白雲の 龍田(たつた)の山の 滝の上の 小按(をぐら)の嶺に 咲きををる 桜の花は 山高み

  風しやまねば 春雨の 継ぎてし降れば ほつ枝(え)は 散り過ぎにけり 下枝(しずえ)

      残れる花は しましくは 散りなみだれぞ 草枕 旅行く君が 帰り来るまで

龍田山を越える道沿いにある滝の真上の小按(をぐら)の嶺に、枝もたわわに咲く桜の花は、山

が高く吹き下ろす風がやまないので、その上、春雨もこやみなく降りつづくので、梢の花はもう

散り果ててしまった。下枝に咲き残る花よ、もうしばらく散り乱れないでくれ。難波へおいでの

御主人が帰りにまたここをお通りになるまで。

         我が行きは 七日に過ぎじ 龍田彦 ゆめこの花を 風にな散らし

私たちの旅の日数は、七日もかかることはありますまい。龍田の神様、どうか、この花を風に

散らしたり、ゆめゆめなさらないで下さい。

今、奈良市内から大阪へ行くには、車ならば阪奈道路か国道25号線、電車なら近鉄かJR関西

本線を利用する。一方は生駒山を越え、もう一方は竜田もしくは大和川を通る道てある。

都が奈良に遷ってから、特別な時を除いて難波への道は急峻な生駒越えを避けて、竜田路を越

えた。恐らく郡山から斑鳩を経て、竜田に向かったのであろう。生駒と比べ、はるかに迂回路で

あった。この歌は、年代には諸説あり、はっきりしないが、平城宮の高官たちが、用事で難波に

下った時、龍田山の桜が上の方は風に散らされてしまったが、下の枝に残っている花はどうか戻

ってくるまで散らないでいてほしいという意をこめている。反歌にこの旅はわずか7日ほどなのだ

から帰るまでけして花を散らさないようにと風の神様である龍田彦に祈念しているので゛ある。

龍田彦  「龍田大社」案内版より

龍田大社は今からおよそ2100年の昔、風の神様、気の守護神として龍田の地にお祀りされ、

桜、紅葉の名所として万葉古今等にも親しまれ『龍田の風神さん』と広く人々から崇敬されてまいり

ました。


龍田大社

龍田大社 風神 屏風

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春の竜田川