つづき・・・

「あー、寒そうだね。」
とこいち。
「気合いだよ、気合い。」
とみか。

そしてうちらはおもむろに、駐輪場で服を脱ぎだした。
ボレロを脱ぐと中は、夏用の半そでの開襟シャツに、
ジャンバースカートだったのを上を切ってただのスカートにしてしまった防寒を無視した冬用スカート。
そしてシャツの上にこれまた夏用の紺色のベスト。

 そう、うちらは

「気合いなんて乾布摩擦のようなもの!」

と今日に臨んだわけである。

が、それだけでは、人々の目には、「
あら、寒いのにがんばるわね。」だとか、
「寒いのにもの好きな。」くらいの余韻しか残せないだろう。

通学通勤の人たちなど気づきもしないかもしれない。

ぴーたーとして、ぴーたー的に、ぴーたーイベントを敢行する我々にとって
「素通り」だけは避けねばならぬことであった。
が、我々はそこまで甘くない。
そんな問題など当初から解決済みなのである。


「出来はどうよ?」

ボレロを脱ぎ捨て、ベストになった自分の背中を向けて聞いた。

「おっ、いいねぇ。こっちは?」

みかもこいちに背を向ける。

紺色のベストの背中に浮かぶ白い和紙、和紙とベストをつなぐ茶色いガムテープ。
そして和紙には墨たっぷりの筆で書かれた文字が冴える。

「こいちは闘魂がいいな。」「じゃぁみか気合いね。」
の約束どおり、
みかの背中には
「気合い」、こいちの背中には「闘魂」
めでたくここに
「気合いと闘魂」が出来上がったのである。

後ろから見ないとわからないということも考慮して、
二人の額には
「日の丸」入りの「闘魂はちまき」も巻かれた。
完璧である。


「んじゃ、出発ー!」
吐く息も真っ白で凍えそうな中、うちらは颯爽とこぎだした。
「さみぃ〜でも気持ちぃ〜」

今でもあの時の感覚を掴めそうになる時がある。
見慣れた道に急に雪が降ってきた瞬間とか。
同じなのに自分の気分で見え方や感じ方が全然違うみたいな。
ぴーたーはその瞬間を掴めるんよ。

ぐんぐんチャリは速度を上げていく。
学大の裏通りを出て、もうすぐメインストリート!
出た!
…見てる見てる見ーーてーーるーー!
おぅ、指差してる!
こいちとみかは顔を見合わせ、叫んだ。
「気合いと闘魂!!!」

寒かったけど寒くなかった。
色んな人の反応、
「がんばれ!」なんていう人もいた。
小学生たちは大喜びだった。
いつも朝、井戸端会議してる奥さんたちもぼーっと見ていた。話題を提供したね。
うちの学校のそばに近づいて、電車通学の子たちの間を通るときもみんなの反応がめちゃ面白かった。
やっぱりみかと、
「気合いと闘魂!」って叫びながら走ってた。

学校に着いて(一応けっこうお嬢様校なのだ)、
先生に
「君たちはっ。」って言われて怒られたけど、
目がなんだか優しかったのを覚えている。


「ばっち気合い入ったね!」
といって、みかとは気分よく昇降口で別れた。
だってクラス違うから。

もちろん帰るときもみかと一緒だったけど、帰りは二人ともボレロ着てマフラー巻いて手袋して帰った。

だってぴーたーは寒いの嫌いだから。