デザート。



セレインは、激しく後悔していた。
まさかあの男と、こんな事になろうとは…………。





2時間前……マーチウインドは、敵艦隊と交戦中だった。

名実共に、マーチウインドのトップエースとなりつつあったセレイン=メネス。
敵撃墜数、敵攻撃時の回避率ともに、トップ3に入る実力を持つ彼女だが、この日は様子が違っていた。
敵軍のビギナーズラックとでも言うべきか、被弾率が高くなっていたのである。
(それでも敵命中率は、10%未満なのだが)



「……駆動系をやられたか……。動きが重い……!」


スヴァンヒルドのバージョンアップ版とも言えるラーズグリーズとはいえ、装甲はお世辞にも厚いとは言えず、
例え、回避率が高くとも、当たれば命取りにもなりかねない。

ピンチに追い込まれるセレイン。

そこへ……。


「ぐ!やってくれるじゃねぇか」

リッシュ=グリスウェルの駆るシグルーンが、ラーズグリーズの前にさっと立ちはだかり、
敵の攻撃を受け止めたのだ。

「ふーっ、間一髪、ブースターを付けといてもらって良かったぜ」
「リッシュ=グリスウェル!……余計なことを!」
「まあまあ、固いことは言いっこなし、ということで。……それより、俺について来れるか?
……その様子だと、駆動系がイカれちまってるようだな」
「……確かに、このままでは分が悪いか……」
「決まりだ、後ろからついて来い。援護を頼むぜ、セレイン」
「この場合は仕方ないようだな。……そうさせてもらう!」



こうしてセレインはピンチを乗り切り、マーチウインドは無事、敵軍を撃退させる事に成功した。



帰艦の途中、珍しくセレインの方からリッシュに声を掛ける。

「……先程はすまなかった。余計なことなどと言って。……しかし、
貴様のシグルーンも装甲は厚くはない。こんな事をするのは、戦場では命取りだ」
「確かに、その通りだ。
でも、マーチウインドってのは、こんな事ばっかりするような連中の固まりだ。
俺も感化されちまったようだな。
それに……俺は、それがセレインだったから、あんな事したんだぜ?」
「…………それはともかく」
「けっ、それはともかく、かよ。
少しはありがたみとか、お礼をしてくれるとか、考えてくれんもんかね」

リッシュは、セレインの言葉を遮り、やれやれといった風情でモニターを見つめる。
それを聞いたセレインは、一呼吸おくと、消え入りそうな声で、




「…………ありがたいと思っている。それに、何か礼もしたいが…………」



「え?何?セレインちゃん、よく聞こえないんだが」



聞こえているくせに……。



「……食事でもごちそうしてやる!但し、一度きりだ!」
「本当かよ。……何でもごちそうしてくれるのか?」
「…………約束する」
「くぅ……嬉しくて涙が出ちまいそうだぜ。よし、そうと決まれば、帰ったらすぐだぜ?
セレインちゃんの気持ちが変わらない内にな」


「……まったく」


セレインは、ふぅ、とひとつ、ため息をつく。

仕方がない。助けてもらったのは事実なのだから……。
何を考えているのか、まるでわからない男だが、一度くらい食事をごちそうしてやっても、
バチは当たらないだろう。

そう自分に言い聞かせ、セレインは機体を着艦させると、
戦闘後の機体のメンテナンスもそっちのけのリッシュに、強引に食堂に連れて行かれる。



(それにしても……食事くらいでここまで嬉しがるものなのか?
やっぱりこの男、何を考えているのか、よくわからん……)






「……ふーっ、食った食った。
やっぱり好きな女と一緒だと、いつもの食事も数倍美味くなるぜ」


ひとしきり食べた後、食堂内でリッシュは、満足そうな声で話し始める。


「それは良かったな。……では私は失礼させてもらう」
「おいおい!もう帰るのかよ、ちょっとは俺と何か話をしようとか、考えないのかね」
「考えたこともない。……私は、世間話は苦手なんでな」
「そうじゃねぇよ。俺がどれだけお前を好きか、じっくり語り合うとか」
「私は何も話すことはない」
「待てよ、それに……食事はまだ終わってないぜ」
「まだ食べるのか!人のおごりだと思って……ずうずしいぞ!」


