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   レオンWeek (レオンは11月で13歳になりました。)
レオンはなぜ日本に?
 私が一枚の写真を見てしまったばっかりに日本へやって来たレオン。
20年近く前の事。すでに複数回の繁殖を経験し、白黒以外の毛色がボーダーにも誕生することは知っていました。そんな頃、ある雑誌で今まで見たこともないブルマールの存在を知り、すっかり惚れ込み、“マイドッグはこれだ!”と決心させたのです。ただ単純にカッコイ〜と、それだけの理由です。ただのレアモノ好き?

通販でも良い犬を選ぶ
秘策を考える
当時は直接、英国まで足を運ぶ機会を作る事ができなかったので、より良い個体が来るために購入条件を出しました。
・雄親が現役の作業犬である事。
・子犬は雄である事。
この2つを、毛色がブルマールであることに加えました。
系統を考える場合、動物の世界では犬に関わらず、雄の能力に重点を置きます。そして雄の場合、その外見を母から、内面を父から受け継ぐ確率が高いものです。ブルマール同士の繁殖は有り得ないので、生まれる仔犬のうちブルマールである頭数は全体の半分以下。さらに雄をリクエストするということは、ブリーダー自身に選択の余地を出来るだけ残さないようにするためでした。ですからブルマールの雄が生まれた時点で現役の牧羊犬の能力を備えているはず!優秀な牧羊犬の血が手に入る!将来、2世にもその血統を引き継げる!こんな策略めいた願望もありました。こうしてブルマールの雄として生を受けたレオンは誕生と同時にその運命が決定していたのです。
 
  注:通販といっても、しかるべき伝手があっての購入でした。


子犬選びの真の秘訣
マイドッグを選ぶためにさまざまな知識や経験があることに越したことはありませんが、一番大事なことはその犬を気に入ることです。インスピレーションでも見た目でも何でもかまわないと思います。自分の目で見て自分で決めること。通販の場合、前述のような策は講じられても、運を天に任せるようなものです。
社会化が済んだ3ヵ月後、レオンは期待に胸を膨らませる私の元へやってきました。毛色はもちろんブルマール。しかも茶色が入ったトライカラーはわたしを大変に満足させました。さらに、牧場という職場ではなく自宅で飼うので、まずは優秀な牧羊犬としての能力だけでなく、家庭犬としての才能もレオンには要求されました。無駄吠えをしない、トイレのサイン、静かに留守番、人懐っこい・・・など。これらのことに関しても申し分なく、飼育経験のない家族を大いに喜ばせました。
さすが英国のボーダーコリーだ!宝くじに当たったようだ!・・・しかし有頂天はここまででした。

レオンの忘れ物
いよいよ羊に会わせる日がやってきました。
日常の賢さからいってどんな羊に対する反応があるのか楽しみでなりませんでした。
羊を見据えて、体を低くし微動だにしない・・・そんな映像を頭に浮かべてはニンマリしていました。
ところがです。彼は柵越しにひつじを目にすると“見なかったことにしよ〜とっ”と無視をするではありませんか!せめて鳴いたり、怯えたりしてくれるほうがまだまし・・・
というのも・・・それまでに自分が書いた牧羊犬のトレーニングガイドには“羊に興味がない犬は残念ですが諦めましょう”と断言していたのです。そんな残念な犬がレオンで、今自分の前にいるのですから大変なショックでした。見かけ優先がまずかったのか?通販の限界か?・・・そんなことが頭を過ぎりました。“パパからもらったはずの能力はどこに置いてきてしまったんだぁー”
しかし後悔することも、諦めることも出来るはずがありません。ここから、レオンとの長く険しいトレーニングの日々が始まったのです。

牧羊犬の適性
 私が牧羊犬の高い適性を求める理由は、トレーニング時間の短縮です。私にはトレーニングそのものを楽しむ余裕はありません。訓練を積んだ先にやるべき仕事が待っています。ところがレオンはそれまでに職場で繁殖し選んだ子犬のトレーニングと比べると如何せん時間がかかりました。職場の部署の垣根を越えて牧羊犬講習会を立ち上げたのも、愛犬レオンにひつじを会わせる機会を増やすためだったといっても過言ではありません。さらにもっともっとが高じて現在に至ります。
しかしながら、牧羊犬としての本能が開花するまでにはいたりませんでした。

 今でも牧羊犬の適性とはひつじが“三度の飯よりも好き”なことが第一歩なのだと感じています。ただ諦める必要もないことと思っています。
犬であれ人間であれ、その嗜好をコントロールすることは難しいことです。ここにズレがあった場合は代わりに強くて確かな主従関係を愛犬との間に結ばないとなりません。しかしこれはペットに“犬”を選んだ方なら理想とする関係なのではないでしょうか?なので職業が羊飼いでない限り、適性のない犬に出会うことはそれほど不幸なことではありません。現にレオンにかかわったこの初期の5年は蜜月でした。この経験があってトレーナーとして意識の巾を持つことが出来ましたし、マイドッグにこだわる皆さんの気持ちも理解できるのです。

