馬酔木あしびなす 栄えし君が 掘りし井の 石井の水は 飲めど飽かねかも

                       「万葉人の四季を歩く」板倉義孝著より

咲き誇る馬酔木の花のように栄えたあのお方が掘られた井戸、その石で

組み上げた井戸の水は、いくら飲んでも飽きないことだ.


ある高貴な人にゆかりの井戸を誉め称えた歌.石を積んで頑丈に囲んだ

井戸は、その所有者の富裕と威勢を示したことでしょう.その繁栄ぶりを理

解させる表現が「馬酔木なす」であった.馬酔木の花が聖なる白い色で、稲

の花のように下を向いて多量に垂れ下がって咲く様に、穀物の豊かな実り

の保証を見ていたのであろう.豊穣を予祝するめでたい花であったのだ.

その呪力を「栄えし君」は負う人であり、井戸もそうなのである.その井戸の

水は、神聖で豊かな美味で、飲んだ者に幸をもたらすことになる.水の湧き

出る井戸は泉のあの世からこの世への神.霊魂の通路でもあり、境界的領

域でもある.馬酔木は神聖な花だから、次の歌のように恋の比喩とされると

き、その恋の鮮烈で豊かな呪力を付与し、その実現の可能性を感得させる

のである.我が背子に 我が恋ふらくは 奥山の 馬酔木の花の 今盛りなり

馬酔木はは奈良市中の至るところに、奈良公園など、特に古社寺の境内に

多く見られる.古木が多いのは、鹿に食べられないからだといわれる.春日

大社から新薬師寺への近道やその春日大社の境内は特にみごとです.人

があまり注目していないが、東大寺の国宝大湯屋の傍らの土塀を超す大木

も見事です.
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東大寺二月堂大湯屋