クロウリーの評価
アレイスター・クロウリーが世を去ってから、既に半世紀以上が過ぎている。これほどの年月が流れていながら、今もなお、クロウリーを神のように崇拝している人が居るかと思えば、まるで蛇蠍のように嫌う者も居る。彼とは、一面識も無いのにも関わらず、である。
彼をどのように評価すべきかは別としても、この事実は、少なくとも彼が並外れた影響力とインパクトを持った人物であった証拠であろう。
この日本においても、クロウリーは悪いイメージがつきまとう。
この大きな原因は、コリン・ウィルソンの著書によるところが大きい。
日本における最初の本格的なクロウリーの伝記の紹介、それはコリン・ウィルソンの「オカルト」(保育社、後に平河出版より復刻され、さらに河出文庫になった)であろう。この本の中の1章、「獣そのもの」がそれである。コリン・ウィルソンはさらに「現代の魔術師」なる著書も出しているが、その内容は先の「獣そのもの」の繰り返しである。
コリン・ウィルソンのクロウリー評は、実はジョン・サイモンズの著書「The
Great Beast」を、そのまま踏襲したものである。サイモンズのこの本は、多くの貴重な情報を含んだ大著である。クロウリーの研究者なら、読んでおいて決して損のない基本文献の一つであろう。
しかし、同時にこの本は、いわゆる「悪意(?)を含んだ伝記」でもある。この中でサイモンズは、クロウリーの魔術業績を冷笑的に扱い、彼を自己中心的な性格破綻者、自分の弱さから新たな宗教を作り出した男、とほのめかしている。
ゆえにこの本を下敷きにしているコリン・ウィルソンのクロウリー評が、辛くなってしまうのも、当然の結果なのだ。
しかし、当然のように、クロウリーの支持者達の間では、この本の評判は、あまり良くない。
クロウリーを弁護する側の伝記としては、彼のもと弟子であるイスラエル・リガルディの「The Eye in The Triangle」が挙げられる。リガルディは、長らくクロウリーとは袂を別っていたのだが、先のサイモンズの悪意(?)を含んだ伝記に激怒し、この本を書かせることになったのだという。
この本も、やはり研究者にとっては、貴重な資料となる書である、
さらに、クロウリーは半生をつづった自伝も出している。「Confessions」が、それである。
これらの三著は、残念ながら日本語では読めない。
しかし、ありがたいことに、中立の立場に立って書かれたバランスの取れた伝記が、邦訳されている。フランシス・キング著「アレイスター・クロウリーの魔術世界」(国書刊行会)がそれである。
キングは、クロウリーを悪魔崇拝者でも黒魔術師でもない、と客観的事実を述べながら、同時に彼の自己中心的とも取れる性格を物語る数々のエピソードを紹介しつつ、「悪魔主義的(悪魔崇拝と混同しないこと)オカルティストの側面があったことも否定できない」と結論ずけている。
まず、はっきりさせておきたいのだが、クロウリーはいわゆる黒魔術師でも悪魔崇拝者でも、決して無い。
クロウリーの黒魔術の定義とは、「守護天使の知識との交渉を目的とした修行から外れた魔術」である。魔術の最終目的が「神との合一(守護天使との会話)」であることを考えれば、儀式魔術を学ぶ者にとっては、充分に納得の行く主張であろう。
しかし、逆に言うのなら、「守護天使との会話」を最終目的に置き、その手段でさえあれば、悪魔を呼び出そうが、人を呪い殺そうが、それは黒魔術ではない、ということになってしまう。
クロウリーの魔術には、こうした「本人には自覚はないが、ハタから見れば黒魔術にしか見えない行為」を盛んにやってるのも、また事実なのである。
さて、それでは彼の人となりについては、どうか?
これについては、話しは簡単だ。
一流の才能を持っているからと言って、「人間」としても一流とは限らない、ということだ。
ミもフタもない言い方をしてしまえば、「魔術師としては天才、人間としては?なところもあった」と言ったところではないだろうか?
それでも、クロウリーは、間違いなく大きな魅力を持っている。
それは、彼がサブカルチャーに、多大な影響を与え、そして今もなお与え続けている、ということが、何よりの証拠ではないだろうか。小説、音楽、映画などなど・・・。
魔術師としての評価に至っては、絶大である。
「Eqinox」誌を始めとした、膨大な著書を残した彼だが、「777の書」、「魔術 理論と実践」、「トートの書」、「アレフの書」等は、クロウリー以外の別の流派の魔術師にとっても、しばしば必読書とされるほどである。
・・・とは言うものの、やはりクロウリーの書いた魔術書には、かなり危うい部分、冒険的な部分が混入しているという意見もある。
実際、フォーチュン系統の内奥の光派に属するW・E・バトラーなども、クロウリーの著書には計り知れない価値があると認めながらも、「彼の魔術体系は、非常にギクシャクしていて、それを学ぶ者を堕落させやすい」。だから、初心者は読むべきではない、と主張している。
もっとも、これはあくまでクロウリーのそれとは異なる流派の意見であり、彼の系統を継ぐ魔術師達にとっては、話しはまた別であろう。
クロウリーと言う人物は、その巨大さゆえに、短絡的に否定することも肯定することもできない複雑な大魔術師であったとは言えるであろう。
「オカルト」 コリン・ウィルソン 河出文庫
「アレイスター・クロウリーの魔術世界」 フランシス・キング 国書刊行会
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