の  空  の  下  で














 虚空に君の名前を呼ぶのは愚かな行為。だからといって、目をつぶって3つ数えて、目を開けた先に君を望むのは何の罪にもならないだろう。

 罪にはならない。けれど、やっぱり君はいない。
























 忙しくなると言っていた。理由は忘れた。理由なんてどうでも良くて、ただ当分は中々会えないという事だけがぼくの中では非常に重要で、何よりも問題だった。
 前の季節にしがみつくような残暑は、いつの間にいなくなったのだろう。朝早く、一人ベッドの中で思案にくれる。
「寒いんだよ、バカ」
 訪れる次の季節ではなく、訪れない君に悪態をつく。能天気な声の返事を待てど、風が窓を鳴らしただけだった。
 自分の腕で、自分の身を抱く。秋を通り越して、体の芯まで凍える気がした。
 寒い。


















 暇を持て余して過ごす時間は、ひどく記憶が曖昧になる。気が付けば昼も過ぎて、ゆっくりと陽が傾きかけていた。食事をした覚えはないのだけれども、空腹感もないのできっと何かしら食べたのだろう。
 目の前には、いつ開いたのかも覚えていない読みかけの本と、すっかり冷めた紅茶。記憶の穴を思い返して、つい漏れたため息が、記憶を巻き戻すように本のページを一枚だけ戻した。
 時計の音だけが無機質に針を進めて、緩慢に過ぎる時間をぼくに突きつけてくる。上目に時計を睨んでみても、何も変わりはしない。
 少し前までは、学校とバイトの合間に彼が顔を見せに来ていた時間帯。今は、優雅な昼下がりを邪魔する足音の気配すらない。穏やかで平和な時の流れが、ひどく憎い。苛立って力任せに本を閉じれば、独りの空間にパタンッと乾いた音が響いた。その音でさえ憎い。今なら世界中の全てに対して、憎悪を抱けそうな気がした。勿論、彼を除いて。
 ため息ばかりで、部屋を満たしていく。不毛な時間の過ごし方だと思いながらも、何もする気が起きないのだから仕方がない。
















 やたら高い天井を見上げながら、何がしたいのか考えれば、答えはただ一つ。
 「…会いたい」
 何よりも、誰よりも、君に会いたいんだ。





 自分で出した解答に、ため息を漏らす。そして小さく自嘲の笑い。ぼくは何をしているんだか。
 椅子に深く腰掛けて深呼吸をしながら目をつぶる。3つ数えて目を開けた先には、望むモノがいない部屋。ぼくがココにいる理由すら見つからない。
 そう、ココにいる理由なんて何もないんだ。

























 邪魔だと思うだろうか。
 ちょっとどころじゃなく、ウザイ?
 …迷惑かもしれない。


 理性と良識で導かれるのは「正しい行動」
 それでも、止まらない衝動というものは存在する。


 ていうか…さ。
 ただじっとしているのって、嫌いなんだよね、ぼく。

 ついでに、理性とか良識とかいうのも嫌い。

































 気が付けば、秋の空の下。乱れた心拍数は急に駆け出したせいにしておこう。荒い呼吸に、胸が苦しくて苦しくて仕方がない。
 天高く、どこまでも広がる青い空を見あげて、同じ空の下にいるはずの人を思うんだ。
 この青空がやがて、闇に呑まれて消えてしまう前に。

 今すぐに。














 君に、会いに行こう。









ロキオンステージ。
これでもナルロキです。
久しぶりの更新で、短いですが如何でしたでしょうか。
天神の性質に似合わず、甘めで…。
受け入れてもらえれば何よりです。

天神美香


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