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神様なんか、もう信じない。
何度も何度も願ったのに、願い事なんか叶えてくれなかった。
「ママをかえしてください。」
他のものなんて何もいらなかった。
毎年毎年、細長い短冊に神様へのお願い事を書いたの。
彦星と織姫サマは良いな。
毎年一日は会えるんだもん。
私はママに会えない。二度と。
毎年毎年、神様にお願い事をしていた。
目が覚めたら、もしかしたらママがいるかもしれない。
前と変わらない笑顔で「おはよう」って言ってくれるかもしれない。
本気で思っていた。
七夕の次の朝、小さかった私は毎年泣いていた。
パパはママのように優しく頭を撫でてくれた。
でも、ママじゃない。
会いたくて会いたくて会いたくて…
沢山の短冊に、何度も同じお願い事を書いた。
それでも、叶えてくれない意地悪な神様。
私は神様なんか信じない。
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大きな大きな笹に、いっぱいの飾りをつける。 「…まゆら、これくらいでもう良くない?」 お星様の飾りを笹につけて、うんざりしたような顔でロキくんは言う。もう10回くらい同じセリフを言っている気がする。本当にロキくんは飽きっぽいんだから。 「だめ!もっともっとキレイにしなくちゃ。目立たないと、空から見えないでしょ?」 誰も見てないよ、とぽつりと呟くロキくん。丸聞こえだってば。 「じゃあ良いよ〜。もう私だけでやるから」 頬膨らませて言う私に、ロキくんは仕方ないなぁ…と文句を言いながら新しい飾りを付けてくれる。何だかんだ言いながら、ロキくんは優しい。 「あとでお願い事も書いて飾ろうね〜」 手を伸ばして、背伸びして、私は高いトコロにキラキラ光るお星様を飾る。もうパパに手伝ってもらわなくても、ココまで届くようになった。 「ねぇ、ロキくん。ロキくんは短冊に何書くの?」 私の反対側で飾りをつけているロキくんに聞いて見ると、うーん…と悩む声が聞こえた。しばらく待っても、答えは一向も返ってこない。 「…ロキくん?」 「そもそも、何で七夕に願いが叶うわけ?」 もう一度声をかけて返ってきた答えは、答えじゃなかった。論点ずれてるよ。ロキくんて、やっぱどこか変。…ミステリー? 私はため息をつきながらも、彦星と織姫サマの話を聞かせてあげる。嫌いじゃなかった、七夕の話。強く強く願えば、願いは叶うんだと本気で信じたくらいに。 「…で、一年に一日だけ、彦星と織姫サマは会えるんだよ。」 どう、ステキでしょ?お話を聞かせてあげた後、ロキくんの興味のなさそうな声がした。 「…で、何で二人が会えると願いが叶うのさ」 …さあ?そういえば何でだっけ。 「一番重要なトコが抜けてるじゃん…」 呆れた声のロキくんに、私はただただ笑うしかない。 「…願い事を叶えてくれるなんて、随分気前が良い日。何でも叶うなら、天の川を消して、哀れな恋人たちを一緒にしてあげれば良いのに。」 空を仰いで、大人びた声のロキくん。 「どんなに願っても、叶わない事だってあるんだよ。」 私が言うと、ロキくんは黙ってしまった。 |
彦星と織姫サマを会わせてくれる、心優しい神様。だけど、二人の仲を引き裂く天の川はずっとずっと二人の間に流れている。 やっぱり、神様は意地悪。 意地悪でも良いから。それでも良いから。私は一日だけでも会いたい。 |
暗くなってから、笹に飾るお願い事を書く。その頃にはバイトが終わった鳴神くんも来た。 鳴神くんは、最初興味がないような顔をしていたのに、お願い事が叶うんだよ、と話すといきなりやる気になったみたい。 「まず、給料上げてくれって書くだろ〜。あとな、食に困るのはもうイヤだな。あ、あともうバイトをクビになりませんよーにって書かなくちゃな。あとは…何だ。ほら、ロキも考えろよ」 「何で君の願い事なんか考えなきゃいけないのさ。…少しはナルカミくんのバカが治りますようにってぼくが書いておいてあげるよ。」 いつ見ても、二人は仲が良い。でも、本当に短冊にソレを書くことはないと思うんだけど。しかも真剣だよ、鳴神くんもロキくんも。 「闇野さんも、何か書きませんか?」 闇野さんの願い事って何だろう。ちょっとドキドキ。恋のお願いとかだったら…どうしよう!でも、やっぱ気になる。 「そうですね…じゃあ、一枚失礼しますね。」 細長い短冊に、闇野さんはさらさらとキレイな字で言葉を書いていく。 「ロキ様がいつまでも健康でいらっしゃいますように。」 …なんだ、つまんない。でも、闇野さんらしい気がする。私がくすくす笑うと、闇野さんは不思議そうな顔をしていたけど、ロキくんがありがとう、と言うと嬉しそうに笑っていた。 「ロキくん、自分のお願い事は書かないの?」 ロキくんのお願い事って、なんかすごく興味ある。そうゆうの、しなさそうだから。 ロキくんはさっきみたいに、うーん…と悩んでから、手元を隠して何かを書いていた。