「高等魔術の教理と祭儀」
近代魔術の父ともいうべきエリファス・レヴィの代表的著書がこれである。
早くもA・E・ウエイトによって英訳され、英語圏の魔術師達にも多大なる影響を及ぼした。
また、シャルル・ボードレール、ヴィリエ・ド・リラダン、マラルメ、ランボー、アンドレ・ブルトン、ジョルジュ・バタイユなどの多くの文豪にも影響を与え、インスピレーションの源泉となった書物。
(私はフランス語の原文を読んだことはないが、)しばしば彼の文章は、独特のもったいぶった遠まわしな表現と評される。
これは、魔術の古典の大仰な文体をそのまま踏襲した結果であろう。この辺りの事情が分からないと、レヴィをコケ脅しの山師である、と誤解してしまうことになるかもしれない。例えば、魔術に対して強い悪意を持った書に「エピソード 魔法の歴史」(教養文庫)があるが、この本の著者は、レヴィを「誇大妄想に取り付かれた男」と決め付けている。
ともあれ、こうした彼の文体の雰囲気を生かした、生田耕作先生の日本語訳には賛否両論もあるだろうが、味があって、私は結構好きである。
この本は2部構成となっている。
第1部は「教理篇」であり、魔術の原理、理論をカバラ、ヘルメス哲学、カトリックの視点から解説を試みた内容である。
第2部は「祭儀篇」であり、魔術の儀式の解説が行われる。が、本当にそのまま実践に使えるか? というと、ちょっと無理だろう。
この書には、トルテミウスやアグリッパのカバラ魔術、ヘルメス哲学、占星術、カソリックのキリスト教神秘主義の他にも、メスメリズム、サン・マルタンの思想、スェーデンボルグ主義などの影響も見出され、レヴィの博識さに驚かされると同時に、この思想のゴッタ煮状態に、少々呆れてしまうかもしれない。
しかしながら、この本には、現代魔術の萌芽が実に多く見出される。例えば、タロット・カードとヘブライ文字との照応、五芳星の重視、東洋オカルティズムの導入など、後世のGDで使われる技術の初期の姿を見ることが出来るであろう。
レヴィは、この本において「魔術とは何ぞや?」と言う基本的な質問に答えようとした。
魔術とは決して悪魔の力を借りて行うものではない。キリスト教の根底には常に「愛」があるように、魔術の根底には常に「学」がある。
この「学」、オカルト哲学は、あらゆる知識欲の源であり、科学のあらゆる原理、人間の精神のあらゆる進歩を内に含んでいる。この哲学を究めた者は、不可能という言葉をなくし、四大のエレメントを操り、天体の運行や言葉を聞くことが出来るようになる。悪魔はもちろん、天使をも統治し、あらゆる物質を黄金に変えることすらできるという。
この辺りの表現は、確かに「はったり」とも、あるいはものの例え「寓意」とも取れる代物ではあるが、魔術による精神の変容の偉大さを表現したものと考えるべきであろう。
ともあれ、自然的なもの、超自然的なものを含めた力を人間に授ける技術こそ、「魔術」である。これは「絶対」なる「科学」である。
そして、こうした魔術の奥義は、実は我々のすぐ目の前に用意されているのである。
だが、それは秘儀伝授を受けた人間にしか理解できないし、見つけることもできない。
魔術の「儀式」は、自然の力を知り、その力に従うことである。
例えば水が凍って氷になる現象と、人間の魂が高次の位に上がることは本質的に同じ現象である。
自然の法則を理解すれば、いつでも奇跡を引き起こすことが出来る。
魔術儀式を行うことは、化学者が実験室で有用な物質を合成することと同じことである。
そして、それを実行するための「普遍の鍵」は、「聖書」や古代密議の宗教経典の中に含まれている。
例えば、どこの家庭にも置かれている「旧約聖書」なども、実は、こうした「普遍の鍵」を含んだ魔術の奥義書なのである。だが、一般の人間には、それが理解できない。それは秘儀伝授を受けていないからである。
しかし、秘儀を伝授されたものは、「聖書」の中から、多くの魔術の「学」を学び取ることができるようになるであろう。こうした読み解きの中でも、もっとも重要で、代表的なものが「カバラ」である。
このカバラとは、「記号」と「概念」をあやつる術であり、象徴体系、シンボリズムの術である。カバラにおいて、「記号」は言葉と文字と数から成っている。
魔術師は、このカバラを学ばねばならぬ。「普遍の鍵」を見出すためにも。
こうしてレヴィは、聖四文字(これにShを加えたイエスを意味する聖5文字(詳しくはココを参照)) 、生命の樹、ゲマトリア、タロットの解説を行うのである。
レヴィの著書を紐解くと、降霊術、悪魔払い、護符、占い、霊治療といった、一つ間違うと原始的なグリモワールに先祖返りしそうな記述が、しばしば見られる。
しかし、レヴィは、こうした術について触れる時にも、確固たる「象徴体系」を用意し、それによって成り立たせ、支えているのである。
こうした考え方こそ、アグリッパからレヴィ、そしてGDへと続くカバラ魔術の根幹であり、現代魔術の基本的な姿勢へと繋がった考え方なのである。
「高等魔術の教理と祭儀」 エリファス・レヴィ 人文書院
「世界神秘学事典」 荒俣宏編 平河出版
「オカルティズム事典」 アンドレ・ナタフ 三交社
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