精神コマンド劇場「64」編



毎度お馴染み、ネェル・アーガマ艦内。
マーチウインドのパイロット達は、つかの間の休息の時を過ごしていた。


「よっ、セレインちゃん、相変わらず可愛いねえ。一緒にランチ、しない?」
いつもそうするように、ニヤニヤしながら近付いて来たリッシュは、
食堂内で座る場所を探していたセレインに、声をかける。
「また貴様か。私のあとについて来るなと言ってるだろう」
「んな事言うなよ、好きな女と一緒なら、
この味気な〜い食事も、数倍うまくなるんだぜ?」
「…私はちっともおいしくないが」

リッシュの言葉に思わず脱力するセレイン。

「あら、セレイン、こっちへ来ない?」
「おう、いっしょに食おうぜ!」

ざわついた食堂内の、更に一層にぎやかな一角から、
さやかと甲児が立ち上がり、セレインに向かって手招きをする。

「……たまにはそうさせてもらおう。…貴様と2人でいるよりはマシだ」
「ったく、あの連中、俺たちの恋路をジャマしやがって」
「『たち』では、ないがな」

すまんな、と言いつつ、さやかの隣の空いている席に座るセレイン。

「おっ、マーチウインドのエース達の勢ぞろいか。俺もお邪魔させてもらおうかな」
「この男の事は、空気と思ってくれていい。何なら床の上で食べてもらってもいいんだが」
「俺は別にかまわないぜ。…相変わらず仲がいいな、お2人さん」
「なっ…!?何を言っているんだ、藤原!…私はこんな奴とは、さっさと縁を切りたいんだ!」

忍の言葉に、動揺するセレイン。

「まあま、セレイン。嫌い嫌いも好きの内って言葉、知ってる?
嫌いと思っていても、常にいつも一緒にいると、相手に情が移ってくるものなのよ?
…ねえ、デビッド?」
「そうだな、シモーヌ…って、俺かよ!?…だから、昔のことは謝るって!
頼むから『情』なんて言うなよ!」

2人ともいい根性している、とセレインは思う。

この2人は最初、デビッドの片思いから始まり、
しかし、行動を共にするうちに、だんだん自然にくっついていった…と、
誰かから聞いたことがある。

リッシュも、デビッドと一緒か…って、私はシモーヌとは違う。
私は、この男の事など好きにはなれない。


セレインは1人、頭の中でいろいろな思いをめぐらす。


「わかってないね、忍。セレインとリッシュは、まだこれからなのさ。
今は、セレインも嫌がっているようだけど…まあ、あんたみたいな熱血男には、
そんなこともわかんないだろうけどね」
「んだと、沙羅、てめえ!」
「なんだい、やる気かい、忍!」
てかげんしておけよ、沙羅」
「おっ、亮、それビンゴ!ずばり必中だね!」
「亮!それは俺に言うセリフじゃねえのか!?」

もはや、お約束と化している、獣戦機隊の4人のやりとり。

「がんばってね、藤原さん…」
こっそり激励の言葉をかけるファ。

「いさという時は間に入ってね、カミーユくん、鉄也さん。信頼してるからね」
「なぜ、俺たちなんだ、さやかさん?」
徹夜で機体の整備をしていたらしく、たった今覚醒したばかりのような顔をした
カミーユが不思議そうに問い掛ける。
「だって、カミーユくんは空手に通じているし、鉄也さんはイザという時、
鉄壁の守りで受け止めてくれそうだし」
すると甲児が、拳で胸を叩きながら話し出す。
「俺だって、ド根性で守ってやるぜ、さやかさん」
「甲児くん…」
「え〜っ、あたしは守ってくれないの?甲児ィ!」
「も、もちろん守ってやるよ、マリアちゃん。いやあ、もてる男はつらいなあ」
「何よ甲児くん、鼻の下伸ばしちゃって!」
「いてっ!まっ、待ってくれよ、さやかさん!」

…こちらも、大変な事になってきたようだ。

「フン、くだらない」
もくもくと食事をすすめる鉄也。
「そうかい?鉄也さん。俺は、一人に決めない兜が悪いと思うけどなあ」
「せやなあ、でも1人に決めてても、ケンカばっかりしておるアホも、ここにおるやんか〜」
鉄也に問い掛ける豹馬に、加速度的なツッコミをみせる十三。

フン、今度はコン・バトラーチームか。

「なんだと、十三!」
「そうタイ、豹馬、恋は気合タイ!」
「意味わかんねえぞ、大作!」
「は?…はい、なんでしょう、葵さん…?」
「あなたじゃないわよ、大作くん…もう、豹馬くん、まぎわらしいわよ」

草間大作と銀鈴が話に割って入る。

「ボ、ボクが悪いんです。これからは、状況がすぐに飲み込めるよう努力します」
そんな大作に、ちずると小介が近付いてくる。
「ごめんね、大作くん…。ほら、早く食事を済ませて、
ロボにエネルギーを補給するんじゃなかったの?」
「すみません、ちずるさん…」
「大作くんが謝ることじゃありませんよ。そもそも豹馬さんたちが言い争いしてるのが
悪いんです。…ボクが偵察してきます」

