稲富 祐香子

歌の夕べ

Durch alle Töne −すべての音を通して−




稲富 祐香子 (ソプラノ)   勝 郁子 (ピアノ)



1994年11月22日(火)18:00開演
四国電力 ヨンデンプラザ徳島3F ヨンデンホール

1994年11月24日(木)19:00開演
香川県文化会館芸能ホール


プログラム
PROGRAM

シューベルト  F.Schubert

野ばら
Heidenröslein

恋歌
Minnelied

恋はいたるところに
Liebe schwärmt auf allen Wegen


シュトラウス  R.Strauss

セレナーデ
Ständchen

三つの愛の歌  Drei Liebeslieder
第1曲
赤いばら
T. Rote Rosen

第2曲
目ざめたばら
U. Die erwachte Rose

第3曲
出会い
V. Begegnung


ヴォルフ  F.Wolf

「ゲーテ歌曲集」 より  "Goethe-Lieder"
つれない娘
Die Spröde

心とけた娘
Die Bekehrte

「メーリケ歌曲集」 より  "Mörike-Lieder"
もう春だ
Er ist's

捨てられた乙女
Das verlassene Mägdelein

尽きぬ愛
Nimmersatte Liebe

旅先で
Auf einer Wanderung


*      *      *      *      *      *      *


プッチーニ  J.Puccini

「マノン・レスコー」 より  "Manon Lescaut"
はなやかに着飾っても
In quelle trine morbide

「トゥーランドット」 より  "Turandot"
殿様お聞きください
Signore, ascolta!

氷のような姫君の心も
Tu, che di gel sei cinta

「トスカ」 より  "Tosca"
ふたりの愛の家へ
Non la sospiri la nostra casetta

歌に生き、恋に生き
Vissi d'arte, vissi d'amore


プログラムによせて

今晩の演奏曲目は、ドイツ歌曲とプッチーニのオペラ・アリアで構成されています。 前半のドイツ歌曲では、「野ばら」でお馴染みのシューベルト、 後期ロマン派の爛熟の香りに満ちたシュトラウスとヴォルフ、この3人の作曲家による三者三様の魅力を味わえるのが楽しみです。 世紀末に作曲されたシュトラウスの歌曲では、ピアノ伴奏もシューベルトに比べ色彩的に作られており、「セレナーデ」の冒頭などはチェレスタでも聞いているかのような魅力ある響きがします。 またヴォルフの歌曲では、曲に盛り込まれた多様な人間心理の表現をじっくり鑑賞したと思います。

後半はプッチーニのオペラからのアリアです。 最近TVで錦織健という歌手の出演するCMをよく見かけますが、これに「トゥーランドット」からのアリアが歌われていることをご存じでしょうか。 プッチーニのオペラは旋律の美しさと劇的な要素とに満ちており、声の魅力をたっぶりと堪能できるように作られていることは、いまさら申し上げるまでもないでしょう。

さてオペラといえば、前半でお聞きいただくシュトラウスは、ドイツ語圏のオペラ作曲家として、モーツァルト、ワーグナーに続く最大の作曲家として知られています。 この秋のウィーン国立歌劇場日本公演で最大の話題となった「ばらの騎士」の舞台では、カルロス・クライバーの指揮により、この作品の持つ室内楽的で精緻な側面と劇音楽としての美しさが見事に浮き彫りにされていました。

なお余談ながら、このプッチーニとシュトラウスのオペラの題名に、女性の名前が多いのにお気づきでしょうか。 今晩お聞きいただくプッチーニの「マノン・レスコー」「トゥーランドット」「トスカ」「蝶々夫人」では、いずれも主役女性の名前がタイトルになっています。 シュトラウスでも主役女性の名前をそのまま冠した「サロメ」「エレクトラ」「アリアドネ」「アラベラ」「ダフネ」といった作品がよく知られています。 有名な「ばらの騎士」もオペラでは女声で歌われる役です。 また「無口な女」「影のない女」といった作品もあります。 これに対しヴェルディの作品では、「椿姫」「アイーダ」こそ主役女性によるものの、 「リゴレット」「ドン・カルロ」「オテロ」「ファルスタッフ」など大半は主役男性の名前です。 ワーグナーでは、「オランダ人」「タンホイザー」「ローエングリン」「パルジファル」のようにゲルマン神話や英雄伝説などを題材にした作品が多いこともあり、主人公である男性の名前を冠した作品が多く見受けられます(「トリスタンとイゾルデ」だけは、「ロメオとジュリエット」のように男女双方の名前がタイトルになっていますが)。

このように、シュトラウスとプッチーニに女性主人公のタイトルのオペラが多いのは、両作曲家の性向(例えば女声に対する偏愛)といった要因もあるのでしょうが、彼らが活躍した19世紀末から今世紀前半にかけての時代潮流の影響もあるのではないでしょうか。 官能的な世紀末芸術が興隆する中で、サロメなどのような魔性の女性への関心が高まってきたこと、さらにまた20世紀に入って女性の地位や比重が高まってきたことなど、いろいろ挙げられるかもしれません。

何はともあれ、今宵ひととき、歌の夕べを心から楽しむことにいたしましょう。

最上 英明    


プロフィール

ソプラノ  稲富 祐香子(いなとみ ゆかこ)

香川県大川郡白鳥町出身。 香川県立高松高校を経て、東京芸術大学音楽学部声楽科卒業。 その間、竹内肇、中村義春、須賀靖元、毛利準の各氏に師事。

1977年、オーストリア給費奨学生として、国立ウィーン音楽大学に留学。 E.ドッティール女史、故エリック・ヴェルバ氏の指導を受ける。 帰国後、東京、高松にてモーツァルトのモテット KV.165、ヘンデルのメサイア、バッハのマタイ受難曲、カンタータなどの宗教曲のソロを歌う。 他方、出身地香川県大川郡東讃三町(大内、白鳥、引田)にて「オータムコンサート イン 東讃」に出演。 リート及び室内楽では、Cl.佐倉友章氏、Pf.古藤幹子氏と共にドイツ・リート及び柴田玲子氏の作品による「トリオの夕べ」を開催。 カトリック桜町教会において、Trp.織田準一氏、 Org.織田英子氏らと二回に渡りジョイント・リサイタル、又一昨年はは Trp.織田準一氏に加え、 Cemb.武久源造氏とも音楽会を主催する。 その他、オペラでは、「魔笛」。創作オペラ「耳なし芳一」。 又、徳島文理大学定期演奏会出演等、多方面に渡る活動を行っている。 現在、徳島文理大学音楽学部専任講師。


ピアノ  勝 郁子(かつ ふみこ)

6才よりピアノを始め、松浦豊明、田村宏、井上英子の各氏に学ぶ。立教女学院卒業後、東京芸術大学ピアノ科入学。在学中より室内楽、オーケストラとの協演など数多くの演奏活動を行う。 安宅賞受賞。

東京芸術大学卒業後、同大学院入学、この間ペルルミュテール、ハンセン、シルデ各氏の指導を受ける。 大学院修士課程修了。1884年よりウィーンフィル コンサートマスターのライナー・キュッヒル氏の伴奏を務める。 その他、ヴィオラの兎束俊之氏との協演、声楽の錦織健氏、斉田正子氏など弦楽、歌曲伴奏、室内楽の分野でも活躍中。 1990年3月には東京シティフィル コンサートマスターの大谷康子氏と共にヨーロッパにおいてリサイタルを開き好評を博す。 又、先月、再びライナー・キュッヒル氏と協演、大成功を収めている。 現在、東京芸術大学非常勤講師。