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- 11月10日 -
気付くと僕は、綱渡り師の如く、細い電線の上を歩いておりました。どうしてこんなことになったのだろうと思い返してみても、要領を得ません。曲芸師になりたいという、潜在的な願望なのか、それとも、これは夢なのであろうかと思いながらも、中途半端に降りることも出来ず、慎重にですが、着実に歩を進めているわけであります。
かれこれどの位の時間が経ったのでしょうか。肉眼でもわかる程に、遥か先まで進んできました。そう言えば、何時の間にやら地上では人だかりもできています。おや、あれはヘリコプター。中継でもやっているのでしょうか。
暫くの間は注目されることが嬉しくて仕方なかった僕ですが、時間が経つにつれ、彼らは僕のことを笑っているのだろうと思い始めました。自分達は安全な地上にいて、僕の成功を願う振りをして、結局のところ、僕の失敗を期待しているのだろうと。最初は猜疑心だった思いも、次第に確信へと変わり、僕は歩みを止めました。
時間だけが過ぎ去っていきます。次第に地上の野次馬達も静かになってきた様子です。僕は心を決め、地上に飛び降りました。それは、あたかも、水泳競技の飛び込みの如く、アクロバティックに飛び降りたんです。
僕は途中であることを思い出しました。僕が電線の上にいたのは、こういった世の中が憎くて仕方が無く、自決の構えを見せていたのだということを。まあ、何はともあれ、結果は同じですしね。はは。さようなら。
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