巫女インタビュー2

インタビュアー土方(以下、土方):『あー、皆さん。こんにちは。インタビュアーの土方です。』
  ・・・前回の巫女インタビューがあまりにも好評だった為、この企画はシリーズ化されてしまいました。
  ・・・それで、今回も私に白羽の矢が立った、と同時に私は今、巫女喫茶かるたの前に立っています。
  ・・・思えば一ヶ月前、あんなことやこんなこと(前回参照)があって以来、二度と足を踏み入れたくない領域だったのですが・・・。
  ・・・幸い、今回はあの三人ではなく違う三人の女の子だそうです。(・・・ほっ)
  ・・・今日は残念ながら外は小雨がぱらついている為、店内でのインタビューとなりました。さぁ、それでは実際に入ってみましょう。
  ・・・こんにちはー。

カランカラン。

『いらっしゃい。』
『あ、あのインタビューの件でお伺いしたのですが・・・。』
『ああ、そうですか。待っていましたよ・・・今日は足元のお悪い中、ようこそお越し下さいました。どうぞ、こちらへ・・・。』
『(なんか感じの良い子だなぁ・・・)は、はい。』

土方は案内されたテーブルへと向かう。

『ここの席で少々お待ち下さい。』
『あ、はい・・・ありがとうございます。』
『あ、申し遅れました・・・私、ここで巫女をやっている緋袴 睦月(以下、睦月)と申します。以後、お見知りおきを・・・。』
『あ、いや。こちらこそ・・・インタビュアーの土方です。』
『あと二人の巫女を呼んできますので、少々失礼致します・・・。』
丁寧に腰を曲げ、睦月は奥へと消えて行く。

『(ああ、立ち振る舞いと言い・・・言葉遣いと言い・・・経営者の性格が感じ取れるなぁ。)』
『(これなら前回みたいな展開にはならないだろうなぁ・・・良かった。)』
そうこう考えていると・・・。

睦月:『遅くなりました・・・申し訳御座いません。』
睦月は新たに二人の巫女を連れてきた。
睦月:『では、これから自己紹介を致します。まずは・・・。』
睦月は千穂の方を見る。
千穂:『む、私からか・・・?話では蒼葉殿からではないのか?』
睦月:『別に順番なんてどーでも良いんだよ!さぁ、とっととやっとくれ。』
土方:『(あれ?あの睦月って子・・・さっきと口調が違うような・・・まぁいっか)』
千穂:『うむ、私は天乃宮 千穂。今日はよく来たな・・・む、もう座っているな。それで良い。』
土方:『あっ!すみません。インタビュアーのくせに座ってしまって・・・。』
土方は慌てて立ち上がる。
千穂:『いや、この店は・・・貴殿、もしくはすべての客人に安心して座ってくつろげるスペースを提供しているのだ。』
  ・・・今日(こんにち)は、たとえ責務とは言え、ゆっくりしていってくれ・・・。
土方:『(なんか話し方が変だけど、人の事をよく気遣う人だなぁ・・・。)』
土方:『ありがとうございます。では、そちらの・・・。』
蒼葉:『伏見 蒼葉だよ〜。』
蒼葉はヘラヘラしながら、言う。
土方:『(だよ〜、って・・・汗。いつもこんななのかな・・・)』
蒼葉:『あなたのお名前は〜。』
土方:『わ、私は土方と申します。』
蒼葉:『ひ〜じ〜さ〜ん。よろしく〜。』
土方:『あ、こちらこそ・・・(って、方が抜けているのだが・・・それにしてもよく笑う子だなぁ。癒し系?)』
睦月:『先ほども申し上げたように、私は緋袴 睦月です。今日は宜しくお願いいたします。』

土方:『で、ではさっそくですが・・・。』
千穂:『さっそくだが、茶のもてなしをさせてもらおう。』
土方:『えっ?(そんなの予定になかったはずだが・・・)』
千穂の後ろのテーブルには、急須や小振りの陶器、茶筒・・・その他よく判らないお茶を煎れる道具のセットなどが置かれていた。
千穂:『土方殿・・・一般的に茶といえば何処が有名な産地だか判るか?』
土方:『え・・・?そうですねぇ・・・静岡とか。』
千穂:『ふむ・・・正解だ。静岡県は茶の生産高が全国の約半数を占めておる。』
千穂:『では・・・高級茶の代名詞、玉露の生産高が一番高いのは何処だかご存知か?』
土方:『・・・玉露ですか。私、お茶に関しては詳しくないんですよね・・・ちょっと想像がつかないです。(って、何で俺が逆にインタビューされてんだ!?)』
千穂:『うむ。それは福岡県だ。元々、玉露は関東の者の舌には合わないらしい・・・そう言った偏見が以外にも玉露が浸透していない理由だと言えるな。』
千穂:『いや、しかし。旨い煎れ方をすれば、玉露ほど旨いお茶はない、と自負しておる。今日(こんにち)は、貴殿に最高の玉露を煎れてやるぞ。』
他人にお茶を煎れる事・・・それが千穂の生きがいのように、彼女の表情を見て感じた。

