相続について

相続手続フロー

遺産分割協議

相続財産

法定相続人

法定相続分

指定相続分

遺留分

具体的な相続のおはなし

相続税

遺言

 相続とは、被相続人の死亡と同時に、自動的に起きる現象です。これは、誰しも一生のうち
に最低でも1回は経験するものです。相続について、正しい知識を身につけいざというときに困
らないようにしておきましょう。

1.相続財産

(1)相続財産・・・被相続人の全財産(一身専属権は除く)
@積極財産・・・土地、預貯金等のプラスの財産
A消極財産・・・借金などのマイナス財産
B特別受益財産・・・被相続人が相続人に生前に贈与した財産
 これら、全てを相続します。「借金は相続しない。」とは言えません。
 マイナスの方が多い場合は、相続の放棄あるいは限定承認ができます。

2.法定相続人

(1)法定相続人・・・法律によって決められた相続人

                 ・ 
                ・
                ・
        祖母 ーーーー 祖父 
      |
      |
       母 ーーー 父
                               |
            ーーーーーーーーーーーーーーー
            | | | |          |
            兄 弟 姉 妹          |
            |                  |
           −−                 |
           | |        被相続人ーーーー配偶者
           甥 姪                |
      ーーーー
      |  |
      子  子
   |
                             孫
                             ・ 
                             ・
                             ・


(2)法定相続人とその順位・・・法定相続人が全て相続人にはなりません。
以下の順位によって決定されます。

@配偶者・・・常に相続人になります。でも、離婚したらなれません。
        また、事実婚もだめです。法律上の妻だけです。       
A第一順位・・・子(養子縁組した養子も。逆に養子に出した子も(但し特   
         別養子除く))
・子が先に死亡していたり欠格、廃除に該当すれば代襲相続により、孫、曾孫、・・・と続きま 
 す。ただし、この場合、被代襲者が養子であった場合、縁組前に生まれた子は代襲者にはな
 れません。
B第二順位・・・直系尊属(父母等)。第一順位がいない場合に相続人になれ
 ます。
・父母がいなければ、祖父母、曾祖父母、・・・と続きますが、例えば、被相続人(亡くなった人)
 の父母どちらかが生きている場合、生きている父親または母親が相続し、それ以上上には 
 あがりません。また、養親でも可能です。
C第三位順位・・・兄弟姉妹。第一順位、第二順位がいない場合です。
 つまり、被相続人に配偶者も子も親もいない場合です。ここでいう兄弟には、全血(父母が同
 じ)半血(父母の一方のみ同じ)問いません。甥、姪に限って代襲相続できます。
※上位順位者の相続人が一人でもいれば、下位順位者の者は相続人になれない
※胎児について
 胎児が相続開始時(被相続人が亡くなったとき)いる場合は、胎児はすでに生まれたものと
みなされます。生きて生まれれば相続の権利を持ちますので注意が必要です。

(3)推定相続人の廃除と欠格

 @推定相続人の廃除
  被相続人が推定相続人に相続させたくないときにその者の相続権を奪うために家庭裁判 
 所に請求して廃除することができます。その対象は、兄弟姉妹以外の推定相続人です。しか
 し、簡単にはできず、廃除事由(虐待、重大な侮辱、著しい非行)に該当し諸事情を考慮して
 家庭裁判所が判断します。この廃除は、被相続人の請求、遺言で行うことができます。廃除
 されれば被相続人との関係で相対的に相続権を失います。
 A相続人の欠格
  これはミステリーファンならよくご存知のことです。つまり、被相続人や先順位の相続人を殺
 したり(殺そうとしたり)、被相続人が殺されたのを知っているのに告発や告訴しなかったりし
 た者。また、遺言を詐欺、強迫によりさせたり、取り消しさせたり、変更させたり、遺言書を偽
 造したり、変えたり、破いたり、隠した者は、法律上当然に相続権を失います。


3.法定相続分

(1)法定相続分・・・法律によって定まられた相続分

  法定相続分とは、民法によって定められた各相続人の相続分の割合です。これは、遺言に
 より相続分の指定(指定相続分)がない場合に、決定される割合であって、各相続人が必ず
 もらえる相続分ではありません。誤解のないように。