書き終わった様子に、私が覗き込んだら慌てて背中に短冊を隠す。 「良いじゃない、見せてくれたって。ロキくん、何で隠すの〜?」 「別に見たって何も面白くないから!ほら、まゆらも早く書きなよ。」 顔を真っ赤にして慌てるなんて、ロキくんが珍しい。そうゆうコトされると、やけに気になるのが人間ってものだと思うの。ミステリーは暴かなくちゃ! 騒ぐ私たちに、短冊を書いていた鳴神くんが顔を上げた。状況がわかったみたいで、鳴神くんは私の味方をしてくれる。一瞬でロキくんの短冊を奪ってしまった。 「えっと…『早く大きくなりたい。』」 「いちいち読み上げるな!」 真っ赤になって怒鳴りつけるロキくん。鳴神くんは、そんなロキくんを見てお腹を抱えて笑う。 「そーか、そーか。早く大きくなりたいのか、ロキくんは。」 鳴神くんはロキくんを見下しながら頭をぽんぽんと叩いた。いつもと逆。からかわれるのはいつも鳴神くんの方なのに。…楽しい。ロキくんには悪いけど。 「鳴神くん、そんな風に言っちゃ可哀想だよ。子供らしくて良いじゃない。ね、ロキくん。」 私がにっこりと笑いかけると、赤くなったままのロキくんは複雑な顔をしてそっぽを向いてしまった。 「…そんなフォローは嬉しくない」 別に子供だから大きくなりたいんじゃない、とか何とか言うロキくん。その子供らしい言葉とは裏腹に、真剣なロキくんは、やっぱりどこか大人びている。 「…で、まゆらは?まゆらは何書くんだよ。」 私?私のお願い事は毎年決まってる。 「ママに、私の愛が届くよーに!」 死んでしまった人とは、どう願っても会えない。一年に一回だけ橋を架かけて、恋人たちを会わせてくれる天の川より、もっともっと大きな障害が私たちにはあるの。いつからか、短冊に書く願いは変わった。 もう二度と会えなくても、私は今でもママが大好きだよ。だから、ママも私を忘れないで。 「あとね、お小遣いUPもお願いしなくちゃ。あと成績が上がりますようにって。」 指折り数える私に、ロキくんはふと笑う。 「まゆららしいね。」 その笑顔は、全然子供みたいじゃなくて、私よりずっとずっと大人みたい。ロキくんはたまにこうゆう表情を見せる。その度に、私は少しだけ心臓が止まる気がする。 「ロキもロキらしいじゃん。『早く大きくなりますよーに』ってか」 「うるさいっ!」 顔を真っ赤にして怒るロキくんは、子供だ。そんな顔を見ると、何故か少しだけ胸の奥が安心する。何でだろう。 「…こんな楽しい毎日が、ずっとずっと続きますようにって書かなくちゃ。」 少しづつ大きくなっていく内に、欲望は増えて願い事は沢山になっていく。失うものもいっぱいある。それでも、失いたくないものはまだまだ私にはあるんだ。 「ロキくん、短冊もう一枚取ってくれる?」 笑顔で言う私に、一瞬、一瞬だけロキくんは困ったような顔をした気がした。私がそれを不思議に思う前に、ピンク色の短冊を渡してくれた。 お願い事を書く私の手元を、ロキくんが見ている。 「…やっぱぼくはいいや。」 ぽつりと呟くロキくんに私が顔を上げると、ロキくんはさっきの短冊をゴミ箱に無造作に捨ててしまっていた。 「え〜、何で?良いじゃない」 文句を言う私に、ロキくんは優しく笑う。 「良いんだって。…自分で出来ることは自分でするって決めてるんだ。カミサマに頼ったって仕方ないことだってあるだろ?」 あっけらかんと言うロキくんの言葉が痛い。それでも、私は短冊を書くことをやめない。 「じゃあロキは毎日牛乳でも飲むのか。早く大きくなろうな〜。」 ロキくんは無言で、見事なキックを鳴神くんに放った。 |
神様なんか信じない。 頼ったって仕方ないことだってあるって、私だってもう知ってるよ。 成績UPのお願い事は自分の目の高さに。 お小遣いUPのお願い事はパパの目の高さ。 ママへの短冊は、一番高いトコロに。 神様になんて頼って短冊を書くんじゃないもの。 この楽しい日々が続きますように… 私は何となく、ロキくんから見える高さに短冊を付けた。 |
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星の溢れる天の川
幾千の星に、幾千の願いを乗せているのでしょうか
もう何もいらないから
もう、これ以上なにも望まないから
もうこれ以上、私から大事なものを奪わないで
胸に願いを抱きながら
私はそれでもやっぱり、神様なんか信じない。
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七夕の早朝に、唐突に思いついたお話。
まゆら視点が楽しかった。
カップリングものじゃないよ!ホモじゃないよ!
割とノーマルのも書けるんだと思った。
急いで書いたせいで、粗が目立つかもしれない…
たまに気付かない程度に修正入れてるかもしれません。
あ、ロキの願い事は「早くもとの姿に戻りたい」って意味ですよ。
ロキ視点で同じ話書きたい気がしなくもない。
天神美香
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