源泉の宿・宿泊記

美ヶ原温泉/すぎもと(★★★☆☆)
美食の宿・蕎麦とワインと民藝と


美ヶ原温泉は、松本から車で15分ほどの距離にあります。近くにある浅間温泉とともに古くからの歴史のある温泉です。ただ、美ヶ原温泉自体は街並みの続く市街地のはずれといった感じのところにあり、昔ながらの風情のある温泉地とはいい難いところだと思います。細い坂道の両側に何件かの宿が建ち並び、そのちょうど真ん中あたりに「すぎもと」があります。ここ「すぎもと」の創業は昭和8年(1933年)。昭和8年建造の木造3階建ては、昭和36年に土台から改築し、平成9年には土台の良さを残しつつ再度改築されているそうです。外観の雰囲気も、中に入った印象も民芸調で統一され、なかなかお洒落で良い雰囲気を醸し出している宿だと思います。

●料 金 1泊2食 15,000円〜
●所在地 長野県松本市里山辺451−7
●電 話 0263-32-3379 
●交 通

長野自動車道松本ICから国道158号、143号を利用で約15分

●食 事 夕食/和食(食事処)、朝食/和食(食事処)
●風 呂 内湯(男女各1)、露天風呂(男女各1)、貸切露天風呂1
●施 設 18室
●イン/アウト イン15:00/アウト10:00
●宿泊日 2004.03.26〜27

■温泉 男女別の内湯と露天がそれぞれひとつずつ、それに檜の家族風呂(貸切専用)がひとつあります。家族風呂は貸切専用といっても空(あ)いていれば、随時利用することができます。ここ「すぎもと」には、敷地内(中庭)に自家源泉(「束間の湯」)があるということで、まず循環湯ということはないだろうと思っていたのですが、ちょっと予想を裏切られる結果になってしまいました。というのは、内湯の浴室に入ったとき、すぐに気づいたのですが、プールのような鼻をつく塩素臭が感じられたのです。これは間違いなく循環湯だと思いました。但し、これは男女別の内湯と露天の方の話で、檜の家族風呂の方は、塩素臭がまったくしていませんでした。思うに、大浴場の内湯と露天は循環湯で塩素混入してはいるものの、檜の家族風呂だけは源泉100%を保たせているのではないでしょうか。自家源泉といってもそれほど湯量豊富というわけでもなさそうなので、これもいたしかたないことなのかもしれません‥ただ、その違いはできれば利用者向けにきちんと明示して欲しかった‥あの内湯と露天のお湯を効能豊かなホンモノの温泉と疑うことなく浸かっている人がいるとしたら、温泉宿としては罪なことだし、だいいちその人がかわいそうです。というわけで、実は男女別の内湯&露天には宿に到着直後、1度入ったきりで、あとは家族風呂にばかり入っていました。(檜の家族風呂は決して広くはないけど、木の湯船が好きな私としては良かったです。)

