可愛いベイビー。
セレインは、夢を見ていた。
赤ちゃんを抱いている自分。誰の子だ……？
そして、私の隣には……、がっしりした体格に、見覚えのある銀髪の男……。
まさか……そんなことは……！
ハッと目を覚まし、体を起こすセレイン。
「……なんて夢だ…………。疲れているのか……？」
グラドスの刻印の眠る土地……クスコ。
最後の切り札となるはずの、それを発動させる為、この地にやって来たアルバトロ＝ミル＝ジュリア＝アスカ。
そして、彼女を守る為、マーチウインドもまた、クスコに到着していた。
この日は、ジュリアについて来たクスコの聖女隊を乗艦させていたため、
艦内は、いつもにも増して慌ただしいムードに包まれていた。
「クスコの聖女隊……か。相変わらずご熱心な事で」
狭い部屋の中、ひしめき合いながらも、ジュリアの為に祈りを捧げているらしい彼女達の様子を見て、
リッシュがつぶやく。
「これが、彼女達なりの戦いのやり方だ。邪魔をするんじゃない……」
セレインはそう言うと、その場を離れようとした……。
その時、一緒に居たアイナが、シローに問い掛ける。
「あら？あの人達は、聖女隊とは違うのかしら？」
「ああ……。彼女達は、聖女隊を支援しているグループだそうだ。
全くのボランティアで、ここまで来ているらしい。……だよな？アンナ？」
「ええ。……クスコの聖女隊は、こういう人達の援助があったからこそ、
今まで活動出来ていた、と言っても言い過ぎじゃないわ。
支援の輪は、どんどん広がっている……。ジュリアさんに、希望を見出しているのよ」
「そうね。……私達にとっても、グラドスの刻印は最後の切り札ですものね。…………あら、
あの人、赤ちゃん連れで参加しているの？」
アイナの指差した方向には、赤ちゃんをあやす女性の姿があった。
狭い部屋の中、機嫌が悪いのか、ぐずり気味のようだ。
「そうだな。なんか、大変そうだな」
シローが言う。すると、アンナが口を開く。
「あの人、少し休ませてあげましょう。……何だか、顔色が良くないわ。
赤ちゃんは少しの間、私たちでお守りしてましょうよ」
「おいおい、気楽に言ってくれるぜ。赤ン坊の面倒なんて、看れるのか？」
「交代でみましょう。最初は私たちが、次はあなた達お願いね。セレイン、リッシュ」
何故か、アイナはやる気満々のようだ。
「じょ……冗談じゃない！なぜ私が、こいつと一緒に子守などしなければならんのだ！
…子守をする事は一向に構わない。だが、よりによってこの男と一緒というのは……！」
「あら、いいじゃない。将来に向けて、予行演習になるかもよ。……ねえ、シロー……？」
「そうだな、今のうちに赤ン坊に慣れておくのも、いいかもしれないな」
もしかして、この２人……。
「……ちょっと待て。お前たち、何か勘違いしてないか？」
「何を？だってあなた達、付き合ってるんでしょ？」
顔から火が出そうになるセレイン。
「だっ……誰が！そんなことを言ってるんだ！
何で私がこんな奴と付き合わなければいけないんだ！」
セレインにしては珍しく、感情的なものの言い方になっている。
「あらら〜、わかっちゃった？隠しててもやっぱ、俺たちのラブラブ加減が伝わるんだな〜？」
「貴様は黙っていろ！」
「……だって、いつも２人一緒に居るじゃない。だからてっきり……ねえ？」
「ああ、待機している時から食事の時まで、一緒に居るじゃないか。
みんな、お前たちが立場を越えて付き合ってるって思ってるぞ」
「お前たちとは違う！アマダ少尉、アイナ！」
「ご……ごめんなさい、セレイン。私も、お付き合いしてるって思ってました……」
アンナが、消え入りそうな声で言う。
「…………！……」
あまりの事に、セレインはもはや怒る気も失せ、ため息をつくと、
「……一緒に居る、というのとは違う。
こいつが勝手に私の後についてくるだけだ。
これが付き合っている、という事なら、世の中のストーカーは全員、お付き合いしている、という事になる」
「クックックッ、面白い事言うなあ、セレインちゃん。ストーカーって、誰のことだよ？」
「私の目の前でニヤニヤしている、勘違い男の事だ！」
セレインは、リッシュの顔の前で何度も指差して答える。
「（……その割には、結構仲、良さそうじゃないか…）ま、まあ、この話はこの位にして、
今は、赤ン坊の面倒を看るのが先じゃないか？」
シローは、困ったような笑みを浮かべながら、２人の間に割って入る。
「（……セレインったら、照れちゃって…）そ、そうね、私、あの人に言ってくるわ…！」
アイナは、これまた困ったような笑みを浮かべながら、聖女隊の居る部屋の中に入っていく。
セレインは、またひとつ、大きなため息をつくと、
「やれやれ…………どうなっているんだ……？」
