第163回 野菜ケーキの、うっそー! あれっ?

自分でケーキのスポンジを作ると、小麦粉に混ぜるバターと砂糖の量に驚く。

わたしは太らない体質だからダイエットの心配はないけれど、
健康上に悪いと思うから、ケーキもクッキーもバターや砂糖の分量を
レシピにある分量よりもかなり少なくする。

お散歩中にショーウインドウのケーキを見てどうにも食べたくなり、
そのまま併設のカフェでいただくこともある。
カフェの隣の席で女性たちがおしゃべりで盛り上がっていた。

「ねぇ、ねぇ、野菜を使った〇〇パティシエ(フランス語で菓子製造人)の
 ケーキ食べたことある?」

「まだぁ。でも食べてみたい。あれなら安心していくつでも食べられそう」

「野菜を使っているんだもの平気だよね。健康にもダイエットにもいいよね」

うっそー!

野菜ケーキで評判のそのパティシエを、前にテレビ番組で取材していた。

まだ若くてとても美人で感じの良い女性であったが、
既に世間では有名らしく雑誌やテレビ、イベントに引っ張りだこのようだ。

わたしは野菜ケーキなるものは野菜が主で出来ているから
そう呼称するのかと思い込んでいた。
野菜だけで作るケーキはどんなに工夫しても限界があり、
健康に良くてもおいしくなければ人気は出ないはず。
果たして野菜ケーキは既存のケーキと同じように
おいしいと言えるものだろうかと疑問を持っていたが、
テレビを見て納得した。

それは普通のケーキの生地作りとほとんど同じであった。
違っていたのは、ケーキ一個あたり大匙一杯程度の野菜ペーストを
混ぜ込むだけのものだった。

それ以外はバターも砂糖もそれ相当に使うもので、
ダイエットを気にする人が「いくつも食べられる」ものでないことは明らかである。
もちろん健康的にも。

テレビの取材者が「バターも結構使うんですね」と質問すると、
美人のパティシエは一瞬息をのみ、すこし気色ばんだ様相で言った。

「うちは新鮮な牛乳を使っていますから健康に良いです」

あれ?

バターを使うのと、牛乳の新鮮さがどこで入れ違ったのか。

わたしの思い過ごしかもしれないが、彼女の表情の変化を注意深く見ていると、
彼女は自分の作るスイーツの限界を承知しているのではと思った。

ケーキはおいしくなければ評判にはならない。
たぶん今のレシピよりも多くの野菜ペーストを入れると、
味に問題が出てくるだろう。

確かに野菜は使っているから野菜スイーツには違いないが、
レシピで使うバターや砂糖の分量を考えると、
マスメディアが健康やダイエットに良いと、大騒ぎするような内容と言えるだろうか。

普通のケーキに比べたら、一部に野菜を使っているという気分的なもので、
使っていないよりはマシかなと思う程度のものに過ぎないと感じた。

子ども用に作ったナスのコンポート(砂糖漬けや砂糖煮にした果物)があった。
食べた子どもに取材者が感想を聞くと「あまーい」と言った。

また、うっそー!

ナスは調理してみるとわかるがとても味がしみにくい野菜で、
煮物にしても砂糖やしょうゆをジャブジャブ使ってようやく味がつく。

それが「あまーい」とは。

以前からあるフルーツのコンポートは、
果物の甘みでナスよりは使う砂糖の分量が少なくてすむはずである。
それらより砂糖を多く使ってまでわざわざナスでコンポートを作る意味はどこにあるのか? 

ひょっとして、「野菜を使った」をアピールするためではないのか?

わたしは感じの良い女性パティシエを非難しているのではない。
それは彼女のせいではないから。

マスメディアがテレビ画面や雑誌やイベントを通じて、
野菜スイーツが他に比べて健康やダイエットに良いとの印象を
過大に宣伝した結果、それが一人歩きしたものであり、
ケーキの材料の内容を知っている彼女は、
むしろ当初は過大評価に戸惑ったのではと、勝手に想像している。

当人の思惑を超えて過大評価する例は、
なぜか女性の「カリスマ〇〇」に多いような気がするが、
それらは話題づくりを演出するマスメディアの無責任さと、
それを受け取る側の女性の思慮のなさから生み出されるような気がしてならない。

他人の趣味嗜好にケチをつける気持ちは毛頭ないが、
なぜかこの手の情報に踊らされるのは子育て世代の女性が多いような印象を受る。

自分の頭で咀嚼しないで、情報を丸呑みにする母親が育てる子どもの将来を考えると、
この世代の思慮の欠如がとても気になるのです。



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