変形性膝関節症の治療


メルクマニュアル第17版より(一部分重複あり)

予後と治療
変形性関節症の病態生理学的変化は通常は進行性であるが,時に予測なしに進行が停止したり,逆行したりする。
治療には機能障害を防止することに焦点を合わせたリハビリテーションを含み,障害が生じる前に管理を始め,
障害の程度や期間を減ずる(291章参照)。基本的な治療をする際に考慮するべきことは,組織変化の段階と大きさ,
症状のある関節の数,痛みの周期,痛みの原因(生体力学的異常または炎症),および患者の生活様式である。

治療にはまた,(生理学的および生体力学的)問題の性質,予後(通常は良性),協力の必要性,および最適な運動などに
関する患者への教育も含まれる。日常生活動作についても注意を向けるべきである。
股関節または膝関節の変形性関節症の患者には,立ち上がることが困難である軟らかく深い椅子やリクライニングチェアは
避けるように指示するべきである。膝の下に枕を常用することは拘縮を助長するので避けるべきである。
患者は背もたれの垂直な硬い椅子に前かがみにならないように座り,ベッドボードのある硬いベッドで寝るようにし,
快適に座れるようにデザインされたカーシートを使用し,姿勢訓練を行い,支えのしっかりした靴か,または運動靴を使用し
仕事や身体活動を継続するべきである。

運動(関節可動域訓練,等尺性筋運動,等張性筋運動,等速訓練,姿勢訓練,強化運動)は,健常な軟骨や関節可動域を維持し,
ストレス吸収性の腱や筋肉を発達させる。毎日の筋伸展運動は最も重要である。
比較的短期間の固定化も,変形性関節症の臨床経過を加速および増悪することがある。十分に計画された運動訓練を治療に
取り入れると,股関節や膝関節の変形性関節症の進行を阻止したり,時には逆行させたりすることがある。
安静時間(軟骨を再水和するために日中4〜6時間毎に)を運動とバランスよく取り入れなければならない。

広く使用されているNSAIDが長期的に変形性関節症に有効であるかは証明されていない。
アセトアミノフェンの1日4回1gまでの投与は鎮痛薬として有効であり,一般的にはNSAIDよりも安全である。
治療抵抗性の痛みまたは炎症の徴候の重篤な患者には,アスピリンかまたはその他のNSAIDを使用すると
症状が改善されることもある。COX-2阻害薬は,胃腸に対する副作用が少なく,炎症をコントロールし,痛みを軽減する。
筋弛緩薬(通常は低用量)はときに,変形性関節症の関節を支えるために負担のかかった筋肉に生じる痛みに
一時的な効果を与えることがある。
経口コルチコステロイド療法は通常は指示されない。
コルチコステロイドの関節内注入療法は滲出液または炎症徴候がみられるときに有効であり;これらの薬物は通常,
間欠的にのみ必要であり,一般的にはできるだけ数少なく使用するべきである。
薬物療法は最適な管理の面からいえば重要ではなく,おそらく全プログラムの15%を占めるにすぎない。
ヒアルロン酸は滑液の正常な生理的成分であり,膝関節の変形性関節症の管理には有効であることが証明されている。
市販製剤のHyalganおよびARTZの注射は,臨床的,X線診断学的,および検査値的な判断基準により変形性関節症を
かなり改善させる結果を得ている。

椎弓切除術,骨切り術,人工関節全置換術は,保存療法が有効ではなかった場合に実施を考慮するべきである。
脊椎,膝関節,または第1手根中手骨関節症には,様々な支持装具が苦痛を緩和するが,
特定の目的を有する運動プログラムを行うべきである。
その他の補助的手段は経皮的電気刺激および局所摩擦(例,カプサイシンと併用)である。軟骨を保護する可能性のある
実験的治療または軟骨細胞の移植が検討されている。

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標準整形外科学7版 P,552
エッセンシャル整形外科学2版 P,414

症状→膝痛、運動時痛が主体となる。膝関節の内反変形。
X線所見→変形性関節症の所見である。関節裂隙の狭小化・骨棘形成・骨嚢胞形成・骨硬化像などが見られる。

治療
保存的治療
安静、消炎鎮痛剤・外用剤、温熱療法、低周波治療、ヒアルロン酸の関節内注射、
足底板・各種サポータや膝装具の使用、大腿四頭筋訓練

外科手術
関節鏡:滑膜切除・半月板切除・遊離体摘出・ 骨棘切除など
その他:矯正骨切り術、人工関節置換術

「脛骨高位骨切り術 high tibial osteotomy,HTO」

比較的若い患者で変性が関節全体に波及していない症例が適応となる。
術直後 ギプスシーネ固定。下肢高挙
 術後1日:坐位可 、SLR開始
 2日 ドレーン抜去。ギプス固定
 3日 車椅子移動可
 1週 免荷松葉杖歩行
 2週 ギプスカット、抜糸。以後モナカとする
 4週 ギプス除去。支柱付サポーター
 6週 荷重 1/6 X−Pみてから
 8週 1/3
    ただし、レントゲンで骨癒合悪ければ、ギプス4週
10週 1/2
12週 1/1
14ー16週 退院