(2)基本的な法定相続分
  @配偶者がいる場合
    
   配偶者の法定相続分他の相続人の法定相続分
   配偶者と子2分の12分の1
   配偶者と親3分の23分の1
   配偶者と兄弟姉妹4分の34分の1
  
  A配偶者がいない場合
   前回の「ねこの手」でお話した順位で相続され、同順位者間の相続分は原則同じです。

(3)具体的なケースをみてみましょう。
  @配偶者と子
   遺産が1200万円、配偶者と子供が3人の場合、
    配偶者=1200万円×1/2=600万円
    子供1人=1200万円×1/2×1/3(3人だから)=200万円
                                            になります。

    ※養子がある場合でも子と同じ相続分になるし、養子にやった子がある場合(特別養子
      縁組除く)でも同じです。

  A配偶者と兄弟姉妹
 遺産が1200万円、配偶者と被相続人(亡くなった人)の妹と弟がいる場合
 配偶者=1200万円×3/4=900万円
 妹・弟=1200万円×1/4×1/2(2人だから)=150万円
    
    ※兄弟が異父異母兄弟(父または母が異なる兄弟姉妹)である場合、父母を同じくする
      兄弟姉妹の相続分の半分になります。

 他にも、直系尊属のみの場合、代襲相続の場合、子の中に非嫡出子(婚姻関係にない男女
から生まれた子)がいる場合、放棄があった場合など複雑な事例があります。その場合は専
門家にご相談ください。

4.指定相続分

(1)指定相続分
   指定相続分とは、遺言により、法定相続分とは異なる指定がなされた場合の相続分で 
 す。指定があるとこれは法定相続分に優先します。ですから、原則としてその指定に従って 
 相続分が決定されます。

(2)指定をするには遺言によることが必要です。被相続人が死ぬ前にあるいは死ぬ間際に 
 「わしの遺産は長男に半分、妻は3分の1を、残りを他の兄弟で平等に分けるように。」と言っ
 たとしても法律上は無効ですので注意が必要です。後々のトラブルを避けるためにはきちん
 と遺言することをお奨めします。
 
(3)指定相続した効果
  指定された相続分に応じて各相続人は、被相続人の権利義務を承継します。
  しかし、ここで注意が必要なのは、債務(借金)があった場合です。例えば、「この借金は次
 男に相続させる。」とした場合、その指定は相続人の間では有効ですが、債権者(お金を貸し
 た人)には対抗(「その借金は次男が相続したのだから長男のわしは知らん」と言うこと)でき
 ません。なぜなら、相続財産に借金もあった場合、財産の少ない相続人に借金部分を相続さ
 せてその後にその相続人を破産させて、他の相続人でプラスの財産だけを相続することがで
 きるようになって、債権者を不当に害することになるからです。借金は相続人全体が法定相
 続分に応じて相続することになるのです。

5.遺留分

(1)遺留分・・・一定の相続人が受けることを保障するために、遺産について法律上必ず留保
されなければならないこととされている一定割合

@ 配偶者のみ      配偶者1/2 
A 配偶者と第一順位者  1/4ずつ
B 配偶者と第二順位者  配偶者が1/3 直系尊属が1/6 

※兄弟姉妹には、遺留分は認められていません

遺言で、全財産を愛人や隠し子に譲るとしても、この遺留分に基づく請求を行うことによって@
〜Bの相続人は相続財産を相続することができます。
 
(2)遺留分侵害について
  遺留分(相続人に留保された一定の割合)を侵害した指定の効力はどうなるか、例えば、
「全財産を長女に相続させる。」とした場合、配偶者や他の子供がいた場合にはその人たちの
遺留分を侵害してしまうことになります。こうした指定は当然に法的に無効になるわけではな
く、遺留分を侵害された相続人が遺留分を出せという請求ができることになるだけとなります。


6.具体的な相続のおはな


(1)宇園(うその)家の相続(仲良し編)

   登場人物:宇園公平(被相続人)、宇園つね(公平の妻)、福田さえ(公平の長女で夫の益
          男とともに公平と同居している)、福田益男(さえの夫)、宇園勝利(公平の長 
          男、独身)、早川和歌子(公平の次女、既婚)

