〜初春に〜



「隊長、一体何をやっておられるのですか?」
「…お前か。見ての通りだ。
こちらの世界では、1年の始めのこの日は、こうして過ごすのだそうだ。
甲児やケーン達から聞いたんだ、こいつが」
「『熱燗で一杯』ということですか。私も、アマダ少尉やアイナさんから聞いたことがあります。
…ちょっと待って下さい。甲児やケーンは確か、未成年のはず…」
「おっと待った。話だけだぜ、話だけ。ま、本当のところは知らないがな。
…ところで、お前のその格好こそ、一体何だ?」
「こちらの世界では今日は、女はこれを着て過ごすのだそうです。
この、体を締めている『帯』という物が少し苦しいのですが…。
さやかさんやちずるさんから、無理矢理着せられました」
「そうか…。それより、おまえもここへ来て一杯どうだ?」
「……はい。隊長がお望みなら」
「……いい子だ」





「……それにしても、酒まで飲めるとはな。全く、よく出来たもんだ」
「向こうの世界に居た時、レモン様に付き合って何度か…。その時は、専らワインでしたが」
「フン、あいつは底なしだからな。そうとう鍛えられただろう?」
「……いえ、それほどでも」
「…………だろうな」

見ると、お猪口で一口飲んだだけだというのに、ラミアの顔は見る見るうちに紅潮し、
アップにした髪から覗く耳まで、真っ赤にしている。

「こいつは『○の寒梅』といって、飲みやすい日本酒なんだがな。……まだいけるか?」
「……はい。……レモン様が仰っていました。
私の体は、アルコールへの耐性を強くしてあるのだそうです。
このように体が赤くなってしまうのは、仕様だそうなので、お気になさらぬよう」
「やれやれ……あの女、自分の趣味でこいつを作ったのか…?」
「私は大丈夫です。隊長、いつまでもお供します。さあ、次は私が…」
「ん……」

徳利を交換し、アクセルのお猪口に酒を注ごうとするラミア。
すると、緊張のためか、或いは酔いが回ったためか、アクセルの服に少し酒を溢してしまった。

「す…すみません、隊長!今、お拭きしますでございますですことよ!」
「ああ、大丈夫だ、それより言葉遣いがおかしくなっているぞ。落ち着け、ラミア…」





ふと、見つめ合うふたり。


触れ合った指先から、互いの鼓動が伝わってくる。
ラミアの潤んだ瞳が、ぼんやりと、アクセルを見つめる。
何かを言おうとしているが、言葉にならない。


アクセルは、思う。



艶っぽいじゃないか…………。



互いの吐息を感じるほどに、距離を縮めていくふたり。





そして、先に我に返ったのは、アクセルの方だった。



「……すまんな。少し飲み過ぎたようだ。悪いが、先に休ませてもらうぞ」
視線を逸らし、逃げるようにラミアの前から去ろうとするアクセル。
「すまないだとか、悪いとか、そのような事は言わないで下さい。
……今の私は、あなたのためだけに動く人形なのですから…。
お好きな時に拾い上げ、お好きな時にお捨て置きを…」

女の声は、いつもと変わらず極めて冷静だった。
男は振り向くことなく、寝室のドアを開けると、そのまま中に入り、ドアを閉める。


アクセルはベッドに倒れこみ、枕に顔を埋める。




「フッ…【俺のためだけに動く人形】か。レモン……お前は嘲笑っているんだろうな、俺を。
……俺は……俺は一体、どうすればいい……?W17……ラミア……」








(あとがき)
正月早々、オチが暗くてすみませぬ…。
そもそもこの2人に関しては、行く手に明るい未来があるとは、私には思えないのですよ。
帰れる場所もない、道もないふたり。
想いを貫くには、色々なものを犠牲にしなければいけないような気がします。
特に、アクセルが、ね。
今までラミアに対して『オレ様』だった彼が、どんな風に彼女に傅くのか…?
今年は、その辺りのアクセルの変化も、描いていけたらいいな、と思います。


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