(2002年に書いたコラムですが、
内容は現在にも通じていますのでアップさせていただきました)

第217回  京大のレベル こんなところにも外圧?

<京大の教え方レベル低い>
ある日の読売の記事の中にこのようなタイトルを見つけました。

記事の内容は京都大学が5年前に(当時)米カルフォルニア大学と
学生交流協定を結んだが「教え方のレベルが低い」と
今年の更新の協定を保留されているとのこと(コラムは2002当時のもの)

協定の内容とは、両大学から毎年各6人を相互に1年間留学させるものであるが、
カルフォルニア大生からは「内容に深みがない」「一貫性がない」など批判が続出し、
半年で帰国する学生もいて、カルフォルニア大から協定の「更新をしない」旨を
伝えてきた。

京大側はプログラムの見直しなどの改善を約束した結果、
カルフォルニア大は京大生を受け入れたが、
自校生の京大への派遣は京大側の改善を見届けるまでは控える措置を取った、とのこと。

京大と言えば<西の東大>とも称されノーベル賞の受賞者を
最も多く輩出していることでも有名である。
(それを反映しての留学生はあてがはずれてがっかり?)

湯川秀樹、朝永振一郎、利根川進、野依教授、旧制三高を卒業した江崎玲於奈氏を含めると、
過去の日本人受賞者の10人のうちの実に半数以上を占める名門大学です。

その名門が、せっかくの良縁(協定)に恵まれたものの
しきたり(教え方)に「内容に深みがない」「一貫性がない」などと
頭脳明晰なお嫁さん(留学生)に見下され、半年で離縁状を突きつけられて
実家へ(母国へ)逃げ帰られては、面子の丸つぶれである。

前年の読売の記事には、山梨大学の工学部の伊藤洋学部長が、
取得単位不足の学生101人に自主退学を促すことに決めたとあった。
取得単位が一定基準に満たない学生に早期退学を勧告する制度で、
国立大学では初めての英断とか。
「退学して社会に出た方が本人のためになる」とする文書を保護者にも送るようですが、
日本の大学生はこれまでそんなに優秀だったのか?
国立大学で初めての英断の内容に驚きました。

受験勉強に苦労した分、大学に入ってからは思い切り遊ぶ日本式と、
入るのは簡単でも卒業するのが大変な外国の名門大学のシステムを比較すると、
どちらが好ましいかは疑問の余地がありません。
学生が必死になって勉強しなければ卒業できないこの方式に
なぜ日本は転換できないのだろうといつも疑問を感じていました。

少子化の影響で、大学と言えども経営を問われる昨今、
<新入生全員にパソコンを提供>をうたう大学もあり、
あれこれ趣向を凝らして学生の争奪戦に拍車がかかっているようなので、
ますます学生に甘くなるのではと危惧しています。

前述の伊藤教授はその英断が注目されたのか
後に新聞のインタビュー欄に登場して胸中を語っていますが、
学生を叱咤する反面「教官も変わらねばならない」と
古びたノートで毎年同じ講義をする教官にもその矛先を向けていますが、
学生をその気にさせるには、むしろこちらの方が優先課題になりそうです。

読売の古沢記者がテロ直後のニューヨーク取材をした折りの
邦銀駐在員のコメントの内容も興味深い。

「今後も可能な限り子供の教育のために米国に残りたい。
こちらの学校はそれぞれ子供の長所を伸ばす教育をする。
大学院ではクラスに必ず<こいつはすごい>という発想をする学生がいた。
日本ではああいう人材は育たない」

以前は、受験の子供だけ帰国させて日本で教育を受けさせるケースが多かったそうだが
昨今では事情が違ってきているようです。

カルフォルニア大が<京大側の改善を見届けるまで>はと
学生の派遣を控える措置を取ったことにより京大側は改善を約束しました。

これは京大が外圧によってようやく大学改善の腰を上げたことにほかなりません。

経済問題や政治の分野に対する外圧はそれぞれの思惑がからんで生臭くもあり
一概に歓迎の両手をあげることはできませんが
純粋により良い環境で学問を修めたいがための外圧なら文句なく歓迎したい。

それにしてもこの手の外圧、なんとも恥ずかしい限りです…

さて、京大のその後の状況は2010年の第149回で
「今さらながらの大学教育事情」で述べています。

このコラムを書いたのが2002年当時ですが、アップの都合で前後しています。
合わせてお読みいただければその後の状況も惨憺たるものとご理解いただけると思います。
つまり、2002年の古いコラムの内容でも、
未だにアップ出来る土壌があるというわけですね。

過去に「順序が違うよ東大さん」で東大に噛みつきましたので
東西のバランスを考慮して、今回は京大に噛みつきました。
日本では優秀な大学と「井戸の中の蛙スタンダード」で評価されている両大学ですが
世界のスタンダードで評価されますよう祈りをこめて書かせていただきました。


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