- 200512-

- 12月08日 -
「吐く息の白くなる時期になりまして、「師走」という言葉を、少々他人事のように感じていた私も、肌で感じてまいりました。暮れに向けて、何かとやらねばならないことが山積みであるにも関わらず、日々の雑務に追われ、なかなか手を付けることのできないまま、早一週間が経ってしまいました。自分の能力の限界だとか、そういったことを申し上げるつもりは微塵もございませんが、これらの仕事を処理するには、相応の時間が必要かと思います。」

『期日は明日だったな』

「任せてください!」

死にたい。さようなら。


- 12月15日 -
気が付くと、また一年、経ってしまいました。今となっては、当時の、息をすることさえも困難であった状況を、回顧するしかできません。あれから早いもので2年が経過してしまいました。僕は歳を重ねた以外、何一つ変わることのできないまま、今に至ります。あなたは今どうしているでしょうか。

この、頬に冷たい風が当たる季節になると、あなたを思い出して仕方がありません。しかし、どれ程思ったとしても、あなたは決して還ってきません。残された者達は、皆、故人の冥福を祈るより他にないのです。

今、この国は危機的状況にあるような気がします。弱者ばかりが虐げられるような事件が、後を絶ちません。このような状況を目の当たりにしなかっただけ、早き死を迎えてしまったあなたは、言い方は正しくはないやも知れませんが、良かったのかも知れません。

僕は、もう少し、ここで様子を見ていようと思います。今となっては、あなたはこの世界のことを僕以上に知っていることでしょう。過去、現在、ひょっとすると、未来までわかってるやも知れません。けれども、僕は、僕の目でこの世界を見てみようと思うのです。僕の体で感じてみようと思うのです。そして、いつの日にか、ゆっくり語り合いましょう。それまで、どうかお元気で。

涙脆いのは、どうにも格好がつかないので、この辺で。さようなら。


- 12月20日 -
忙しくて反吐が出そうになるも、それをギリギリの所で飲み下し、日々生きております。東京の空は澄み渡り、今にも吸い込まれそうになります。外気の冷たさも、夜半の静けさも、全てが心地よく感じます。繁華街を一歩出ると、そこには静寂しかなく、一人歩いていることに侘しさすら覚えます。紫煙を吸い込む動作さえも、その静寂を壊してしまいそうで、怯えてしまう自分に、些か笑いが込み上げてしまいます。残り僅かで今年も終わります。今年なるものが、果たして、自分にとって何を残せた一年であろうかと煩悶するも、未だ答の出ぬままで今に至ります。辺りは依然として静寂に包まれているばかりであります。さようなら。


- 12月24日 -
「はは、ホワイトクリスマスイブ・・・か」

街は毎年恒例となる催しで活気に溢れている。赤や白を基調とした装飾に彩られ、いつもとは異なる表情を見せている。道行く人々の顔も、皆一様にどこか嬉しそうで、同時に、なんだか気恥ずかしそうだ。

そんな中、僕は車を走らせていた。目的地は某県の港。後部座席に積んだアタッシュケースを届けるよう指示されたのだ。当初は気の進まない話だったのだが、荷物を運ぶだけの仕事にしては相当な額を支払うよう言われ、実際既に懐に入っているのだが、仕方なく了承したわけだ。

「大体、中身はなんなんだよ!」

一人車内で大声を出す。アタッシュケースには、通常の鍵の他にナンバー式の鍵も付いており、約束の時間までに開けることは叶わないようだった。恐らくは、公言できないような代物なのだろう。実際、軽自動車を運転しているこの僕が、そのような代物を運んでいることなど、誰が想像しようか。

徐々に日も暮れてきており、対向車線を走る車の、気の早いライトが眩しい。ラジオではクリスマス特集と名の付く番組ばかりが流れ、聞く気も起きない。東京を出て早くも2時間近くが経過していた。『念のため』と、高速ではなく一般道を行くよう指示されたため、目的地に着くまでに必要以上に時間がかかっている。

慎重に車を走らせること4時間、一切の休憩も取らなかったため、腰が悲鳴をあげている。「少し休憩でも」と思い、目に付いたコンビニに入ろうとウィンカーを左に出したその時のことだった。

キキー!

耳慣れない音が聞こえ、僕の体はドアに叩きつけられた。僕は何が起こったのか判断できず、右腕を走る激痛に耐えた。

「そうだ、荷物は・・・」

ふと外を見ると、ドアガラスを突き破ってアタッシュケースが飛び出している。慌てて外に飛び出すも、ケースの中身はあたかも雪のように、宙を舞っておりました。

「はは、ホワイトクリスマスイブ・・・か」

僕は事故処理に訪れた警察官に、両脇をしっかりと固められ、薬物不法所持の容疑で逮捕されたのでありました。さようなら。

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