明日香川石橋 稲淵

      明日香川 明日も渡らむ 石橋の 遠き心は
             思ほえぬかも
     
  明日香川を明日も渡って逢いに行きましょう。私の心は石橋のように
      飛び飛びじゃなくて、ず〜と貴方のことを思っていますよ。


    
 万葉学者猪股静彌先生の「恋のうた 花の歌」の連載より
『歌の石橋は、対岸に渡るため川中に置いた飛石です。明日香は素晴しい。
万葉人が飛び渡った石橋。村の若者が歌に詠んだ石橋が、今もしっかりと
飛鳥川に埋って村人の渡り石になっています。飛鳥川の石橋は、万葉時代
の若者たちの恋の通い橋であったのです。若者たちは対岸の村で暮らす恋
人の家に、夕べ夕べに石橋を渡って行くのです。この通い橋を、明日も明後
日もいつまでも通って行きたいのです.歌の「石橋の遠き心」と言うのは、石橋
の石と石との間に間隔があるような、間遠(まどう)な心、遠くはなれた心を言う
のです。そんな心を自分は思いもしないよ、と若者の心意気を示した表現です。
この歌の作者は、村の若者たちです。一人の歌人が作ったのではなく、村の
若者たちの共通の願いが結集してこの歌になったのです。万葉時代は恋人も
夫婦になった男女も、昼はそれぞれ家で農業に励み、夜、男性が女性のもとに
通って共寝すると言う暮らしぶりであったのです。明日香村の若者たちは、この
相聞歌に少しばかり節をつけ、口笛吹きながら石橋を渡って彼女の家に急いだ
のです。彼女は庭に出て、夕月を仰ぎながら、川風の送ってくる彼の口笛の声
を待っていたのです』
                             写真は「恋のうた 花のうた」に採用されたものです。


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