小介が3人の間に割って入ろうとする。しかし…。
既に、豹馬と十三の間で、一戦始まりそうになっている。

「やめなさい、豹馬くん、十三くん…キャッ!!」
ちずるが2人の間に入ったのと同時に、2人の拳が交じり合おうとしていた。
頭を抱え、しゃがみこむちずる。その時…。

「くっ…、女性に手を上げるなんて、戦士の風上にもおけませんね。
…大丈夫ですか、マドモアゼル?」
「え?ええ…」

見かねたジョルジュが、みがわりになって、2人の拳を受け止めたのだった。

「ジョルジュ!?…うわっ!こんな所でスーパーモードになるんじゃねえ!!」
「やめんかい、われえ!!」

「フン、あいつらにはいい薬だ。もっとやれ、ジョルジュ」
食堂の片隅にいた隼人が挑発的な言葉を吐く。


…なんだか、どこもかしこも大変な事になってきた。


「まったく…落ち着いて食事も出来ないのか…ヒイロ、
よくそんなに集中して食事していられるな」
あきれるセレインはふと、離れた場所で黙々と食事をとっているヒイロを見つける。
「俺には関係ない。それに、たまには発散も必要だ」
「そうそ、戦いの繰り返しでみんな、ストレスがたまってんのさ」
「デュオ、お前もか…。それにしても、どこから出てきたんだ?」
「俺は隠れ身が得意でね。さあて、相棒の整備でもしてきますか、なあ、ヒイロ?」
「…任務了解」


「おいおい、みんなやめるんだわさ。しょうがねえ、
俺さまが丸くおさめてやるんだわさ」

しかし…秒殺だった。

「……自爆……か…」
ボソッと言い残し、去っていくヒイロ。

「へっ…負けないんだわさ!!」
復活のボス。まさに幸運だったと言っていいだろう。
しかし…『野生化』に『スーパーモード』、色々なものが発動している面子の中で、
ボスは、あまりにも無力だった。


ボスは…2度と再動しなかった…。


「君たち、やめるんだ!…いつもの友情は、どこへ行ってしまったんだ!?」

おまえは学級委員か、リョウ。

その時、ショウのあるひらめきが、この事態を収めることとなった。
「チャム、あのな…」

ボソボソと、チャムに耳打ちをするショウ。

「うん、わかったよ、ショウ」
そう言うと、そこかしこで起きている暴動の渦の方へ、ひらりと飛んでいくチャム。

大きく息を吸うと…。


「ハイッパーーーーッ、オーラ斬りだあぁぁぁぁっ!!」


一瞬、シンと静まりかえる食堂内。
そして、みんないっせいにあの一言を…。


「耳元で怒鳴るな!!」


…プッ………ハハハハハハハハッ!!

「なんだよ、チャム、誰よりも声デカいよ!」
「もう、おかしい子だねえ」
「うるさいっちゅうねん!」

奇跡がおきた。ギスギスしていた空気が、一気に和やかになっていく。

「ハハッ、ケンカっ早いのが玉にキズだが、みんな、心の底にはがあるから、大丈夫だな」
「そうね、シロー……」
「アイナ……」

「みんな、それぞれ考えは違うようでも、本当の祈りはただ1つ…。
世界中が仲良く、平和でありますように…って事なんだわ…ね、ドモン」
「そう簡単に、うまくはいかんがな、レイン」

「ごめんね、デビッド…」
「いいんだよ、シモーヌ…」

「沙羅…悪かったな……」
「あたしも…少しはしゃぎすぎたようだよ、忍…」

「さやかさん、マリアちゃん、俺は2人とも守ってみせるからな!」
「甲児くん…」
「甲児…」

「ちずる…俺は、お前を殴ろうとしてたんじゃないんだからな!」
「…わかってるわよ、豹馬…」

「…な〜んだか、どこもかしこも、ほんわかムードになってきてるな。
さっきまでのあの険悪なムードは、何だったんだ?」
今まで黙って様子を見ていたリッシュが、やれやれ、と言わんばかりに喋りだす。
「知らんな…とにかく、これでやっと、落ち着いて食事が出来る」
「…俺たちも、こんなほんわかムードになれないかなあ、セレイン。
俺のは、いつもお前だけを求めてるんだぜ!?」
「…そのパターンは、もう聞き飽きたぞ!貴様、
たまには違うことを言ったらどうだ!?」
「ああいいぜ、お前に贈る愛の言葉は、いっくらでもあるんだからな」
「ッ!……勝手にしろ、バカバカしい」


セレインのかく乱作戦は、どうやら失敗に終わったようだった。



(あとがき)
精神コマンドを折り込んで展開させていこう、という趣旨のもと、製作されたこの小説。
一応キャッチコピーは「めざせ!シチュエーションコメディ」(爆)だったんですけどねえ…。
無理のある箇所もいくつかあったりして、やはりコメディは難しいですね…。

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