「セ〜レインちゃん！いい加減、ナナメってるご機嫌、直してくれよ」
「…………」
セレインはずっと黙ったまま、赤ちゃんを抱えている。
先に面倒を看ていたシローとアイナから、順番が回ってきたのだった。
場所が変わり、シローとアイナからミルクを飲ませてもらい、お腹もいっぱいになったからか、
赤ちゃんは、始めの頃とうって変わってご機嫌だった。
「……それにしても、やっぱセレインも、女なんだな。子守り姿も似合ってるぜ」
「…………」
「セレインちゃんも将来、こんな感じで人の親になるのかな〜、なんて実感、わいてきたりして」
「…………」
「もちろん、その時お前の抱く赤ん坊の父親は、この俺だがな」
「…………！」
さすがに、黙っているのにも限界が来た。
「貴様、いい加減にしろ！貴様の、その馴れ馴れしい態度がみんなの誤解を招くんだ。
私の目の前から消え失せろ！」
「あ、やっと話してくれた」
「…………！」
「あとな、俺は、お前の目の前から消えたりはしない。だからお前も……
俺の前から消えるんじゃねぇぞ？」
「……貴様……！」
その時……セレインの抱いていた赤ちゃんが突然、白い液体を吐き出した。
シローとアイナが直前まで飲ませていたミルクか？
「あ……？おい！…ど……どうすれば……？」
突然の出来事に、慌てるセレイン。
「落ち着けよ、セレイン。……赤ン坊はニコニコしてるじゃねぇか。大丈夫だとは思うが、
念のため、ハサン先生の所にでも連れて行くか？」
「だ……だが、こんなにたくさん吐いたんだぞ！？……びょ、病気じゃないのか……？」
セレインの胸の動悸は治まらない。
「落ち着け、セレイン……」
そう言うとリッシュは、セレインの肩をそっと抱き、自分の方へ引き寄せた。
「赤ン坊だって、小さい体で一生懸命生きてるんだ。些細なことでおろおろするんじゃない……。
そいつは、機嫌も良さそうだし、顔色もいい。……大丈夫だ」
まるで、小さい子供に教え、諭すようなリッシュの声に、少し落ち着きを取り戻したセレイン。
「……わかった。ハサン先生の所へ行こう……」
「病気じゃないよ、セレイン。……こりゃあ、ミルクを飲ませた後、げっぷをさせなかったんじゃろう」
ハサン先生は、赤ちゃんの体を、隅々まで観察した後、こう言った。
「げっ……ぷ？」
「ああ、赤ン坊をこうして、縦に抱いてな、背中を擦ってやるんじゃ。
ミルクを飲ませた後、げっぷをさせてやらんと、吐き出してしまうことがあるんじゃよ」
「……の２人、やる気満々だった割には、そんな事も知らなかったのかよ……」
「貴様は知っていたのか、リッシュ？」
「まあな。年の離れた親戚がいたもんでな、その位は」
「赤ン坊を寝かせてあげなさい。……ほら、もう眠そうじゃ」
医務室を出た後、セレインは意を決して、リッシュに声を掛ける。
「す、すまなかったな……」
「？……何が？」
「いっ……色々とだ！……私を落ち着かせてくれて、……ありがとう……」
リッシュは、いつもの笑みを浮かべながら、セレインに顔を近づける。
「俺も、ひとつだけ訂正な。……少しくらい、おろおろしてもいいんだぜ。
……その時のために、俺が居るんだからな」
そう言うと男は、少女の額に、軽くキスをする。
不意打ちのようなその行為に、体温がどんどん上がっていくような感覚に陥るセレイン。
「…………貴様！この……ストーカーめ！！」
赤ちゃんを抱き、手が離せないため、セレインはリッシュの向こうずねを思い切り蹴り上げると、
さっさと先に行ってしまった。
「…………つ〜っ、マジかよ……」
痛む足を押さえながら、リッシュは呟く。
「……確かに、ストーカーかもしれんな。それでも俺は、ずっとお前から離れないぜ、セレイン」
（あとがき）
ここまで書いておいて、何なのですが…。
白状します。私、「６４」ではアイナさん、１回も仲間にしたことありません！（爆）
だって、「対ビームコーティング」と「高性能レーダー」欲しかったんですもの…。
「６４」をプレイしていた当時、「第８ＭＳ小隊」のことは、全く知識がなかったもので、
特に思い入れもなく、強化パーツ欲しさに殺っちゃったのですが、
後の「Ａ」や「ＩＭＰＡＣＴ」でシローとアイナの一連のイベントを見て、
「私ってもしかして、邪道なことをしたのかしら…」と少し反省。
せめて小説の中で幸せになってくれい、との罪滅ぼしの意味も込めて、書かせていただきました。
リッセレに関しては、まあいつものお約束、ということで。
私が、赤ちゃんにミルクを飲ませた後げっぷをさせる、ということを知らなかったもので、
それをネタに書いてみました。
セレインちゃんの子守り姿、確かに似合いそうです。
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