北欧神話
北欧神話とは「創造神話」か、それとも「破壊神話」か。時々論議がなされる。 神々が住まうアースガルド、人間が住まうミッドガルド、冥界ニベルヘイムなどがオーディンとその兄弟の手により、巨人・ユミルから作られたコトから北欧神話は始まる。主神オーディンやその息子トール、アース神族の異端児であるロキ、その他の多くの神々、そして神々の敵である巨人や、金を紡ぐ小人の周りで問題が起こり、事件が起こっていく。その中でやがて悪意が増していくロキ。他愛ない悪戯を繰り返し、ついに許しがたい罪を犯して暗い闇に彼が捕らえられた時には既に運命の糸は破壊への道を紡ぎだしていた。揺れる世界樹、解き放たれる狼、海から這い上がる大蛇、アースガルドに攻め入るロキ率いる巨人達。ヘイムダルの角笛は高らかに神々の黄昏の刻を告げる。太陽と月は喰われ、神々も巨人も互いに殺し合う。異形の獣に向かった勇敢な神は勝利と引き換えにその命を奪われ、また逆に敗北し、殺された神はその血筋の者が敵を討った。血塗られた戦いの末、燃ゆる炎が全てを焼きつくす。ここで物語が終わるのならば北欧神話は明らかに「破壊神話」である。しかし、これからまた新しい世界が創られていく。死した神々の息子と、蘇った神とその兄弟が共に世界を築く。太陽も娘を遺し、新たな地を明るく照らす。これならば「創造神話」と呼ばれるのにも納得がいく。 とまあ偉そうに始めてみましたが、とりあえずは嘘ではない…はず。間違いがありましたらどうぞご指摘を。 北欧神話はギリシア神話やローマ神話等と比較するとかなりマイナーなオハナシです。最近ではゲームの名前とかネタに使われていますが、やはり神話自体を知る人は少ないのでは。魔ロキをキッカケに読んだという方は多いかもしれませんが。さてそこで、<破壊と創造の神話>北欧神話の話を紹介しながら様々な解説を…出来たら格好良いのですけどね。まあ粗筋と言うか大体の流れは長すぎる前フリとして冒頭で語ってみましたので、魔ロキと重ね合わせて歪んだ見方をした神話の世界などを綴ってみましょうか。 まず始めに悪戯と欺瞞の神、<ずる賢い者>邪神ロキ。見た目は美しい男神ロキは半神と呼ばれながらも、巨人の父母を持つ。それでも半分は神と言われるのは彼は<高き者>オーディンと義兄弟の契りを交す為にオーディンと血を分け合ったから。 さて、より分かり易くロキを語る為に「アースガルドの城壁作り」の話を語ってみましょう。 「アースガルドの城壁作り」ではアースガルドに城壁が欲しいと願う神々の元へ、ある男がどこからかやって来てフレイヤと月と太陽を報酬に18ヵ月の期限で城壁作りをしようと申し出る。それに対して神々が会議をして、散々悩んでいる所にロキは口をはさみ、その申し出を承諾させてしまう。ロキ曰く「城壁を作る為に男には6ヵ月を与えよう。これっぽっちの期間では決して出来ないはずだ。だからこれを提案する事でぼく達は何を失うことがある?男が同意しなければ今と何も変わらないだけ、同意すれば何も失わずに未完成だとしても城壁を手に入れることになる。そうだろう?」神々は不安がありつつもそれに反論する術を知らず、また城壁欲しさにロキが言った通りの約束を男に言った。普通は18ヵ月の期限を半分以下に減らされて報酬はそのまま、なんて了承する訳がない。それでも男はフレイヤがどうしても欲しくて、一頭の馬の助けだけ加えさせてくれたら同意しようと逆に条件を突き付けた。最初オーディンは渋るが、ロキの「たった一頭の馬が状況を変えるとでも思うのか?」とのコトバに双方とも互いに条件を飲むことに。しかし、その一頭の馬が凄い凄い!あっと言う間に城壁作りの石を運んできて、みるみる城壁は作られていく。そしてついに期限の3日前になってしまった。城壁はほとんど出来上がり、期間中に完成する事は火を見るより明らか。このままではフレイヤが奪われてしまう!困った神々の怒りの矛先はロキへ…。オーディンはロキの肩を強く掴んだ。「こんな事になったのはお前のせいだ。何とかしろ!」