変形性関節症とは
メルクマニュアルより
(変性関節疾患;骨関節症;肥厚性変形性関節症)
変形した硝子軟骨を有し,関節軟骨の損失と骨の肥厚により特徴づけられ,骨棘を形成する関節症。
最もよくみられる関節障害である変形性関節症(OA)は20〜30歳代に無症候的に始まり,70歳までにはきわめて多く
みられるようになる。40歳までにほとんど全ての人が荷重関節に何らかの病理学的変化を有するが,症状がある例は
比較的に少ない。男性と女性は等しく病気に侵されるが,発症は男性で早い。
変形性関節症は古代の動物,すなわち,魚類,両生類,爬虫類(恐竜),鳥類,マンモス,そしてアナグマにも起こった。
変形性関節症がほとんど全ての脊椎動物に起こるということは,骨格へと進化するのに伴って変形性関節症が現れて
きたことを示している。変形性関節症は,水に支えられているクジラ,イルカ,およびネズミイルカなどにみられるが,
逆さまにぶら下がる動物,すなわち,コウモリやナマケモノにはみられない。
このことは変形性関節症が通常の意味の病気というより,むしろ古代生物の修復および骨改変のメカニズムであることを示唆する。
分類
変形性関節症は,1次性(特発性)または原因が既知の2次性として分類される。
1次性全身性変形性関節症は,遠位と近位の指節間関節(ヘバーデン結節およびブシャール結節を作り出す),
第1手根中手関節,頸椎や腰椎の椎間板,第1中足趾節関節,股関節,膝関節に起こる。1次性変形性関節症の亜分類には
びらん性および炎症性の変形性関節症と,急速に破壊性となる肩の変形性関節症,およびそれほど多くはないが
高齢者の股関節および膝関節の変形性関節症が含まれる。びまん性特発性骨格骨化過剰症は大規模な変形性関節症様の
脊椎の骨棘を含む症候群であるが,関節軟骨の損失は全くないか,またはほとんどない。
若者では,膝蓋骨軟骨の軽度の変形性関節症である膝蓋骨軟化症も起こることがある。
2次性の変形性関節症は,軟骨細胞の微環境を変化させる条件が原因となるようである。
これらには先天性関節異常;遺伝的欠陥;感染性,代謝性,内分泌性,および神経障害性疾患;硝子軟骨の正常な構造と
機能を変化させる疾患(例,慢性関節リウマチ,痛風,軟骨石灰化症);および硝子軟骨または周囲の組織に対する
(骨折を含む)外傷(例,鋳造作業,採炭作業,およびバスの運転のような職業に関連する関節または関節群の長期的な使い過ぎ)
などがある。
病態生理
正常の関節は摩擦係数がきわめて低いので,一般的な過使用や外傷では摩滅しない。硝子軟骨は無血管,無神経,
および無リンパである。95%が水と細胞外軟骨基質であり,5%が軟骨細胞である。軟骨細胞は体の細胞としては
(中枢神経系細胞や筋肉細胞と同様に)細胞周期が最も長い。軟骨の健常性と機能は体重負荷の加圧と開放および
使用に左右される。すなわち,加圧により液体が軟骨から関節の間隙,毛細管,および細静脈に注入され,
一方,開放されると軟骨は再膨張し,過水和し,必要な栄養分を吸収する。
変形性関節症の異常生理学的経過は進行性である。微環境における変化がきっかけとなり,軟骨細胞は細胞分裂をして
(軟骨の主な構造要素である)プロテオグリカンおよびII型コラーゲンの合成が亢進する。軟骨下骨における骨芽細胞による
骨形成は増加し,おそらく軟骨細胞と骨芽細胞の間のサイトカインによる細胞間伝達に刺激される。
軟骨下領域での骨形成の増加によって物理特性が変わり;骨のコンプライアンスが低下するに従って骨は硬くなり,
微小骨折が起こり,続いて仮骨形成が起こり,さらに硬くなり,ますます微小骨折が起こる。
周辺の滑膜細胞の異形成は関節周囲の骨棘形成を招く(または,正確には骨軟骨棘であり,線維軟骨で覆われ,時には骨棘内に
硝子軟骨の島を伴う骨および結合組織混合物から構成される)。
これら骨棘の形成の程度は,関節により様々でその根底にある原因に応じて異なる。最終的に軟骨下骨の下の骨髄に骨嚢胞
(偽嚢胞)を形成する。骨嚢胞は,線維芽細胞性や骨芽細胞性反応を伴って,滑液が硝子軟骨の裂溝を通って骨髄内へ
排出される結果として形成される。
肉眼的病理所見は,硝子軟骨の表面の粗雑化,陥凹形成,および不規則性を示し,病巣の著しい潰瘍が進行し,
その後はびまん性の領域は軟骨を完全に失い,象牙質化した骨表面のみを残す。
症状が現れるまでに滑膜の増殖および軽度の滑膜炎はほとんど常に存在する。