(浴場への入り口) (脱衣場の様子) (昼間の男女別内湯)
(檜の家族風呂) (洗い場の様子) (敷地内の源泉「束間の湯」)
■部屋 ここ「すぎもと」は民芸の宿だとよく言われます。たしかに旅館のパンフレットにも「民芸のお宿」と銘打たれています。でも、そもそも民芸って一体なんなのでしょう?調べてみると、大正末期に柳宗悦という人が「用の美」を唱え、「民藝運動」というものが興りました。この運動によって多くの優れた日用雑器に注目が集まり、手仕事によって作られた日用品は民衆が作り上げた藝術という意味を込めて、「民藝品」と呼ばれ、広く尊重されるようになりました。でも、これらは多くが素朴などこにでもあるような物だったので、「素朴な田舎風の」という意味で「民芸品」もしくは「民芸調」と呼ばれるようになっていったのだそうです。客室は落とした照明やさり気ない小物がお洒落で落ち着いた雰囲気を醸し出していました。今回泊まった清風閣3階の部屋「鉢伏」(6畳和室・トイレ付き)は写真のとおりなかなか良い雰囲気の部屋でした。お着きのお菓子の籠に入った笹団子も美味しかったです。
(泊まった部屋「鉢伏」) (縁側の様子) (お着きのお菓子・笹団子)
■料理 「すぎもと」に泊まる意味はなんといっても、その料理にあるでしょう。今までもいくつかの雑誌やテレビ番組(旅番組、温泉番組)で紹介されたことがありますし、それがきっかけでリピーターになった人もたくさんいるのではないでしょうか。夕食は落ち着いた雰囲気のある別棟の料亭で食べました。別棟には地下道でつながっているのですが、この地下道がまた独特な雰囲気を漂わせていて、夕食への期待感をより一層高めてくれました。料亭は2種類あるようで、今回は民家風料亭「おりがみ」に通されました。テーブルごとについたてがあって仕切られています。料理は基本的にお酒と一緒に楽しめる内容となっており、合わせるお酒も地酒だけでなくワインも頼めます。とりわけワインの品揃えは日本旅館とは思えないほど充実しているみたいです。メニューは雑誌やテレビで見聞きしていたものと、ほぼ同じものが出てきたという感じです。特に面白かったのはアナゴの稚魚の踊り食いです。10匹くらいの稚魚が泳いでいるガラスのボールから自分ですくってタレ(酢醤油)につけて食べるのです。あと個人的に一番美味だと思ったのは「馬刺しのタルタル風海苔巻き」。これは馬刺しをたたいたものを葱やミョウガ、わさびなどいくつかの薬味をお好みで添えて手巻き寿司風に海苔に巻いて食べるものです。もう地酒にぴったりって感じでした。あと最後に別注した手打ち蕎麦が出ました。ちなみにこのお蕎麦は館主が手打ちしたもの。館主の花岡さんは毎日丹精込めて蕎麦打ちをし、その様子を泊まり客に披露しているのです。この蕎麦は別注で先着10名のみ食べることができます。他の料理でボリュームがありますから、一人前だけ頼んで、それを2人で分けて食べてもいいと思います。この日は混んでいたせいか、最後の蕎麦が出てくるまで30分以上待つことになってしまったのはちょっとマイナスポイントでしたが、細めでコシのある美味しい蕎麦でした。宿泊料金によって品数が違うようで、今回は15000円の部屋だったため、これだけでしたが、さらにざる豆腐、牡蠣の料理など出ている人たちもいました。
(本館と料亭を結ぶ地下道) (料亭「おりがみ」) (前菜4種盛り)
(小鉢2皿ほか) (牛しゃぶ) (アナゴの稚魚の踊り食い)
(馬刺しのタルタル風海苔巻き) (ワタリガ二甲羅焼) (豆ご飯)
(館主自ら打った手打ち蕎麦(別注)) (館主花岡さんの蕎麦打ち) (朝食)
■接客 スタッフは皆さん若かったです。特に不満に思うようなところはありませんでした。皆さん懇切丁寧に接してくれているようでしたし。まああえて難点をあげるとすれば、たまたま部屋まで案内してくれた若い仲居さんがいかにもマニュアル通りの対応に見えてしまったということくらいで。次の日、宿をチェックアウトするときには、館主の花岡さん自らが宿泊客の見送りをされており、宿の前で写真を撮ろうとしていると、若いスタッフに「写真を撮っておあげなさい。」なんて指示したり、駐車場から車を出すときに、バックオーライとか見てくれたり‥前の日、丹精込めて蕎麦打ちをしている神々しい姿とはまた一風変わった姿にお見受けしました。フロントそばには暖炉のある談話室があったり(たしかここにはクラシック音楽が流れていた)、清風閣の1階にはサロン莉羅という読書室みたいな部屋もあって(こっちはジャズが流れていた)、静かな時間を過ごす配慮がなされているのは好感が持てました。
(フロントそばの談話室) (サロン莉羅)
(宿のオフィシャルHPはこちらから)
(たびてネット(動画で宿を拝見)はこちらから)

■源泉チェック■
無色透明
泉質 弱アルカリ性単純温泉
源泉温度 40度
湧出量 29.3リットル/分
PH
湧出状態 掘削自噴
飲泉 不可