「何でぼくだけ!皆だって同意したじゃないか!」「奴に馬を使うコトを許そうと勧めたのは誰だ?何か手を考えろ、ロキ。でなければ痛い目にあわせてやる!」「わかったよ!何とかすると誓おう!」脅迫されてロキは渋々計画を練る。そしてロキはアースガルドを出た。次の日、城壁作りの男はいつもと同じように馬に材石を運ばせていた。フレイヤが手入るだろう事は決定したも同然で、彼は上機嫌。そんな彼の前に突然、一匹の雌馬が…。彼女(?)は跳ねるように彼らの周りを回った。そして誘うようにいななく。材石を運んでいた馬は仕事より女、とばかりに材石を放棄して雌馬を追いかける。雌馬はなおも誘い、雑木林へと駆けて行く。さて慌てたのは男である。馬がいなくては石が運べず城壁は作れない。馬は雌馬を追い、男は馬を追って一晩中駆けずり廻る羽目に。やがて男は悟った、もはや期間中に城壁を作るのは無理だと。怒った男は変装を解き、岩の巨人となって神々の前に立ちはだかった。男の正体が神の敵である巨人と判ったからには、神々は容赦しない。トールの持つハンマー・ミョルニルの一撃を報酬の代わりに巨人に与えた。その数日後、ロキがアースガルドへ戻ってきた。ただし、一人ではなく傍らに一頭の馬を引き連れて。その馬は八本の脚を持ち他のどんな馬よりも速く走り、何処へでも―たとえ遥かニベルヘイムへさえも行けるとロキは言う。そしてその馬はオーディンへと捧げられた。オーディンは喜んでロキを迎え入れ、スレイプニルと呼ばれるその馬を手に入れた。 ロキは神々の中でも嫌われ者で狡滑で、何かにつけて問題を引き起こす。そして他の神々に怒られて泣く泣く尻拭いする辺りが実に健気。「城壁作り」でも会議に口を出して約束をさせてしまったコトであわやフレイヤと太陽と月をとられる、という事態を引き起こす。そして結局ロキ自身が事態の収拾をする事に。ではロキは何をしたのか。ロキは<ずる賢い者><いたずら者>と呼ばれる他に<変身者>と呼ばれる事があります。間違っても<変質者>ではないですよ?私は一度読み間違えた。で、ロキは姿を変えることが出来るワケですよ。馬を誘惑した雌馬がロキ。魔ロキで初めて覚醒した時に馬になって「これがぼくのオハコだ〜い!」って言っていたのは明らかにコレの事。そして、最後にロキが連れて帰って来た八本足の馬、あれはロキと材石運びの馬との子供であることは明白です。勿論産んだのは雌馬となったロキ。「ロキったら男のくせにッ」とか思っても大丈夫(?)、ロキは両性具有者と言われてます。産むのも産ませるのも出来るんですね。しかもわざわざ雌にならずとも平気な模様。有名なロキの三人の子供、ヘル・フェンリル・ミドガルズオルムもロキの腹から産まれたそうな。何でもロキが女巨人アングルホダの心臓を食べたところ孕んでしまったとか。何故に心臓食っただけで孕むのかは謎ですが、ロキは変身に関わらず両性具有者であることははっきりします。イロイロ気を付けなくっちゃね☆ちなみに蛇足的なことですが、アングルホダはロキの妻ではありません。ロキにはちゃんと正妻のシギュンがいらっしゃいます。なのでアングルホダとして魔ロキに登場したスピカは愛人というコトになるのでしょう。まぁ魔ロキの設定として、アングルホダ=スピカが妻、としてある可能性もなきにしもあらずですが。シギュンも出てこないかなぁ。繰り広げられる愛憎劇に期待。 さて、そんなロキといつも一緒にいるのは言わずと知れた、ナルカミくんこと雷神トール。赤鬚を持つ猛々しい神として北欧神話でも中心人物として描かれております。オーディンの子ですが、思慮深いオーディンと違い頭の中は単純明快。すぐに怒って殺人的に暴れてはあっさりと気が鎮まります。そしてトールは馬鹿なので、ロキと行動を共にして幾度となくだまされて危ない目に合っているにも関わらず、旅を続けていくのです。しかも「ロキとトールは互いに一緒にいることを楽しいと感じている」らしい。やめとけよ、トールさん。ロキのせいで巨人に殺されかけたりしてるくせに。