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- 02月01日 -
毎日毎日の単調な生活の中にもいくつかの面白い要素が見え隠れしておりまして。『毎日がつまらない』とか、『張り合いがない』などと言う人の多くは、その面白い要素を見逃して過ごしているか、または見ないように過ごしているだけなのだと思います。
先日僕に起きた珍事件についてお話しいたしましょう。
僕の会社は2月より新年度ということで、人事異動なんかもこの時期に行われまして。当然内示と呼ばれる肩叩きは、1月中に行われるわけです。すると、人によっては部署を跨いだり、転勤が発生する人も出てきます。僕の部署の方々も多分に漏れず、異動者が出てきまして。そうなると、送別会を開催しなくてはならないわけです。
宴も酣、各人がそれぞれの卓にてケラケラと笑い合っております。ふと、僕の横を見ますと、なにやら同僚が後輩の女の子に向かって掌を差し出しております。
『おい、この掌に拳を打ち付けてみたまえ』
既に酩酊しているのであろうか。彼はそのようなことをにやにやとした顔で言っております。
「いやいや、そのようなことは止め給え。今日は送別会であるのであって、決して僕等のみの飲み会のそれではないのだよ。それにほら、君と彼女の間にはテーブルがあり、僕等のビールなどが並んでいるではないか。もしもこれを倒してしまったら、それはもう、目も当てられない惨状になってしまうよ」
と諭すも、彼は決して止めようとしません。それどころか、女の子の隣に鎮座しておられる、送別会の主賓でもある先輩を指してこう言います。
『じゃあ、先輩の掌に向かって打てばいい。それならばテーブルの心配はいらないではないか』
「いや、しかし、先輩に向かってそれはないだろう」
ふと見ると、先輩は掌を後輩の女の子に向けている。
「え、やって良いのでしょうか?」
先輩は無言のまま目を閉じており、完全に酔っている様子であります。
『ほら見たことか。先輩の寛大なる心により、これからの行為は肯定された。さあ、先輩の掌に思い切り打ち込むのだ』
暫く僕と同僚との遣り取りを見ていた後輩の女の子は、一瞬逡巡した後、しっかりと拳を握り狙いを定めます。
僕の座る卓の誰もが固唾を呑む中、女の子は渾身の力を込め、先輩の掌に拳を打ち込みました。
「パチーン」「ゴスっ」
何と言うことでしょう。先輩は酔っ払い、目を閉じているにも関わらず、掌に彼女の拳が当たったその刹那、先輩の右手が彼女の左頬を捉えたのです。予想だにしなかった、2度の音が響きました。
後輩は目を見開き、この状況を理解できていない様子。いや、後輩に限ったことではなく、その場にいた誰もが理解できなかったでしょう。言い出した同僚でさえ、そうであったと思います。そんな中、先輩は一言こう呟きました。
『痛かったんだよ』
テレビでしか見たことの無い、しかも、あろうことか男性から女性へのカウンターを、初めてこの目で見ることができた、そんな週末。さようなら。
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