49日も終わり、そろそろ、相続の手続をしないといけない時期がやってきた。
最初の口を開いたのは長男の勝利だった。
「ねえさん、そろそろ相続の手続せんと・・・。」
「わかってるわよ、あんたにゆわれんでも。でも、母さん、すっかり、気を落としちゃ
ってるし・・・。どうしよう?父さん、遺言もなんもなかったんよね。」
「うん、何もなかったみたい。急だったもんね。」と口を挟んだのは次女の和歌子だった。

 そう、ついこの間まで元気に過ごしていた父、公平が心臓発作で倒れ、そのまま帰ら
ぬ人となったのだ。未だにこの家族には信じられない、いや、信じたくないことだった
が、父公平が死んだのは事実だ。そして、思いがけず相続が開始されたのである。

  「どう分ける?遺言がないということは、法定相続分で分けるか?」と勝利。
  「何、言ってんの!先に父さんの財産を調べなきゃ、分けようもないでしょ。」
  「そっか、それに相続人がぼくら兄弟と母さん以外におるかどうかも調べなきゃ。」
  「あんた、それどういう意味?まさか、父さんに隠し子がいるとでも言うの?」
  「でも、まさかってことも・・・。」
  「父さんに限ってそんなことはありません。」
  「母さん!」 いつのまにか母つねがそばに来ていた。
  
  「じゃあ、とりあえずは、相続人と相続財産を調べようよ。」と和歌子。
  「でも、どうやってやるのかねえ。」と不安げなつね。
  「母さん、ねえさん、僕に任せといて。相続人を調べるには、父さんが生まれてから死ぬま 
   での間の改製原戸籍謄本、除籍謄本をとるんじゃ。そしたら、父さんの子が全部載っとる
   けん、それで相続人がわかるはずじゃ。それと父さんの預貯金、保険関係、不動産なん 
   かも調べてとりあえず一覧表にしようや。この作業は母さんお願いな。」
  「あんた、よく知ってるわね。」
  「調べたんじゃ。相続っていやあ、お金が入るけんな。」
  「相変わらず、ちゃっかりしてるわね。」
  
   このようにまず、しなければならないのは相続人の確定と相続財産の調査である。
   被相続人、この例でいくと公平の生殖可能年齢(大体13歳くらいから)から亡く
  なるまでの間の改製原戸籍、除籍謄本をとることになる。実務的には、13歳から、というよ
  りは、生まれてからのものを取ったほうが無難である。この作業により、
  公平の妻、子の存在が明らかになるのである。
   また、財産調査は、所持品の中から預貯金通帳や手帳などを探し、預貯金の預け先を
  探して、他にもその金融機関等に口座がないか調べてもらう。また、固定資産税の評価
  証明書を基に不動産の登記簿謄本をあげてみる。他にも、生命保険などの保険関係、株
  券、ゴルフ会員権、自動車、骨董趣味があればそれら、などを調べる。更に忘れてはな
  らないことはプラスの財産だけではなく、借金、つまり、マイナスの財産も調査してお
  くことが大切。そして、その際、だいたいの価値を把握しておけば分割のときに役に立
  つのである。

  調査の結果、相続人はこの兄弟と妻の他はいなかった。また、財産は、中国銀行と津
 山信用金庫に預金、それに郵便局の貯金、不動産は、今住んでいる家とその土地、他に  
 は、生命保険、電話加入権、自動車1台、というふうだった。また、借金はないようだった。
 金額に直すと、預貯金で1000万円、土地家屋が1200万円、生命保険金が350
 0万円、その他自動車は10年落ちのもので金額はつかなかった。
  また、簡単に相続税の計算をしてみたが、基礎控除の範囲内におさまり、相続税の心配
 をする必要はなかった。もし、相続税が気になるようだったら税理士や税務署に相談すること
 をお勧めする。