千穂:『まずは・・・お茶を煎れる道具から紹介したいと思う。』
土方:『は、はぁ・・・。(こんなにたくさん?)』
千穂:『熱い湯が入った魔法瓶(ポット)、急須・・・これらは貴殿でも知っているだろう。』
蒼葉:『千穂ちゃ〜ん、この小さいのは何〜?』
まるで打ち合わせどおりのように、蒼葉が聞く。睦月は、蒼葉のあまりにも良い質問のタイミングに少々感心した。
千穂:『うむ・・・これは湯のみだ。』
睦月:『えっ!こんな小さいのが湯のみなのかい?』
睦月も負けじと突っ込む。
千穂:『ああ・・・たしかに一般的な物と比べて小さいな。しかし、玉露を煎れるときはこの大きさが常なのだぞ。』
土方:『へぇ〜(×15)そうなんですか。でも、こっちにある普通の湯のみのような陶器は・・・?』
千穂:『それは湯を冷ますために使う陶器だ・・・玉露は普通の茶と違い、少しばかりぬるいお湯で煎れ、飲む物なのだぞ。』
千穂:『この陶器に湯を入れ、大体60℃から70℃くらいになったら玉露の入った急須に移すのだ。』
土方:『ほうほう・・・そうなんですか。』
土方は、すっかりと【千穂ワールド】にハマっていった。

数分後・・・。

千穂:『うむ、そろそろだな。』
千穂は自分の懐から年代物の懐中時計を出し、時間を確認している。
・・・と、同時に玉露の入った急須に、少しずつ・・・丁寧に湯を移してゆく。
千穂:『ここからが一番大事なところだ・・・。温度の低い湯を使うのでな、普段の茶よりも抽出時間が多くかかるのだ・・・大体、二分ぐらいだな。』
土方、睦月は黙って千穂の様子を見守っている。一方、蒼葉はボーっとしている。
睦月:『もうすぐ二分だよ・・・千穂。』
千穂:『うむ、そうだな。では煎れよう。』
蒼葉:『千穂ちゃ〜ん、はい〜湯のみ〜。』
千穂:『ああ、すまない。蒼葉殿。』
蒼葉は四人分の湯のみを千穂が茶を注ぎやすい位置に移動してくれた。

コポ・・・コポポ・・・

千穂は最後の一滴まで、大切に、湯のみに入れた。
千穂:『この最後の一滴が美味なのだぞ・・・客人である貴殿にこの一滴をやろう。』
土方:『あ、ありがとうございます!(なんか趣旨がどんどんとずれて行っている様だけど・・・)』

さて、こうして人数分の玉露が出揃ったわけだが・・・。

千穂:『では、まず土方殿・・・貴殿から飲んでいただきたい。』
土方は皆の視線を受ける。
その中でも千穂の視線は真剣そのものだ。
土方:『(う・・・自分がインタビューに来たのに、玉露の味をインタビューされてしまうなんて・・・)』
  ・・・しかも、滅多なこと言えないぞ。この千穂って子・・・かなり真剣だったからな。
  ・・・旨い!とかそれだけじゃいかんだろうなぁ・・・。
などと、ぼやきながら一口目を口にする土方。



土方:『う、旨い!!』
それは正直な感想だった・・・いや、この玉露を飲めば誰もがこう表現するだろう。
表現力に欠ける・・・と言う人も多いかもしれないが、この表現こそ、簡潔かつ最良の表現だと思ったのだ。

千穂:『・・・そうか。』
千穂は、この時初めて笑顔を見せた。
いつも冷静沈着で無表情な千穂・・・しかし、自分の好きな物事を他の人と共有し、共に喜び合えるのならばこれほど嬉しいことはない・・・そんな表情をしていた。
睦月:『う〜ん・・・玉露ってこんなに甘い味がするんだ。』
土方の次に口を付けた睦月が自分の感想を述べる。
千穂:『うむ!睦月殿、良いところに気が付いたな!!』
  ・・・玉露は普通の茶と違い、苦味と言うよりは甘味があるのだ。
  ・・・この甘みは、俗にアミノ酸と言われておる。
  ・・・普通、茶葉は日光に当てつつ栽培するが、玉露は日光を避け、日陰で栽培する・・・そうすることにより、アミノ酸がより凝縮されるのだ。

  ・・・で、そのアミノ酸なのだが、一般的に・・・(中略)・・・と、なる。判ったか?

