Essay 31 無責任な、あまりにも無責任な
参院選が終わった。小泉宰相率いる自民党は政権を共にする公明党の全面支援を受けながら、岡田代表率いる民主党に敗北を喫した。特に自民の金城湯池とされた西日本の1人区で野党の猛攻を受け、地方でも自民離れの加速が実証された。数だけ見れば僅差だが、その実態は歴史的大敗だ。にも関わらず、宰相は「政権選択はあくまで総選挙で問われるのであって、参院選は関係ない」と言い放った。党幹部も、誰一人辞める者はいないという。

無責任な、あまりにも無責任な。

三菱ふそう欠陥車の母子死亡事件で当時の社長が逮捕された。欠陥の事実を隠蔽し、無数の殺人車を社会に送った。社会の公器であるはずの大企業が犯した大罪に、出資先のダイムラーも呆れ果て資本撤退を表明。そして、天下のスリーダイヤは地に墜ちた。

無責任な、あまりにも無責任な。

古本屋で、薬害に冒されたあるサラリーマンの手記を手にとった。なんと可哀相なと思いつつ読み進めてみたら、その著者は社会で“悪徳企業”とされる某大手害虫駆除会社のエリート社員で、かつては膨大な売上を誇り役員も目前だったという。当時の写真が掲載されていたが、海よりも深いカルマ(業)を積んだ悪人の顔そのものであった。彼は自分が言葉巧みに騙して契約させた被害家庭の悲憤など一顧だにせず、ただ己の身に降りかかった不幸のみを責めているのであった。

無責任な、あまりにも無責任な。

・・・“自分さえよけりゃいい”という人間が多くなった。日本国の総理が、国民からNOを突きつけられても保身の為に居座る。「為政者は民の父母でなければならぬ」と言ったのは江戸幕府第八代将軍・徳川吉宗だ。あのライオン宰相に、吉宗公と同じ思いを持てと諭すのはどだい無理なのか。・・・造ってしまったものはしょうがない。クレームは隠してしまえ。自分の経歴に傷がつく・・・企業人として、人も羨むエリートコースを歩いてきた男の人生の終着駅は、会長室ではなく塀の中であった。・・・売って売って売りまくれ。瓦がはがれている、白蟻が巣食って大変だ・・・
心無い言葉で善人を騙し続けた男は、かくして今世でその生命をもって罪を贖うこととなった。因果応報。その姿は、菅原道真を無実の罪で失脚へと追い込んだ、藤原時平の哀れな最期と重なる。

無責任な人間は、必ずその業を償う宿命を持つ。大和民族は、太古の昔よりお互いを譲り合い、助け合いながら生活をしてきた農耕民族だ。しかし戦後、アメリカから輸入されたゼロサムゲームの発想は、智慧や修養を持ち合わせない愚かな輩を毒した。そういう無責任な連中を、社会の主流に据えてはいけない。先祖の代から連綿と続く、他人を思いやる気持ちを再び取り戻そう。それこそが、我々にとって真の幸福というものだ。
最後に、浄土信徒としても知られた亀井勝一郎の『愛の無常について』の一文に耳を澄まそう。「幸福という言葉。万人がそれを夢見るのですが、現代人たる我々は、何かしらきまり悪げに、おずおずした気持で、この言葉を発しているか、さもなくば意地わるく否定的に対しているような気がしてなりませぬ。文明に拷問され諸々の社会的悲惨に慣らされ、せち辛くなったからでしょうか」
Shuichi Hatta 2004.7.18