「さて、どうする?」とまず口を開いたのはやはり勝利だった。
「私の希望を言うとね。」とさえが言い出した。
「私は今、益男さんと一緒にこの家に住んでるんだし、この先も住み続けることになると
思うの。勝利はいつか結婚して新しい家庭を作り出てくわよね。和歌子はもう出て行っ
ちゃってるし。だから、この家と土地が欲しいの。」
「いいわよ、ね、お兄ちゃん。私はもうお嫁にいってる身だから相続財産なんかいらないわ。な
んか形見になるもんでももらえればいいの。」と和歌子。
「和歌子がそう言うんなら、ぼくもええよ。僕と母さんで残りの預貯金を分けるよ。生命保険金
の受取人は母さんだから母さんのものにすればええ。自動車はもう古いけん処分しよう。」

 というふうに遺産分割協議が整ったら、それを文書にする。その文書のことを「遺産分割協
議書」という。ここでひとつ、勝利は勘違いをしている。それは、公平の生命保険はつねを受取
人に指定していたので、ここでいう相続財産には入らないのである。

「それで、今の内容を遺産分割協議書という文書にせんといけんのじゃ。」
「協議書って、どういうふうに書くん?勝利、書けるん?」
「いや、そこまでは僕だって無理じゃ。他の手続のこともあるけん、専門家に頼もうや。」

ここでいう専門家とは、不動産の登記なら司法書士、遺産分割協議書の作成や金融機関など
への手続は行政書士ということになろう。

こうして、遺産分割協議書を作成し、それを基に不動産の所有権の移転登記、金融機関の預
貯金払戻手続、自動車の手続を行うことになる。もちろん、その手続に必要な関係書類(戸籍
謄本、除籍謄本、改製原戸籍、戸籍の附表、印鑑証明、住民票、など)をそろえることになる。

こうして相続手続が終わっていくのですが、世の中この宇園家のようにうまくいくケースだけで
はありません。次は、もめるケースをご紹介します。

(2)宇園(うその)家の相続(争続編)

  登場人物:宇園公平(被相続人)、宇園つね(公平の妻)、福田さえ(公平の長女で夫の益 
        男とともに公平と同居している)、福田益男(さえの夫)、宇園勝利(公平の長男、
        独身)、早川和歌子(公平の次女、既婚)

  物語は、前回と同じ設定ですが、一通りの財産調査や相続人調査が終わった
 ところから始まります。

「さて、どうする?」とまず口を開いたのはやはり勝利だった。
「私の希望を言うとね。」とさえが言い出した。
「私は今、益男さんと一緒にこの家に住んでるんだし、この先も住み続けることになる
と思うの。勝利はいつか結婚して新しい家庭を作り出てくわよね。和歌子はもう出て行
っちゃってるし。だから、この家と土地が欲しいの。」

「ちょっと待ってよ、ずるい、お姉ちゃん。お父さんの残した遺産て、この家と貯金1000万円だ
けでしょ。この家と土地お姉ちゃんがとったら、少ししか残らないじゃない。」と和歌子。
「そうじゃ、姉さん。この家と土地は長男の僕が相続するんじゃ。」と勝利。
「いけんわ、お兄ちゃん。ちゃんと法定相続分で分けんと。」
「和歌子は嫁にいったんじゃけん、相続放棄せえや。」
「だめよ、嫁にいったけんゆうて、権利がなくなるわけないでしょ。」と和歌子も勝利も譲らない。
「あの、あのね。勝利、和歌子。この家だってそんな価値ないんだし、母さんの面倒誰がみるん
 よ。それに和歌子はいらんでしょ、この家なんか。」
「母さんの面倒だって僕でもみれるよ。それにこの家と土地、不動産屋さんに聞いたら2500 
 万円はするって言ようたで。」
「まあ、勝利ったら、しっかり事前に調査しちゃって。」
「とにかく、きちんと平等に分けようよ。」と和歌子は譲らない。
「まあ、まあ、兄弟仲よくしてん。死んだお父さんがあの世で悲しんどるで。母さんはお前たちの
 決めたことに従うから、きちんとけんかせずにしてん。」と悲しそうにつねが言った。

 もし、亡公平が「この家と土地はだれだれに、貯金は、だれだれに・・・」というような遺言でも
しておけばこのようなことにはならなかったのだが・・・。

 しかし、話し合いを続けた結果、全ての財産の価値を評価して、とりあえず、
それを法定相続分に基づいて分割することにした。

ここで、相続対象財産を整理しておく。
 不動産:家と土地(2500万円)
 預貯金:中銀、津信、郵便局(1000万円)
                     合計3500万円