あきれるセレイン、そしてリッシュはいつになく真面目な顔で、


「ああ、これから極上のデザートをごちそうしてもらいたいんでな……」






「ちょっと待て!こっちの方には飲食のスペースはないぞ、どういうつもりだ!」


人気のない非居住スペース。
リッシュはこの閑散としたスペースの一角にセレインを連れて来た。


「そのデザートは、ここでしか味わえないんでな」
「ふざけるな!私は帰るぞ」

セレインが踵を返して帰りかけたその時、
リッシュの手が、セレインの肩をがっちりと捉え、少女を強引に振り向かせる。

お互いの吐息が感じられるほどの、僅かな距離で対峙する2人。

「…………離せ」
「……何でもごちそうしてくれるんだよな、セレインちゃん?」
「…………!」



やっとわかった、この男の本当の目的!

だがその瞬間……!




抵抗する間もなく、セレインの唇は、リッシュのそれで塞がれていた。


「…………うっ…………」


脱出を試みようとするものの、少女の体は男にしっかりと捉えられており、
体勢を変えることすら出来ない。

……息が出来なくなる。
だが、男はそんな事にお構いなしで、首の傾け具合を変えながら、行為を続ける。






しばらくして……やっと少女の唇は解放される。

少女は荒く息を吐きつつ、リッシュを睨みつける。
そして、男に平手を浴びせようとするが、その手はリッシュに握り締められ、阻まれる。

「……息は止めてなくていいんだぜ、セレインちゃん。…………おかわりだ」


そう言うとリッシュは、またもセレインに口付ける。


先程と違い、男は舌を挿入し、少女のそれを強引に絡め取っていく。
そして、まるで味わうかのように、少女の口中の隅々にまで丁寧に舌を這わせる。

日頃、疎ましく思っているはずの男のその行為は、強引だったが、
不思議とセレインは、不快には思わなかった。


むしろ…………。


何も考えられなくなる。
無意識のうちにセレインは、リッシュの背中に手を回していた。


そして2人の唇は、きらめく糸を引きながら、名残惜しそうに離れていく。


「…………貴様…………」


セレインは、息苦しさに瞳を潤ませ顔を赤くしながらも、何か言おうとしたが、
次の言葉が出てこない。

「……おいしかった、ごちそう様でした♪」

リッシュは、セレインをぎゅっと抱きしめ、少女の耳元でこう囁く。


「…………!!」


少女はふるふるっと体を震わせ、身を固くする。
同時に……


少女の拳は、男の頭上に思い切り、振り落とされた。


「!!……でっ、拳はやめろって言ってるだろ!?」
「…………このバカ!!いい加減にしろ!
……さっきも言ったが、今回1度きりだ!……2度目はない」
「本当にそうかな。……なんか俺、さっきセレインちゃんに抱きしめられてたような気がするんだが」

口の端をゆがめ、ニヤニヤするリッシュ。
今までの一連の出来事がフラッシュバックのように甦り、耳まで赤くするセレイン。


「しっ……知るか、そんな事!……私は先に行くぞ!」





セレインは、激しく後悔していた。
まさかあの男と、こんな事になろうとは…………。





前を歩いていく少女の背中を追いかけながら、リッシュは思う。


(俺にとっては、お前が一番のごちそうなんだぜ、セレイン。
……次は、どこを味見させてもらおうかな……?)



(あとがき)
初めてのチュウ話。
リッシュは今の所、うまいことセレインを丸め込んでいるようですね。
でも、初キッスで舌を入れられちゃった日には、引いちゃいますよね、普通。
(私だけ…?)

ちなみに、ゲーム中私は、シグルーンに本当にブースター、付けてたんですよ。
セレインがラーズグリーズに乗り換えてから、足が速くなったもので、
リッシュにパートナー修正、加えさせたかったもので。
セレインが隣にいると、彼の攻撃力は、すさまじいです。
シグルーンが、ラーズグリーズをかばう場面は、
「64」では、援護行動はないので、あるとしたらこんな感じかも…
と思って描いたものなのでした。

戻る