そこに愛があるならばヨシとしよう。でも、義理とはいえロキってトールの叔父さん…なんかすごく嫌。ヘイムダルもオーディンの息子ですな。 トールの話でもっとも有名なのは「スリュムの歌」ではないでしょうか?神々の宝と言うべきトールのハンマー・ミョルニルが巨人に盗まれる話。 ある日、トールが起きたら枕元に置いていたハズのミョルニルがなくなっていました。まぁ大変!慌てたトールはまず仲良しのロキに泣きつくわけです。そして、ロキの調査により巨人のスリュムに盗まれた事が判明。寝ていたとしても枕元に置いていたんだから気付けよ。とにかく巨人がミョルニルを返す条件として出したのは「フレイヤを我が妻に。」というコト。それに慌てた神々は会議を開き、相談をするわけです。ミョルニルがなければ巨人に対抗出来ない。が、だからといってフレイヤを渡すわけにも…。そこでヘイムダルが挙手、「トールに花嫁の姿をさせるんだ。その可愛い首にブリーシングの首飾りを付けて。」会場は大爆笑、トールは勿論のこと激怒しますが、ロキに「あのミョルニルを取り返すには他に手はないんだろ?」などと脅されて渋々了承するのです。そして何かあった時の為にロキが侍女に変装して付き添うことに。しかしその作戦が成功したから凄い。たとえ変装していても体格のいい赤鬚のおっさんとフレイヤの花嫁姿は間違えぬだろうよ。フレイヤが可哀想。とにもかくにも、なんだかんだでトールは見事ミョルニルを取り返して巨人を倒したのです。トールったらば花嫁の姿して牛一頭平げたり酒がぶ飲みしたり…その度にロキがフォロー、見事な連携プレイ。ところでやっぱ向こうは北欧ですからウエディングドレス着たんですかね。魔ロキでは和服でしたが。トールったら二回も花嫁さんでおいしい役だわね。 さて、トールとロキの北欧神話邪語りも含めてみましょうか。 トールは妻子持ちです。ロキもだけど。で、トールの嫁さんがシフって言うのですが、何とまあかなりの金髪美人なんです。うまいコトやりやがって…ッ。それである時、<いたずら者>ロキは寝ているシフに悪戯を…。自慢の金髪をばっさり刈ってしまうんです。坊主にされたシフは起きてびっくりですよ。勿論、夫であるトールに泣きつきます。「あなた!あなたの好きな私の金髪が奪われてしまったわ!こんな事が出来るのは…。」「…ロキしかいない。あいつの仕業だな!」トールの金髪好き発覚。ロキも覚醒時は金髪ですよねェ。ロキたんったらシフにヤキモチ?「このシフの金髪さえなければ、トールはぼくのものに…!」ってか?やだぁ!トールに結局怒られて尻拭いする羽目になりますけどね。 あと「ロキの口論(通称ロカセナ)」ではシフの浮気が発覚です。ロキが神々の宴会の場でもの凄い毒舌で喧嘩売る話なんですが、なかなか楽しくって私は北欧神話の中で一番好きです。では、浮気発覚場面のみ抜粋。 多くの神の悪口を言いまくったロキにシフが穏やかに近付き、乾いた杯にビールを注いで優しく告げる。「ロキ、この杯を受け取って下さい。そして全ての中で、少なくとも私だけは完全に罪がないことを知ってると言って下さいね。」ロキは杯を受け取り一気に飲み干す。「もし貴女が全ての男に貞淑であるならば、確かにただ一人の罪無き者。でもぼくは、貴女を夫の腕から誘い出し、貴女に火をつけた者を一人は知っていると思うね。彼の名は…―そう、悪賢いロキだよ!」 その後、遠征から帰ってきたトールと口論。散々文句言ってから「ぼくは神々とその息子たちにぼくの辛辣な考えを明らかにした。でも君の為に、君だけの為に今は別れを告げようか。君の強さは残らず知っているから。」トールだけ特別扱いだよ、ロキ!萌。シフとの浮気も許せてしまえるわ!ってか神話にこんな歪んだ思考入れて良いのかしら…。まぁ皆そんなもんですよね? 何だかまだまだ語り足りないのですが止まらなくなるのでとりあえずこの辺で切っておこうかと思いまする。また北欧神話語り2とかやりだすかもしれないのでその時はどうぞまたよろしくお願いします。 |
天神 美香
back