このまま二人でいられたらよいのに。

あなたの目を見詰めて、瞳の奥まで見詰め合って。
くり返しくり返し抱きしめあって。
それだけでも幸せなのだけれど。


日に焼けた腕がわたしの腕をつかむ。
わたしの腕よりも二回りも大きな腕と、関節の大きくて指の長いてのひら。
そのてのひらがわたしの髪を優しくすいて、下におりる。
長いな、なんていって、あなたの手は髪を弄るのをやめない。
お前の長い髪、けっこう好きだぜ。なんて言うから、わたしは髪を切れなくなる。





Dolce −たまにみる、あなたの笑顔。−





「…寺、大堂寺。」

あたたかい陽射しの中、私はいつのまにか眠ってしまっていたらしい。
彼は一つ前の席に座って、私を揺り起こしていて。

いつも私の髪をいじる大きな手は、今は私の肩に置かれていた。

「あれ…鳴神君、バイトは?」
眠い目を擦りつつ、ふわ、とあくびをする。
教室には私達二人と夕暮れのオレンジ色の光しかなかったので、きっともう放課後な
んだろう。そんな事を思いながら、今度は手を上に伸ばして、大きく伸びをした。

「今日はな、バイトないんだよ。珍しく。」
どこか憮然とした顔で、そう告げる鳴神君。

…もしかして、(また)クビになったの?
「…今、『また』って言ったか?」
うへ、エスパーがここにいる。
「誰がエスパーか。あーどうせ世渡りヘタですよー俺はー。」
椅子の背もたれに腕を回して、がたがたと揺する様を見ていると、どうにもいじめて
からかってしまいたくなる。そんな子供っぽい一面。

まあまあ、きっといいことあるよ。いつか。うん。
「いつかって、いつだよ…。」
いつかって日は、永遠に訪れないって聞いたことがあるぞ。
拗ねたように口を尖らせる、君。
まねをして口を尖らせる、わたし。

しばらく見合って、同時に笑い出す。

「うん、じゃあ今!いいことが起こるよ、絶対!」
「今?」
「今!」

今、は。
二人きり。
ああ、そうだ、ふたりきりだ。

少し 静かな空気が流れて。
何気なく 手を見る。
私の手と、鳴神君の 手。

大きな て。
小さな て。

かさなって、まとまって、からまって。

ひとつになる、わたしとなるかみくんの、て。


そっ と、
手を伸ばす。
手に触れる。

かさねて、まとめて、からめて。

「ほら、いいこと。」
あったかい気持ちになるでしょ?


きょとん、と、音がするほど目を見開いたあと、
鳴神君はあまやかでやわらかな笑顔でほほえんでくれた。


あつくあつく互いを欲するときもあるけど、
今はこれくらいがココチイイ温度。
だってほら、鳴神君はやっぱり私の髪をすいているから。




えとろん様からのもらい物の鳴まゆ小説「Dolce」でございます。
ずいぶん前から頂いていたのに、載せるのが遅くなりまして申し訳ございません。
鳴まゆ万歳。
我がサイトに新しい風を送り込んで下さって、有難う御座います。
ノーマル万歳。
感謝感謝の大嵐。
ありがとうございました

コメント:天神美香

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