「人工関節置換術」→高齢者で病変が進行した症例が適応となる。
☆片側人工膝関節置換術
 高齢の膝内側の骨の破壊が強い方に用います

術直後:膝伸展位装具装着
 1日:patella setting ankle exercise
    坐位、車椅子開始
 3日:CPM開始
 2週:全抜糸
    膝支柱付サポーター装着
    自動介助運動開始
 4週:部分荷重開始
 6週:全荷重開始
 8週:痛みなければ退院

☆人工膝関節全置換術→現在高齢者では、主力の治療になっている。
術直後:膝伸展位装具装着
 1日:四頭筋の等尺性運動(patella setting ankle exercise)、坐位、車椅子開始
 3日:CPM開始
 2週:全抜糸   
 3週:自動介助運動開始
 5週:免荷歩行開始
 8週:部分荷重開始
10週:一本杖開始
12週:全荷重開始
16週:1本杖で歩行できれば退院

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夏山 元伸 (関東労災病院整形外科副部長)
シニアの膝痛で最も多いのが変形性膝関節症です。男性より女性に多く、また膝にかかる負担が大きい肥満者にも多い病気です。
脛骨が内側にねじれている欠陥を持っているO脚の人や、若い時に激しい運動をし続けたため普通の人より軟骨をすり減らせて
しまった人によく起こります。多くの場合、いつ始まったか本人が気づかないうちに症状は徐々に進行していきます。
膝関節の軟骨がすり減っていくため関節に痛みが生じるようになるってくるのです。
軟骨は年をとると含まれる水分が減り、古くなった消しゴムのように硬くなり弾力を失っていきます。すると軟骨は膝にかかる負担を
吸収するクッションの役割を十分に果せなくなり、負担がかかるたびに徐々にすり減ってしまうのです。年齢とともに大腿部の筋肉が
衰えてくることも、膝にかかる負担を増やす原因です。病状が進行すると軟骨だけでなく、半月板にも変性が生じ、
膝の骨も変形してきてしまいます。
初期症状は、歩き出そうとしたり、椅子から立ち上がろうとした時などの動作の始まりに痛みを感じることです。
膝がこわばるような感じや、膝の後ろがつる感じも起こります。症状が進行すると階段の昇り降り、特に降りる際に痛みを強く感じる
ようになり、長い距離は休み休みでないと歩けなくなります。走れない、正座ができない、関節に水が溜まるという症状があらわれ、
更に重症になると足を引きずったり、杖なしでは歩けなくなります。

まず減量し、膝への負担を減らすことが第一ですが、次のような治療法があります。
(1)足底挿板の使用
変形性膝関節症をわずらう日本人のほとんどはO脚です。そのため膝の内側に集中している負担を外側に移すために、
足底挿板(特殊な靴の中敷き)を患者さんに使用してもらいます。戸外だけでなく、室内履きとしても利用します。

(2)サポーターの使用
サポーターは保温のために使いますが、筋肉が特に弱い場合は金属の支柱入りのサポーターをつける場合もあります。
きついサポーターをつけているとかえって筋肉に悪影響を及ぼしますので、きついサポーターはさけて下さい。

(3)薬による治療
痛みや炎症をやわらげるために、外用薬・内服薬・注射があります。最近は外用薬にも内服薬と同じ内容成分を皮膚から吸収作用
させることのできる貼り薬ができています。内服薬は、外用薬では効き目が不十分な時に処方します。
一般的にボルタレンなどの非ステロイド系の消炎鎮痛剤を用います。また胃腸にあまり害のない坐薬も使います。
ステロイドホルモン系の注射は、痛みをとる効果は強くても骨や軟骨に悪い影響を与えるので使いません。
関節の潤滑をよくしたり痛みをやわらげるために、化粧品などにも使われるヒアルロン酸を注射することもあります。

(4)関節鏡手術
今まで述べた保存的治療だけでは十分でない場合は骨を切り、骨の向きを変える骨切り術や人工関節に置き換える手術を
おこなうこともあります。それほどひどくない場合は、関節鏡下手術といって、関節鏡で中の状態を見ながら専用の手術器具を使い、
はげ落ちた軟骨片を洗い出したり、変性しひびなどが入っている半月板やはげ落ちかけている軟骨、飛び出している骨棘などを
削り取ります。皮膚表面に長さ数ミリの小さな傷が2〜3カ所つくだけですみます。治療と同時に痛みをある程度抑えながら、
あまり負荷の強くない運動をすることも大切です。骨や筋肉はシニアでも鍛えれば強くなるのです。