次に相続人は、配偶者のつね、長女さえ、長男勝利、次女和歌子 である。

 法定相続分で分割すると、つねが2分の1で1750万円、子どもたちは、6分の1ずつで約5
83万円ずつとなる。

「じゃあ、この家どうするん?売らんと分けれんで。」と困った様子の勝利。
「いやよ、この家売るなんて。家族仲良く住んできた思い出が詰まった家なのに。」と泣き出し
そうな和歌子。
「でも、売らんとあんたたちの言うように分けられんでしょ。それとも、こうする?お母さんと私が
この家と土地を相続するわ。あとの貯金を2人でわければいいじゃない。」
「それじゃあ、お姉ちゃん、とりすぎよ。ねえ、お兄ちゃん。」
「そうじゃ、僕だってこの家ほしいんじゃ。」
「そういうけど、私と益男さんが出てったら誰が母さんの面倒みるんよ。勝利は仕事があるでし
 ょ。和歌子は和歌子の生活があるし。私が益男さんとこの家に住んで母さんの面倒みるのが
 一番いいの。」
「じゃけん、姉さんが取り過ぎだって言よんじゃがな!」と勝利が怒り出した。
 
 そのとき、

「勝利、よくお聞き。」と静かにつねが話し出した。
「勝利が大学に行くのに、父さん、一生懸命働いてお金を出したんよ。お金のことは言いたくな
いけど、そこまでお前たちが言うんなら教えてあげる。学費や仕送りで1000万円はいったん
よ。それに、和歌子。おまえを嫁にやるのに持参金、1000万円持たしてあげたじゃない。そん
なお金を加味して考えてもいいんじゃない?」
「だったら、姉さんはどうなん?」
「さえは、高校出てすぐ結婚したんで、たいしたこともしてやれんかった。益男さんも若かったん
 で、一緒に住むことにしたんじゃ。それに、結婚してからこの家のことをよう守ってくれた。」

 さて、現実の遺産以外にこうした相続人に生前に贈与した財産なんかがどう評価されるのだ
ろうか?
 これがいわゆる「相続分の修正」である。修正には「特別受益」と「寄与分」の考え方がありま
す。

 さあ、宇園家の相続、つねの一言でなんとなくややこしくなりそうな雰囲気ですが、うまくおさま
るんでしょうか?
 遺産分割でもめ始めた宇園家の子供たち。とうとう、つねさんが口をはさみ、ますます、混迷
の度合いを深め始めました。果たしてうまく分割協議がまとまるんでしょうか?

「でも、母さん、僕の学費なんて昔の話じゃろう。」
「そうよ、私の結婚のお金だって済んだ話じゃない。」と勝利と和歌子は納得しない。
「でも、たしか、そんな話も聞いたことあるわ。そうそう、典弘(のりひろ)さんが言ってたわね。 
 聞いてみる?」