レオンの子どもとる
 現在、4頭のボーダーを所有するようになってもレオンは特別な存在です。10年間その子どもを残したいという思いがありましたが、ついに断念しました。
畜産の世界で言う繁殖は、有益な能力を次の世代に引き継ぐことが目的です。畜産というのは豚や牛のことだけではありません。人間の生活に深くかかわっている以上犬・猫も立派な産業動物です。その中で、うちの犬がかわいいからその子どもがほしいと思う感覚・・・
畜産業界に長くいる私にも十分にその気持ちは理解が出来ます。ただその気持ちにブレーキをかけられる力が少し強いだけです。
 その力の元となっているものが3つあります。
まずは遺伝学的なもの。犬種特有の疾病の存在です。
中でもブルマールはそのブリーディングの組み合わせによっては失明した子犬が出現します。今でも何の面識もないかたから突然のペアリングの依頼を受けることがありますが、この類の知識がないままに繁殖を試みることに危険を感じます。このような決定的なタブーではなく、もっとあいまいな体質さえあります。
レオン自身も生活上に何の問題もありませんし、遺伝する確立が高い重大な疾病はありませんが他の3頭や今まで職場で育ててきたボーダー達とは違う体質的な危うさを感じます。                    
これはわたしの経験の中での感覚的なものなのでしたが、そのつど診断を仰いだ各分野の獣医師の繁殖に関する考えは決定的なものはなく、止められも、勧められもしませんでした。
 2番目は行動学的なもの。ご存知のようにボーダーコリーは犬種の中では知能が高いといわれています。しかしその能力がどういった場面で発揮されるかは、性格や生活環境によってちがい、扱い難さへと変わっていくかもしれません。レオンの性格や能力はその危険をはらんでもいます。
 それから最後に感情的なもの。うちの子はかわいい。これは共通の感覚です。でも生まれる子はそのクローンではなく、ましてやその犬そのものではありません。全く別の犬です。そしてその子犬を全部飼うわけにはいきません。
レオンはかわいいからその子どももかわいいというような主観的で、身勝手な思い入れを托せる飼い主を何人も見つける自信はありません。
 この3つが複合して私にストップの決断をさせてたのです。なんとネガティブな考え方!と笑われるのでしょうか?しかしこれは私の経験がそうさせたのですし、命を生産するということは慎重になされるべきものです。

ISDSの登録証が示すものと
繁殖者の責任
 レオンはボーダーコリーの純粋ですが、日本の犬の団体には登録をしていません。代わりに英国のISDS(国際牧羊犬協会)の登録証があります。
この登録制度の目的は犬種特有の疾病を無くすために設けられていて、健康なボーダーコリーの管理と普及にあるようです。
例えば登録に必要なもののひとつに、ボーダーコリー特有の目に関する疾病のチェックがあります。これは遺伝的なものなので、親犬がチェックの対象となります。つまりISDSに登録を重ねた血統からはこの病気が発生する件数がきわめて低いわけです。現実に英国内での発症件数は減少しました。
その実績も手伝って、繁殖を行う場合はもっと高いハードルが用意されています。繁殖に使う雌雄はもちろんISDSの登録証があり、更に2歳以降に取得した特定疾病に関する健康証明書が必要です。そのために日本では大学病院にもいない専門医を探したり、英文の健康証明書を作成してもらうなど手間がかかります。そして、ペアリングの申請を行い、ようやく開始となります。
しかし、動物に関して、遺伝に関して、絶対はありません。出現して欲しくない個体はゼロにはなりません。限りなく少なくなる状態に徐々に近づくだけです。ですから、ISDSに登録されているからといって全て安全ではないのです。


     
 ISDSの登録証は過去の記録であるだけです。現在、未来は、目の前の犬を繁殖させるブリーダーが責任を負うものです。そして繁殖は遺伝的疾病の回避だけをもって行われるものではありませんので、その他の要因を見極める力が必要になってきます。個体の性格、体質、が負の要因として現れる可能性に対しての想像力を持ち合わすことも大事です。その力は幅広い知識と経験、観察力が必要なのだと思います。ISDSが肩代わりしてくれるものでもありません。こんな牧羊犬の社会、意識、伝統文化がイギリスには当然のように確立しています。

 こんな世界からレオンはやってきました。そしてレオン自身が登録証の意味するものをすべて語っています。そうです。牧羊犬としての能力を保証してくれるものでもありません。

レオンが残すもの
 レオンに出会った13年前はすでに私には牧羊犬の飼育、繁殖に15年の経験がありました。しかしこれは現在にしてみればその1/10に過ぎません。現在の自分であればもう少しどうにかなったかも・・・との気持ちがなくはありません。
レオンにとっては私との出会いは早すぎたのですが、私にとっては外せない大事なタイミングでした。
 前述のように、私は経験も環境も時間も足りない自分を補うためにイギリスの牧羊犬の能力を求めました。しかし能力=本能とは無意識に支配された行動と言えるもので、それをコントロールする力は無意識に、しかも偶然に身につくものではなさそうです。もしもレオンの中身もスーパードッグであったならそのことに気づくのはもっと先になっていたのかもしれません。
 こうしてレオンはたくさんの岐路を与えながら、わたしのトレーナー、ハンドラーそしてブリーダーとしての力をせっせと磨いてくれているのでしょう。それが私にとってDNA以上に貴重だということは確かです。そんな意味でもやっぱり私は宝くじに当たったのだと信じています。