Essay 6  笑いと涙は紙一重
子供の頃からお笑いが好きだった。5歳のときにMANZAIブームが巻き起こり、保育園から帰るなりずっとテレビにかじりついていたのを思い出す。その後は萩本欽一さんの全盛期。欽ドン・欽どこ・欽曜日の3番組で視聴率100%男と謳われた偉大なコメディアンだ。以後BIG3(タモリ・たけし・さんま)、とんねるず、ナインティナイン、爆笑問題が僕の好きな芸人の系譜である。だが、なんといっても忘れられないのはザ・ドリフタ-ズだ。僕は「8時だヨ!全員集合」をリアルタイムで体感できた最後の世代である。毎週毎週組まれる大がかりなセット、子供達の心を捉えて離さないギャグの数々とアドリブ・・・すべてが凄かった。今も、時々TBSで過去の映像が流れるとその度に胸が熱くなる。あと10年、早く生まれたかったと何度思ったことか。学生時代、放送作家を志したのもドリフの影響だろう。いつも誰かを笑わせたい、いつも誰かを感動させたいというサービス精神を、僕はテレビで培った。

タレントがテレビでそれぞれの持ち芸を披露しているのを見て、時々そこにある種の哀愁を感じる。画面で見せる笑顔の後ろ側に、洪水のような涙を見るのである。それは芸人だけでなく、歌手や俳優、アイドルも含めてだ。喜劇王・チャップリンは映画「ライムライト」で、心優しき芸人カルベロを演じた。カルベロはリウマチで腰を悪くして自殺未遂したバレリーナ・テリーを励ましつづけ、遂に再起の舞台に立たせるも最後に自らは死んでしまう。「人生を恐れてはいけない。人生に必要なのは、勇気と想像力と、ほんの少しのお金だ」の科白は、あまりにも有名だ。チャップリン自身も、私生活は波乱に満ちていた。だからこそ、世界中の人々を魅了する芸を培ったのだろう。

昭和を代表する伝説のコメディアン・故東八郎さんは生前、こう語ったという。
「芸人はどんなにつらい時でも、笑ってなくちゃいけない。笑わせなくちゃいけない」
芸を一生の仕事とし、瞬時に消えてゆく笑いに賭けた男の矜持をそこに見る。これだけの思いを持って芸に携わる漫才師が、今どの位いるだろう?個人的には、お笑い第四世代以降の若手芸人諸氏に奮起を促したい。BIG3や御三家にとって変わろうという気迫が伝わってこないのだ。口が少々巧いだけの人間ならどこにでもいる。他人の心の痛みが分かってこそ、芸は共感を招来すると思う。笑いと涙は紙一重。日本人は涙もろい民族だからこそ、笑いが大好きなのである。


・・・そんなことを考えながら、今日もテレビをつけよう。

                                          Shuichi Hatta
                                         2003.10.13