ということで、典弘のところに相談に出かけたのであった。

「・・・ということなんだけど、典弘さんどう?」とさえが聞いた。

典弘は、少し考えてから

「う〜ん、半分当たっているというとこかなあ。少し、生前贈与と寄与分の話をするとな。」と話し
始めた。

「亡くなった人からようけい生前贈与を受けとった人とそうでない人が全く同じ相続分じゃ不公 
 平じゃろ。そこで、一定の生前贈与を受けとった人はその分相続財産を先にもらったとして考
 えるんじゃ。このことを特別受益というんじゃ。それをその人の相続分から差し引くことができ
 るんじゃ。」
「ようわからんけど、具体的に言うてや。」と勝利。
「具体的に言うと、例えば、住宅資金として、ある子が1000万円の資金をもらっとったとしよ 
 う。この1000万円が特別受益となるんじゃ。せえで、死んだ人が残した相続財産は現実に 
 残した相続財産にこの1000万円を加えたものが相続財産の総額となるんじゃ。ここまで、 
 わかるか? で、この総額から法定相続分を計算して、特別受益を受けた者は自分の法定
 相続分から1000万円をマイナスされる、っちゅうこと。金額を入れてみるとようわかる。実際
 の相続財産が2000万円だったとすると、これに1000万円加えた3000万円が相続総財 
 産じゃ。これを3人の子どもが相続人だったとすると、それぞれ、3分の1じゃから1000万円
 ずつとなる。で、うち一人は特別受益で1000万円もろうとるけん、その分マイナスして実際 
 はゼロとなるんじゃ。」
「よくわかったわ。でも、法定相続分が1000万円より少なかったら、1000万円との差額を返
 さんといけんの?」と和歌子が聞くと、
「いいや、そりゃあ、返さんでええ。もし、マイナスになったらゼロになるだけじゃ。」
「特別受益に当たるのは住宅資金だけ?他にもお小遣いとか学費とかプレゼントもなるん?」
「特別受益になるんは、「婚姻、養子縁組、生計の資本」のための贈与なんじゃ。具体的にいう
 と、さっき言うた住宅資金や学費、結婚費用、なんかかな。じゃけん、お小遣いやプレゼント 
 程度のものはそれこそ程度にもよるけど当たらんと思うよ。」
「それじゃあ、勝利の学費と和歌子の持参金は特別受益になるんじゃね。」とさえがうれしそう 
 に言った。
「そういうことになろうなあ。」
「次に寄与分の考え方じゃけど、亡くなった人に対して特別に貢献をした相続人には、寄与分 
 という権利が認められることがあるんじゃ。寄与分が認められるんは、相続人が亡くなった人
 の財産の維持または増加について、特別な寄与をした場合なんじゃ。」
「寄与分が認められたらどうなるん?」
「寄与分は相続財産に含まれんので、寄与をした相続人は、まず、その寄与分を相続財産か
 らもらうことができる。せえから、残った財産を相続人全員で分けるんじゃ。」
「じゃあ、私と益男さんが家をキリモリしてきたんは寄与分として認められるのね。」
 「いや、そう簡単には認められん。寄与分というのは、さっき言うたように、
  @被相続人の事業に関して、労務または財産を提供したとき
  A被相続人の医療看護をしたとき
  Bその他 となるんじゃ。さらに、その全部が寄与分となるわけじゃないんじゃ。特別な寄与
 じゃから、普通の扶養や看護、介護じゃあおえんな。」
 「じゃあ、どうやって認めてもらえるん?それに益男さんだって一生懸命お父さんに尽くしてた
 わよ。」
「益男くんは相続人じゃないけん、どんなに寄与してもおえんよ。寄与分が認められるんはあく
 までも相続人だけ。せえから、寄与分の額は、相続人によって受け取り方が違うけん、みん 
 なで十分話し合わんといけんじゃろうな。わしにもようわからんけん、専門家に相談したほう 
 がええじゃろうな。どうしても、決着がつかなんだら家庭裁判所で調停でもしてもらわにゃあし
 ょうがなかろうなあ。」
「そんなら、私の寄与分は難しいわね。でも、勝利と和歌子の特別受益がわかったんだからよ
 しとするわ。」とさえがニコニコしながら言った。
「なんか、遺産分割でもめとるようじゃけど、全員が合意せんと相続手続は前に進まんで。それ
 に、兄弟でもめることをおじさんは望んどったじゃろうか?」
「だったら、遺言でも書いといてくれりゃあ良かったのに。」と勝利が言うと
「そりゃ、そうじゃけど、死んだ後じゃあ書けんけんな。それより、これからのことをもう一度兄 
弟で互譲の精神でもって話し合ってみいや。」となだめるように典弘が言った。

 さて、昔みたいに兄弟仲よくなれるのか、それとも、決別してしまうのか?