症状と徴候
通常は1つまたは少数の関節に徐々に発症する。痛みは最も初期の症状で,通常は運動により増悪し,休息により軽減する。
朝のこわばりは不活動性の結果として起こるが,続くのは15〜30分未満で運動で改善する。
変形性関節症が進行するにつれて,関節の動きは減少し,圧痛や軋音,または不快感が現れ,屈曲拘縮が起こることもある。
軟骨,骨,靭帯,腱,関節包,および滑膜の増殖反応は関節滲出液の量の変化とともに進行し,最終的に変形性関節症の
関節腫脹の特徴を示す。
急性および重篤な滑膜炎は予想されないが,変形性関節症の開始機構である他の疾患(例,痛風,偽痛風)を合併する患者では
それらが起こることもある。
頸椎および腰椎の変形性関節症はミエロパシー(脊髄症)または神経根症を引き起こすことがある。しかし,ミエロパシーの臨床症状は
通常は軽度である。椎間板レベルでの前縦靭帯の顕著な肥厚や増殖は,前部脊髄を侵害する横稜を形成する。
黄色靭帯の肥大や過形成は,後神経束をしばしば圧迫する。前方および後方の神経根,神経節,および脊髄神経は椎間孔内の
25%を占めるに過ぎず,衝撃が和らげられるスペースに十分に保護されるので,神経根障害はそれほど頻繁には起こらない。
椎骨動脈の機能損傷,脊髄の梗塞,および骨棘による食道圧迫が起こることがある。
症状や徴候はまた,靭帯構造,関節包,筋肉,腱,椎間板,および骨膜の,全て痛みに敏感な部位に現れる。
軟骨下骨髄内における静脈圧の増加もまた痛みの原因となる。
股関節の変形性関節症は,徐々に増強する硬直と可動域の損失によって特徴づけられる。痛みは鼠径部か,または膝に感じる。
膝関節の変形性関節症では軟骨が失われるので(症例の70%で内側の軟骨が損失),靭帯は緩むようになり,
関節の安定性は低下し靭帯および腱に局所的な痛みが生じる。触診での圧痛および受動運動での痛みは比較的後期の徴候である。
筋けいれんと拘縮は痛みを増加させる。骨棘や遊離体(骨化断片が関節腔に浮遊する)による機械的なブロックが起こり,
ロッキングやキャッチングの原因となる。
変形と亜脱臼は軟骨体積の減少,軟骨下骨の崩壊,骨棘,筋萎縮,および偽嚢胞の結果である。
診断
診断は通常,直接的に行うが,他のよくあるリウマチ疾患を考慮するべきである(例,慢性関節リウマチ,血清陰性の脊椎関節症,
偽痛風)。通常の関節以外に起こる変形性関節症は2次性であることが示唆されるので,その病因をさらに考慮する必要がある。
(例,骨や関節を侵す,内分泌性,代謝性,腫瘍性,および生体力学的障害)
診断は通常,症状および徴候,または無症候性の患者ではX線所見に基づいて行う。
赤沈値は正常かまたは中等度に上昇している。血液検査は関節炎の確認できる原因(例,痛風,慢性関節リウマチ)を除外するのに
役立つことがある。滑液の分析により,しばしば変形性関節症の特徴である透明で強粘性の滑液が示される。
一般的にはX線により,関節隙の狭小化(膝関節の早期の変形性関節症では圧倒的に片側のみ)軟骨下骨の骨密度が増加し,
関節辺縁部に骨棘の形成,軟骨下骨髄に偽嚢胞の形成が明らかとなる。
予後と治療
変形性関節症の病態生理学的変化は通常は進行性であるが,時に予測なしに進行が停止したり,逆行したりする。
治療には機能障害を防止することに焦点を合わせたリハビリテーションを含み,障害が生じる前に管理を始め,
障害の程度や期間を減ずる。基本的な治療をする際に考慮するべきことは,組織変化の段階と大きさ,症状のある関節の数,
痛みの周期,痛みの原因(生体力学的異常または炎症),および患者の生活様式である。
治療にはまた,(生理学的および生体力学的)問題の性質,予後(通常は良性),協力の必要性,および最適な運動などに関する
患者への教育も含まれる。日常生活動作についても注意を向けるべきである。
股関節または膝関節の変形性関節症の患者には,立ち上がることが困難である軟らかく深い椅子やリクライニングチェアは
避けるように指示するべきである。膝の下に枕を常用することは拘縮を助長するので避けるべきである。
患者は背もたれの垂直な硬い椅子に前かがみにならないように座り,ベッドボードのある硬いベッドで寝るようにし,
快適に座れるようにデザインされたカーシートを使用し,姿勢訓練を行い,支えのしっかりした靴か,または運動靴を使用し
