三輪山 山麓 檜原神社
行く川の 過ぎにし人の 手折らねば うらぶれ立てり 三輪の桧原ひばら

                        柿本人麻呂歌集  巻7‐1119

行く川の流れのように私のもとから消え去ってしまったあの人が、插頭に手折る

ことはもうないので、心なしかしょんぼりと立っている、三輪の桧原は



                                  「わたしの万葉」犬養孝著より

万葉の昔、三輪の檜原神社のあたりは、見事な桧におおわれていたのでしょう.

しかし、今では、何処が檜原かな、と思うほど桧は見られません.檜原神社の御神

体の檜原山は、殆どが赤松です.三つ鳥居の後ろには、ほんの申し訳程度の数本

の若い桧があるだけです.文字通り「うらぶれ立てり……」の檜原神社の桧です.

「人の世の常とはいえ、あの人も、もうこの世にはいない.そしてあの人も……

青々と茂っていた三輪の檜原も、親しい人達がいなくなって、どこかしょんぼりと見

えるねぇ」うらぶれ立っているのは、三輪の檜原ではなく作者その人であるようです

ね.川の水が流れていくように、人の世も流れて行く.やがては自分も消えて行か

なければならない.それは十分わかっているけれども、やはりやり切れない寂しさに

襲われるものです。亡き人を偲び、自分の行く末を考えて、三輪の檜原に佇む人の

姿が想像されます.檜原神社は、三輪山の北西の山辺の道にあります.鳥居から

みかん畑の間を、西に農道がのびています.檜原神社からその農道を5分も歩きま

すと、井寺池に出ます.西南には大和三山が、遠く西の方には夕日の綺麗な二上

山が望めます.そしてふり返れば、目の前に三輪山がそびえています.その三輪山

が池に写る姿を楽しみ、目を上げれば万葉ファンには馴染み深い巻向山や弓ケ嶽

も目のあたりです.井寺池は、万葉の回転展望台のような素晴らしい場所です.春

霞の中、みかんの色づく秋、そして人の少ない冬、季節はいつでもかまいません.

故郷のような懐かしい大和の風景が、私達を迎えてくれます.

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