 典弘のアドヴァイスが効いたのか何とか分割協議が整った宇園家。いよいよ、実務的な手続
きにはいるようです。

「まあ、典弘おじさんの顔もたてにゃあいけんじゃろうし、兄弟いつまでも喧嘩しとってもはじま 
 らんけん、そろそろ、決めようや。」
「そうね、私もそう思う。」
「うん、勝利や和歌子の言うとおりね。私も大人気なかったわ。」とさえが言う。
「大人気ないのは昔からじゃが。」
「こら、勝利!」と怒ったつもりが「わはははは・・・」と3人の笑い声に変わった。
「さて、勝利、どうするんだっけ?」
「うん、まず、この家と土地はねえさんと母さんが相続すればいい。あとの預貯金は僕と和歌子
 で半分こするけん、それでええじゃろ?」
「それでいいよ。」・・・ということで、早速手続きの段取りに入った。
「まず、遺産分割協議書を作ろう。今、僕が言った内容で作るんじゃ。それから必要な書類を 
 集めよう。必要なんは、まず、死んだ父さんの除籍謄本と戸籍の附票、これは、市役所でと 
 れる。それから、相続人全員、つまり、母さん、ねえさん、ぼく、和歌子の戸籍謄本、住民票、
 印鑑証明書。これもそれぞれの市町村役場で。あとは、この不動産の登記済証(または登記
 識別情報)、登記事項証明書、固定資産税評価証明書じゃな。登記済証は家にあろうし、登
 記事項証明書は法務局、固定資産税評価証明書は市役所じゃ。あとは、相続関係説明図。
 これで相続登記の準備ができる。」
「ふ〜ん、なるほどね。でも、遺産分割なんとか書や相続なんとか説明図って素人でも作れる 
 ん?」
「作れんこともないけど、登記申請や預貯金の払い戻し手続きなんかのことを考えるとまとめて
 司法書士や行政書士の専門家に任せたほうが早いし確実だと思う。」
「で、預貯金は?」
「預貯金は、それぞれの金融機関によって様式なんかが違うらしいので、事前に聞いといた方
 がええな。でも、だいたい、遺産分割協議書、預金通帳、届出印、キャッシュカード、被相続 
 人の除籍謄本、相続人全員の戸籍謄本、印鑑証明書なんかをそろえればいいと思うよ。あ 
 と、貯金は、郵便局で聞こう。」

 ・・・こうして、宇園家の相続は無事終わったのでした。


(3)おまけ、 勝利の相続何でもQ&Aコーナー

はい、みんな、勝利です。僕のリーダーシップで無事我が家の相続も終わりました。今回のこと
でいろいろ勉強したんでみなさんからの質問にお答えします。
さあ、どんどん、質問してね。

Q1.葬式やお墓のお金って誰が負担するんですか?
A1.はい。誰が負担するっていう法律的な根拠はないし、判例なんかも分かれています。で
も、大まかに分類すると次の4つの考え方に分けられます。
@喪主がすべて負担する。
A相続人全員で負担する。
B遺産で負担する。
C家庭や地域の慣習による。
ですから、ここは相続人間でよく話し合うことが大切ですね。

Q2.父が死んで半年くらいたったとき、突然父に金を貸しとったという金融業者が来て、何百
万も返せ、と言われました。相続放棄も考えましたが、放棄するには死んだ後3ヶ月以内に手
続きしないとだめだと言われました。どうすればいいんでしょうか?

A2.それは大変ですね。確かに相続放棄は相続開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判
所に申し立てをしないといけませんが、あなたのようにたくさんの借金があったのなら相続しな
かったのに、というようなことが認められれば3ヶ月を過ぎても放棄が認められることがありま
すのであきらめずに家庭裁判所に申し立てしてみましょう。

Q3.私は主人とはずっと内縁の妻でした。主人には別れた奥さんとの間にお子さんが2人いま
したが、私との間にはいませんでした。先日亡くなった主人は会社経営をしていて少しばかり
財産がありました。そしたら、前妻のお子さんが、私には相続権がないのだから遺産はすべて
もらっていく、と言い、今住んでいる主人名義のマンションも出て行くように言われました。
主人の財産形成に少なからず寄与してきたつもりですが遺産はもらえないのでしょうか?