  ・・・では、私も失礼して。

・・・ずずず。

土方:『どうですか。(何だか知らないけど、今の状況を楽しんでいる自分がいる!)』
千穂:『ふぅ・・・最高だ。やはり誰かのために入れると、美味しく飲んで頂きたいと言う気持ちも味として凝縮されるのだな。』
千穂は、この上ない幸せな表情を見せている。
睦月:『千穂、それは・・・愛情は最高のスパイスって言うんだよ。』
千穂:『む・・・愛情?そうか・・・愛情を持って作れば、どんな料理でも旨くなるのかもしれないな。うむ、知識に入れておこう。』
  ・・・睦月殿の料理が旨いのも、その愛情のお陰・・・だと言うことか?
睦月:『い、いや・・・そういうわけじゃないけど。』

ふと蒼葉の方を見ると、とんでもないことが起きていることに気付く。
なんと千穂の煎れた玉露に砂糖を入れているではないか!

千穂:『あ、蒼葉殿!何をしておる!!』
蒼葉:『だって〜、皆が言うほど・・・コレ甘くないよ〜。』
千穂:『そ、それは・・・味覚の問題であって・・・神聖な・・・神聖な玉露に・・・うわぁ〜!(・・・くらっ)』

ショックで千穂はその場に倒れる。
土方:『大丈夫ですか!』
睦月:『千穂!!』
千穂:『う・・・うぅ〜ん・・・玉露・・・砂糖・・・。』
千穂は目を覚ましそうもない。
睦月:『もう!蒼葉、アンタなんてことしてくれたんだい!?』
蒼葉:『だって〜、苦いのは苦手ー。』
睦月:『カァー!アンタってヤツぁ!どうしてこう・・・。』
土方:『(さっきから感じてたけど・・・この睦月って子・・・かなり男勝りで暴力的なんじゃ・・・)』
  ・・・・・・もしかすると、この間のような展開には・・・ならないよな・・・きっと。うん。
睦月:『まったく・・・今日はインタビュー云々があるからって、猫かぶってたけど・・・蒼葉と一緒にいるといつもペースを乱される!』
蒼葉:『睦月ちゃ〜ん・・・あんまり怒るとシワが出来るよ〜。』
睦月:『よけいなお世話だっ!』

土方:『(なんかヤバイ雰囲気になってきたぞ・・・)』
  ・・・時間的にもそろそろ締めた方が良いな。・・・って、やっぱり今回も何もインタビューしてないよ!
  ・・・せめて、彼女達のスリーサイズでも。

土方:『あのー・・・みなさんのスリーサイズは・・・?』
睦月:『うるさい!!話しかけんな!』
土方:『ひぇ〜。』
睦月は【鉄でできたホウキ】を手に取り、蒼葉に向けて、店に向けて叩きつける。
しかし、そんな攻撃も蒼葉はひょいひょいとかわす。なんて反射神経だ!

テーブルの下で隠れている土方。
そんな土方の背後には、いつの間にか蒼葉が佇んでいた。
蒼葉:『私の〜スリーサイズは〜・・・。』

ごにょごにょ・・・。

土方:『えっ!そんなに!!』
蒼葉:『みんなには内緒だよ〜』
蒼葉は、口元に人差し指を当て、シーッと言うポーズをとる。

睦月:『そこかぁ!』

突如、前に睦月の影が現れる。

蒼葉:『じゃあねぇ〜。』
土方:『ちょ、ちょっと・・・助けてくださいよ!』
向かってくる睦月をよそに、蒼葉は煙に紛れて消えていった。
睦月:『うぉぉ!!』
その標的はすでに蒼葉ではなく、目の前にいるモノであった。

土方:『(姉さん・・・僕、もう帰れそうもありません。)』

ドガッ!!
バキ!
ボカーン!!

閃光と共に、店そのものをぶっ壊す!
ついでに土方も吹っ飛ばす!!

事が済むまで要した時間は約一時間。

・・・明日の新聞で、かるた半壊の記事が挙がったのは他でもない。
・・・と、同時に怪我人は土方一人(全治一ヶ月)。
蒼葉はいつの間にか消えており、千穂は結界に守られ奇跡的に無傷、睦月は精神的にダメージを負った。

しかし、今回の騒動の一番の被害者は、遠方へ買い出しに行っていたこの人であった。

円香:『ああ・・・お店が・・・。』
手に持っていた上松の袋が地面に落ちる。
円香の目から一滴の涙が落ちる・・・しかし、それは無常にも、すぐに地面に吸収されてしまった。
木枯らしが吹く・・・少し肌寒い、そんな陽気であった。

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