仕事や身体活動を継続するべきである。
運動(関節可動域訓練,等尺性筋運動,等張性筋運動,等速訓練,姿勢訓練,強化運動)は,健常な軟骨や関節可動域を維持し
ストレス吸収性の腱や筋肉を発達させる。毎日の筋伸展運動は最も重要である。
比較的短期間の固定化も,変形性関節症の臨床経過を加速および増悪することがある。
十分に計画された運動訓練を治療に取り入れると,股関節や膝関節の変形性関節症の進行を阻止したり,時には逆行させたり
することがある。安静時間(軟骨を再水和するために日中4〜6時間毎に)を運動とバランスよく取り入れなければならない。
広く使用されているNSAIDが長期的に変形性関節症に有効であるかは証明されていない。
アセトアミノフェンの1日4回1gまでの投与は鎮痛薬として有効であり,一般的にはNSAIDよりも安全である。
治療抵抗性の痛みまたは炎症の徴候の重篤な患者には,アスピリンかまたはその他のNSAIDを使用すると症状が改善される
こともある。
COX-2阻害薬は,胃腸に対する副作用が少なく,炎症をコントロールし,痛みを軽減する。筋弛緩薬(通常は低用量)はときに
変形性関節症の関節を支えるために負担のかかった筋肉に生じる痛みに一時的な効果を与えることがある。
経口コルチコステロイド療法は通常は指示されない。
コルチコステロイドの関節内注入療法は滲出液または炎症徴候がみられるときに有効であり;これらの薬物は通常,
間欠的にのみ必要であり,一般的にはできるだけ数少なく使用するべきである。薬物療法は最適な管理の面からいえば重要ではなく,
おそらく全プログラムの15%を占めるにすぎない。
ヒアルロン酸は滑液の正常な生理的成分であり,膝関節の変形性関節症の管理には有効であることが証明されている。
市販製剤のHyalganおよびARTZの注射は,臨床的,X線診断学的,および検査値的な判断基準により変形性関節症を
かなり改善させる結果を得ている。
椎弓切除術,骨切り術,人工関節全置換術は,保存療法が有効ではなかった場合に実施を考慮するべきである。
脊椎,膝関節,または第1手根中手骨関節症には,様々な支持装具が苦痛を緩和するが,特定の目的を有する運動プログラムを
行うべきである。その他の補助的手段は経皮的電気刺激および局所摩擦(例,カプサイシンと併用)である。
軟骨を保護する可能性のある実験的治療または軟骨細胞の移植が検討されている。
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エッセンシャル整形外科学2版P,215
最新内科学大全・関節疾患P,265
概念
関節の磨耗・変性・増殖が混在する非炎症性の進行性疾患である。
病因
本態性変形性関節症
関節軟骨の疾患であり、加齢・代謝障害・循環障害・肥満・性ホルモンなどの影響を背景とし、これに機械的影響が加わって出現する。
続発性変形性関節症
基礎疾患としては、外傷・関節リウマチ・アルカプトン尿症・ヘモクロマトーシス・痛風・Charcot関節などがある.
病態生理
何らかの原因により、関節軟骨が変性をきたし、荷重による機械的な負荷や軟骨細胞から産生・分泌される軟骨破壊
酵素によって
関節軟骨が磨耗する。 軟骨の破壊が進行すると軟骨下の骨板が露出してくる。その骨板は荷重の負荷により肥厚硬化あるいは
骨壊死が出現 し、さらに骨嚢胞が形成される。
一方では荷重の加わらない部分では骨軟骨の増殖が出現し、骨棘が形成される。
症状
主な症状は疼痛・可動域制限・変形・腫脹・関節周囲の筋萎縮などである。
侵される関節は脊椎・股関節・膝関節・手関節が多い。
運動時の関節痛
膝関節の内反変形
手指の結節性腫大
手指の遠位指節関節および近位指節関節に結節性腫大が出現する。
Heberden結節
変形性関節症における対称性のDIP関節腫大をいい、日常臨床にて頻繁に遭遇する。
Bouchard結節
変形性関節症におけるPIP関節の腫大をいうが、稀である。
Thomas test
股関節の屈曲拘縮を調べる検査法である。
検査所見
炎症性マーカーの上昇はほとんど見られない。
X線所見
骨棘形成、関節裂隙の狭小化、骨硬化像、軟骨下骨嚢胞
病理所見
本症の病理学的特徴は、関節軟骨の破壊・消失・軟骨直下に存在する骨組織の変性・空胞形成・辺縁部での骨棘形成
である。
本症では滑膜にも病変がみられ、滑膜の絨毛化が出現する。