A3.お気の毒ですが内縁の妻には相続権はありません。どんなに尽くしてもご主人の遺言で
もない限り遺産を相続することはできません。

7.相続税

 相続するにあたり、もっとも関心が高いのは実は相続税かもしれません。
 相続税について大まかにご説明します。
 本当に、相続税がかかってくるのか?また、どれくらいかかってくるのか?その算定方法
は?ってことは、税理士さんにご相談されることをお勧めします。

1.相続税とは

相続税は、「正味の課税遺産総額」が基礎控除額を超えるときに課税されます。つまり、本当
に大雑把に言えば、相続開始時の遺産総額から非課税となる財産を引き、さらに、相続債務
(借金)を差し引き、さらに、葬儀費用などの費用も差し引いたものが税法上の遺産額となりま
す。これに、相続開始前3年間に贈与された額を足したものが「正味の課税遺産総額」といい
ます。
ここから基礎控除を引いて0以下になれば相続税は課税されず、申告義務も発生しません。プ
ラスになれば、被相続人が亡くなった日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告をしなければ
なりません。
ちなみに、相続税の納付義務を負うのは、全体の5%くらいだといわれています。

2.課税の対象となる財産とその評価

相続税の計算をするには、対象となる財産の評価をしなければなりません。その評価方法は
国税庁によって定められていますが、ここでは、ごく簡単に説明しますが、詳細は税務署か税
理士さんにお尋ねくださいね。
@宅地・・・路線価方式と倍率方式があります。そのほか、小規模宅地等特例や貸家をしてい
る場合など評価方法の特例があります。
A家屋・・・固定資産税評価額によります。
B株式・・・取引相場などによります。
Cその他評価の対象となる財産には、社債、手形、預貯金、貴金属、自動車などがあります。
また、民法上は相続財産ではないのですが、退職金や生命保険金も相続税の対象となる場合
があります。

3.非課税財産

相続税がかからない非課税相続財産もあります。
@ 墓所、仏壇、位牌、仏具など
A 宗教、慈善、学術等公益を目的とする事業を行う人が相続した場合
B 死亡退職金・死亡保険金の非課税分(500万円×法定相続人数)

4.相続財産から控除することができるもの

@ 葬儀費用
A 被相続人の債務

5.相続税っていくらくらいかかるの?
(1)基礎控除
まず、基礎控除できる金額があります。
それは、「5000万円+1000万円×法定相続人数」で計算できます。具体的に計算すると、
法定相続人が4人いる場合、5000万+1000万×4人=9000万円の控除ができます。ち
なみに、法定相続人には、養子も含まれますが、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場
合は2人までしか含めることはできません。  
なぜなら、養子を増やして相続税を不正に免れるのを防ぐためだからです。

(2)相続税の計算
   相続税を計算するには、課税相続財産を法定相続人が相続分どおり分けたものとして計
算します。そしてその取得額に応じた税率で相続税額を出します。
   その表を下に表示します。
   法定相続分に応じる取得額     税率       控除額
    0〜1000万円           10%        −
   1000万円超〜3000万円     15%      50万円
   3000万円超〜5000万円     20%     200万円
   5000万円超〜1億円        30%     700万円
   1億円超〜3億円           40%     1700万円
   3億円超〜               50%     4700万円

   で、各相続人の相続税額は、上記の表で出した相続税を実際に相続した分に応じて按分
  し、さらに、各個人に認められた控除・加算を行い、税額が決まります。

(3)税額の控除・加算
   各相続人個人の相続税額から控除されたり加算されたりするものがあります。
@配偶者控除・・・配偶者の取得した財産が1億6000万円以下か法定相続分相当      
           額以下の場合は配偶者には相続税がかかりません。
A贈与税額控除
B未成年者控除
C障害者控除
D相次相続控除
E外国税額控除
F相続時精算課税分の贈与税額控除
G税額加算・・・財産を取得した者が被相続人の配偶者、一親等の血族以外の者であるとき 
         は20%加算されます。

  こういった控除等を受けるには、定められた期限内に所定の手続き等を行う必要がありま
す。相続が開始したら、すぐに専門家(行政書士、税理士、司法書士)にご相談ください。

6.相続時精算課税制度

  この制度について簡単にふれておきます。この制度は、被相続人が生前、その相続人に
対して財産を贈与する場合、一定の要件を満たす贈与については、贈与税の対象とせず、相
続時に相続税で精算する、という制度です。一見、高い税率の贈与税の対象とならないのでよ
さそうですが、様々な制約も受けますので、この制度の利用を考えるときは必ず税理士にご相
談くださいね。


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