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小松島赤十字病院 整形外科 高橋 昌美

現在、変形性膝関節症にかかっている患者数は、全人口の12〜20%とも言われ、今後、高齢化社会を迎えるにあたって
関節症の患者数は飛躍的に増加すると予測されています。変形性関節症の内で変形性膝関節症が最も多く、
変形性膝関節症はそれのみで死に至る重篤な病気ではありませんが、生活動作や社会的活動が制限されQOL(Quality of Life)の
著しい低下を来たす疾患です。今回、変形性膝関節症の病態、疫学原因、症状、臨床所見、治療法について簡単に説明します。

変形性膝関節症とは、関節軟骨の老化を基盤に関節にかかる負担に耐えられない軟骨の変性・破壊を生じる疾患です。
変形性膝関節症で病院を訪れる患者さんをみますと、中高年(50歳以上)の肥満傾向の女性が多く、これらの患者さんには
明らかな原因がなく1次性の変形性膝関節症に分類されます。一方、若い頃の膝関節の靱帯損傷や関節の脱臼や骨折などの
外傷後や慢性関節リウマチ、痛風などによる基礎疾患があって生じた変形性膝関節症は2次性に分類されます。
変形性膝関節症の90%以上は1次性の関節症といわれています。

原因については、年齢、力学的因子(体重)、体質、関節内生化学因子の各方面から研究されていますが、今のところまだ
はっきりとは解明されていません。

症状については、疼痛を主訴として来院されることが多く、最初の頃は立ち上がり、歩行、階段昇降の際の開始時痛(starting pain)
を訴えることがほとんどですが、病気が進行してきますと、安静時にも痛かったり持続性の痛みになったりし、痛みの程度も耐え難い
ほどになってきます。他に、膝が直すぐに伸びない、正座ができないなどの可動域制限を訴えられる症例もいます。

変形性膝関節症の患者さんを診察しますと、まず目につくのがほとんどの方がO脚(膝の内反変形)になっていることです。
この変形は、内側の関節軟骨が摩耗するために発生し、一旦この変形が起こりますと、体重負担はより内側に偏って受けることにになり、
さらに内側の軟骨の破壊が進むという悪循環を形成します。
その他に、膝に水がたまる(関節水腫)という所見もみられます。関節水腫は関節包にある滑膜に炎症が生じ、関節液の産生と吸引の
バランスが崩れている状態です。よく水を抜くと「くせ」になるのではないか?と聞かれますが、かえって水腫をそのままにしておくと
筋肉萎縮の原因にもなり、水腫の吸引自体まったく害はありません。

X線上、軟骨下の骨はストレスによって硬く変化したり、辺縁には骨棘とよばれる変形が形成され、さらに、骨嚢腫という空洞の所見が
みられます。内側の関節裂隙は徐々に狭小化が進行し、ついには消失してしまいます。

治療法は関節への負担を軽減させるために、体重の減少や生活様式の改善、温熱療法や大腿四頭筋を中心とする筋力強化などの
リハビリテーションが保存的治療の中心となります。関節痛の軽減のための薬物療法や軟骨の保護を目的とする関節内注射
(ヒアルロン酸製剤)を行ったり、荷重をより外側に移動させる足底板(外側楔状)や膝の側方への動揺性を抑制するサポーター等の
装具を処方します。
以上の保存的治療を6ヵ月間行ってもあまり痛みが改善せず、日常生活する上で重大な支障となり、かつX線、理学的所見上も重症と
判断された場合は以下の手術療法の適応となります。

手術療法には大きく2つの方法があります。中期から末期前半の段階で年齢も65歳以下である症例には、
内反変形を生じ内側の関節面のみに負担がかかっている状態を脛骨の骨切り術を行うことで荷重を健状な外側の関節面へ
移動させることを目的とした手術を行っており、高位脛骨骨切り術と呼んでいます。

もう1つは高齢者(70歳以上)で、末期後半の段階すなわちすべての関節面が破壊されている症例には、損傷された関節面を切除し、
人工の関節面を作るという人工膝関節置換術を行っています。
人工関節には耐用年数に制限があり、現在約15年程度と考えられています。骨と人工関節の間のゆるみや人工物の摩耗などにより
再手術を必要とすることも考えておかねばなりません。手術方法にはそれぞれ特徴があり、患者さんに合った手術方法を適切に選択して
いくことが重要になります。

歩行能力は日常生活上、QOLを維持するうえで重要かつ基本的な機能といわれ、中でも膝関節は最も重要な役割を果たしています。
一生涯膝関節の痛みなく、じょうずに使うためには普段からの予防が一番大切ですが、たとえ変形性膝関節症にかかったとしても、
正しい診断を受け適切な医療が施され、自己管理がなされれば十分に対応できる疾患と思われます。







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