接触します。結果、戦争になりましたが、イデの導きにより、選ばれた二人が接触に成功します。ベスとカララの二人です。

人類とイデの試練が始まりました。戦争はどんどん進み、バッフクランはソロシップを恐怖から破壊しようと、全勢力を注ぎますが、カララの中に誕生する予定のメシアを助けるため発動するイデの力の前になす術もありません。しかし、イデが戦争を拡大すればするほど、エゴと恐怖は増大し、自分と運命共同体である、人類も磨り減っていくのです。

状況は悪化し、人類の業がどうにもならないと悟ったイデは決断をします。そう、人類を消滅させる結果に導くことを・・・・しかし、それはイデ自身の消滅を意味するのです

人類は壊滅し、イデも消滅しました。しかし、これは悲劇なのか?いや違う、イデは人類をなんとかしようと、自分との葛藤の中で生命の尊厳を守る戦いを起こしました。

以前書いたように、生命の尊厳の為の戦いは、聖なる儀式であり、その儀式に参加したものは、悪も正義も皆、救われる、これは仏教思想の一つです・・・・と。

宇宙を巻き込んだ、この巨大な聖なる儀式に参加したもの(特に深くかかわったものほど)は皆救われ、至高の境涯を手に入れ、魂を開放させる、そして、今までの罪業を消滅した新たな命は、明日に続く来世へと旅立っていったのです。

これが、イデオンのラストシーンの意味だと思います。

しかし、これ以外の説も多数、考えられます、これは、また次回にさせていただきます。

ところで、イデの声を柴田さんが演じていたのは笑いました。

そうです、実はイデの本当の正体はデギン公王の精神力を増大させた「ジオンの亡霊」だったのです。(ちなみにサイコガンで破壊できます)←おい!!



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