第112回  創意工夫の楽しさ

まだまだ毎日暑い日が続いていますが、そんな夏を乗り切るのには、
やはり栄養面と睡眠に気を遣うしかないと思っています。

睡眠の方は宵っ張りのクセが直らなくて苦労しているが、
その分、栄養面、つまり毎日の食事つくりには闘志を燃やしている。
 
子供の頃は母親から「危ないからだめ」と言われ、
台所へ立つことを禁止されていたので、
早く大人になって自分の好きなように作ってみたいと願っていたが、
就職して一人暮らしを始めたときは皮肉にもほとんど作らなかった。

最初は作っていたが、忙しい時期には帰宅時間が定まらなくて、
材料を無駄にしたりすることが多くなり、
ついにはほとんど作らない状態になってしまった。

結婚してからは食事つくりが命(?)になった。
長距離通勤を余儀なくされていたときも、
冷凍ものや出来合いの惣菜などはもちろん使わなかった。
手作りの味噌を仕込んだり、手でこねたパンも焼いたりして
せっせと手作りに励んだ。
食べてくれる人の存在は張り合いにも繋がるが、
根底には料理好きがあるのかもしれない。

自分でも不思議に思ったのは、とりたててレシピを覚えたわけでもないのに、
なぜかいろいろ作れるようになったことである。
あまり人を褒めることのない夫から
「どうしてこんな風に作れるんだ」と言われると、ますます張り切ってしまうが、
最も何も作れない夫族からすれば、すべてがそんな風に思えるのかもしれない。

当初はたしか「365日のおかず」の本やら、
ダンボールいっぱいに溜め込んだ新聞の切抜きやら、
料理雑誌やらのレシピ通りに作っていたが、わたしは物覚えが悪い。

砂糖を小さじ1杯、しょうゆを大さじ2杯のレシピを読んで、
いざ小さじ、大さじを用意すると、
「さて、小さじは砂糖か、しょうゆか? 1杯? いや何杯だ?」となり、
レシピに張り付いていなければ料理が出来上がらない状態がしばらく続いた。
当然のことながら時間がすごくかかり、それでいやになりかけた事がある。

世の奥様方で料理をするのが苦手という人が少なくない。
わたしの友人の中でも、せっせと手作りに励んでいるのはわたしくらいである。
大抵はレシピとの戦いに敗れるか、
またはレシピを解読するのが面倒と行き詰ってしまうのか。
あるいは最初からレシピなど見る気はないのか。

しかし、わたしは敗者復活戦に挑んだ。

その心境は
「毎日の食事作りにレシピなんか見ていられるものですか!」と開き直った。

子供のころから今までの人生で味わってきたいろいろな味を、
自分流に解釈してチャレンジしてみようと思い立った。

つまり、味の復元作業である。
そのとき初めて料理とは「創意工夫」ということに気がついた。

文章を書くのも下手なお絵かきでも、
創意(独自性と解釈しているけれど)が大切と思っているから、
この創意工夫が自分の感性にぴったり合ったらしく、
結果として料理好きになったのである。

そんなわたしがとても気に入った番組が、
以前NHKの衛星放送番組で放映していた「ナイジェラの気軽にクッキング」

しかし、これはレシピ参考のためではなかった。
あくまでも料理人ナイジェラの楽しそうな調理の姿を、
ドラマみたいな感覚で観て楽しんでいただけである。
なぜならナイジェラのレシピは生クリームをたっぷり使った、
アチラ風のこってり濃厚レシピが多いので、
健康の観点から参考にはできなかったから。

しかし、「気軽に」とうたっているだけに、本当に気軽なのだ。
見ていた限りでは、彼女が調味料や材料でメジャーを使用することはなかった。
調理室もスタジオではなく、個人住宅のキッチンである。
それだけでもかなり親しみの持てる雰囲気であるが、
ミントを使うときは「ちょっと庭で摘んでくるわね」と、
庭に出て行く彼女をカメラが追う。
そして実際に摘んできたミントを使う。

とにかく、彼女の調理の所作は荒っぽい。
卵をボールに割り入れ、卵黄を取り出すときは
自分の手を使ってボールの中から直接卵黄を掬い取るくらいは朝飯前。

ここでは日本の料理番組のように、助手がうやうやしく差し出す材料を、
先生がもったいぶった所作で鍋に入れるという、
かしこまった儀式はまったく存在しない。

アンジェらはなんでもひとりでこなす。

材料を事前に刻んで用意することもないから、
すべてその場でちぎったりしてサッツサッツとこなす。
つまりかなり簡単そうに見える。
じっくり見ても実際に簡単なのだ。

究極はアンジェらの飾らない人柄である。
彼女は美人女優さんのような完璧な美人顔であるが、
手についた生クリームをペロリとなめるから、そのギャップに度肝を抜かれるが、
それくらいはまだご愛嬌。
なんと、大きなヘラについたジャムを下から上までそのままペローリとなめて
「うーん、おいしい!」と、ニッコリする。

ナイジェラのような「料理は気軽で楽しい」というコンセプトの料理番組が
日本にもあったら、まちがいなく日本人女性の料理嫌い人口>は
減るかもしれないと思っているが、ちょっと甘い?

奥様のおいしい手作り料理を食べたいならば、
夫族は奥様をおいしい料理を食べに連れ出すと良い、
と何かで読んだ覚えがある。
その心は、奥様においしいものの味を覚えさせなくて、
どうしておいしい料理が作れるのかということのようです。

ツマのおいしい手料理が食べたくて、
奥様を頻繁においしいものを食べに連れて行ったとしても、
ひょっとして<食べ逃げ>されるかも。
それを覚悟の上でやってね。


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