Essay 2  芸術のことは・・・
最近は、映画館によく足を運ぶようになった。昔は邦画が好きだったが、20歳を過
ぎてからは洋画ばかり。お気に入りの監督や俳優という基準ではなくて、一応話題
になっているものは観ておこうといった感じだ。

この間は『シモーヌ』という喜劇を観た。あのアル・パチーノが、初めて喜劇に挑戦す
るというので、これはスクリーンで体感せねばと思った―と言えば格好はいいが、実
際のところはその映画の新聞広告で、自分の好きなある女優が推薦文を出してい
たから、という不純な動機だったりする。何はともあれ、映画は絵や小説と並び、歌
を書く人間にとってはこの上ないインスパイアの呼び水だ。シナリオの背景、俳優の
表情、舞台の風景、そして科白・・・観ている者の瞳に映るすべてが、あらゆる創作
意欲、ひいては、この世知辛い時代と同伴してゆく意欲の源となる。


今年、キャサリン・ヘプバーンが96歳で逝った。彼女が王妃役を演じた『冬のライオ
ン』の中に、こんな科白がある。

「希望だけがないのね」「生きている。これが希望だ」―

日本の年間自殺者が3万人を突破して久しい。今日は一体何人が、自ら命を絶つ
のだろう?
生きていることに希望を見い出しにくい、こんな時代だからこそ、生きていることに執
着して、社会に自分の痕跡を残したいと思う。
そういえば、小津安二郎がこんなことを言っていた。
「僕の生活信条として、なんでもないことは流行に従う。重大なことは道徳に従う。芸術のことは、自分に従う」



・・・僕も言葉のことは、あくまで自分に従おう。

                      Shuichi Hatta
                       (2003.10.3)