晩秋の奈良若草山より東大寺を望む
人皆は 萩を秋と言ふ よし我は 尾花(をばな)が末(すゑ)を 秋とは言はむ

                                 作者不詳  巻10‐2110

世間の人たち皆は萩を秋の風情の代表という。だが、かまうもんか、私は

尾花を、秋一番の風情と言おう.


尾花とは薄(ススキ)の花穂のことを言う.その形が、けものの尾に似ている

からである。“よし我は”―決意と断定して、大見栄を切っているような口ぶり

が面白い.美味繊細な萩よりは、一見地味なススキのほうが好き、というのは

ちょつとヘソ曲がり的な気分がある。個性的である。だが、この作者ひとり、

世間の評判からはなれてススキびいきを叫んでいるかと思うと、あながちそう

でもない。山上憶良の秋の7種の歌を紹介しょう。

秋の野に 咲きたる花を 指折(およびお)り かき数ふれば 七草の花

萩の花 尾花葛花 なでしこが 花をみなえし また藤袴 朝顔の花


この秋の七種の花でも、尾花は萩についで2位の位置を得ている。

笠金村の旅の歌にも、萩と尾花の取り合わせが見られる。

伊香山(いかごやま) 野辺に咲きたる萩見れば 君が家なる 尾花し思ほゆ

伊香山は琵琶湖の北端木之元町にある山という。伊香山のこの野辺に咲いて

いる萩を見れば、あなたの家の庭の尾花が思い出される。


この歌を贈った相手の家で、尾花の宴なども開かれた思い出などもあるのでは

なかろうか。とすれば“人皆は萩を秋と言ふ”の歌も、尾花の宴席で詠まれた歌

ではなかろうか、と思われてくる。             万葉集「花語り」清川妙 著より
 

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